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【行政法】義務履行確保の全体像──一般的ルールから行政処分、代執行・強制徴収まで3段階で理解 #放送大学講義録(行政法第2回その6)

ーーーー講義録始めーーーー

 

(3) 行政上の義務履行確保
3つ目は、行政上の義務履行確保ということですね。これも規制行政の特徴です。人々に義務を課すというんですが、義務を課しただけでは不十分で、その実現を図らないといけないということになります。

この段階を見ていくと、まず法律や法規命令が定められて、人々に義務を課すと。人々が様々な義務を負うという段階がありますね。例えば、食品衛生法の6条で、企業や個人が守るべきルールが定められているように、これこれこういうことを守ってください、というルールが法律で定められると。ここは、言い方を少し丁寧にすると、食品衛生法6条は、一定の不衛生食品などについて、販売や製造、調理などを「してはならない」と禁止する条文でして、結果として事業者等に対して「しないこと」を求める不作為の義務が課されている、そういう構造になりますね。

この場合では、不特定多数のものに対するルールなので、ルールの内容は抽象的・一般的であると。特定の事業者ではなくて、広く国民や事業者はこういったルールを守るべきであるという、そういう形で定めるので、一般的・抽象的ということになります。

実際に義務違反があった場合、次はどうなるのか。違反者に行政処分を行うという段階がありますね。出てきたように、豚肉の生食規制に関する基準に反すると行政処分を受ける可能性がある、そういう説明がありましたけれども、例えば、基準に反して豚肉の生肉を提供した飲食店の経営者に対して、営業停止を命じる、といった場合ですね。ここはあくまで「例」ですが、食品衛生の分野では、違反の態様や危害の状況などを踏まえて、営業停止や営業禁止等の処分が検討されることがあり、実務上は処分基準で考慮要素が整理されています。

この場合、この営業停止命令は行政処分というふうに呼んでいますけれども、特定の個人や企業に対して、個別の効果を及ぼす形で、一定の不利益や義務の履行を求めるということになるわけです。この場合は、内容が個別的・具体的であると。

一般的・抽象的なルールを定めて、その違反者に対して行政処分という個別・具体的な形で働きかけると。具体的に営業停止といった、個別・具体的な効果を伴う措置が問題になるということになるわけです。

こういう一般性―一般的・抽象性から個別・具体性に変わる、その段階が非常に重要なんですね。特に、また後ほど説明しますけれども、行政裁判ですね、行政裁判の局面で、この具体的・個別的な命令である行政処分か否かという重要なポイントがありますので、個別性と一般性という違いについて覚えておいてほしいと思います。

3つ目の段階として、じゃあこの行政処分―営業停止といったものが出ても従わない、あるいは一定の義務を履行しないという場合には、強制的に義務を実現させるという仕組みがありまして、これが「義務履行確保」ということになります。ここで大事なのは、義務履行確保というのは、将来に向けて行政目的を実現するための強制手段、いわゆる行政強制の領域で、典型的には、代執行、執行罰、直接強制、行政上の強制徴収などが挙げられる、という整理になります。

そして、ここで混同しやすいのが行政罰ですね。行政罰は、過去の義務違反に対する制裁でして、義務履行確保(行政強制)とは区別して整理するのが通常です。ですので、義務を守らせる仕組みを説明するときは、行政処分での是正、行政強制での履行確保、そして制裁としての行政罰、といった形で見ていくと分かりやすいと思います。

この義務履行確保のポイントですね。強制的な権力行使で、人々の意思に反して決まりを守らせる。人々が、その義務に従いたくないと言っている場合でも、一定の要件と手続のもとで、強制的に義務に従わせるということがポイントになります。

前回見たのは、古物商の許可を受けずに営業した経営者ということですが、この場合は、刑事罰の対象となり得るという形で、制裁によって間接的に義務の履行を促している、というふうに整理すると分かりやすいですね。つまり、ちゃんと許可を受けない場合は、罰則の対象になり得るので、それが抑止力になって、結果として義務の履行が促される、ということになります。

他にも「代執行」というものもありまして、これは、行政が義務者に代わってその義務を履行するという仕組みがあります。廃棄―有害な食品の廃棄を命じる場合にですね、この廃棄義務というものを、営業業者が実施しない場合・履行しない場合、一定の要件のもとで、行政庁が自ら、あるいは第三者をして、義務者のなすべき行為を行い、その費用を徴収できる、というのが代執行の基本構造です。ここで重要なのは、「他人が代わってできる行為」であることなど、代執行には要件と手続がある、という点ですね。

それから「強制徴収」ですね。これは、税などの金銭納付義務を履行しない場合に、差押え等によって強制的に徴収するという類型でして、義務履行確保の中でも、金銭義務に特有の手段として位置づけられることが多いです。

国民の利益を守るための手段、それを着実に実行して、公益を守ることが大事になってくるんですが、やはり基本的人権への影響もあり得るので、できるだけ慎重にしないといけないということになります。他の手段がない場合のみ許容される、という形で要件が組まれているものも多いということになりますね。特に代執行は、他の手段で確保が困難で、放置が著しく公益に反するといった要件が条文上も意識される、ということになります。

実際、日本の現状について、義務履行確保がどれくらい積極的に実施されているのかというのは、分野や自治体、事案によって差がありますし、ここで統計的な裏付けを示せるわけではありません。ただ、一般論として、直接強制や代執行は要件・手続が厳格で、運用が慎重になりがちだ、と説明されることは多いですね。

ちょっと複雑でちょっとわかりにくい話だったかもしれませんが、この3つの段階があるんだということになりますね。義務の設定から行政処分、そして履行確保と。一般的・抽象的なものから個別・具体的なものへ、そして義務の実現の過程という形で段階化されるってことを覚えておいてほしいと思います。

 

段階 典型例(この講義の文脈) 性質
① 義務(ルール)の設定 食品衛生法6条の「…してはならない」(禁止) 一般的・抽象的(不特定多数)
② 行政処分(個別の是正・不利益) 違反に対する営業停止・営業禁止等(※例示) 個別的・具体的(特定名宛人)
③ 義務履行確保(行政強制) 代執行(要件・手続あり)/金銭義務なら強制徴収 将来に向けて目的実現(行政罰と区別)