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風営法は感染症対策に使えるのか?目的外利用(権限濫用)を行政法で整理する #放送大学講義録(行政法第15回その3)

ーーーー講義録始めーーーー

 

風営法の目的と感染症対策の限界

風営法の目的
それでは、風営法の目的を見てみると、善良の風俗そして清浄な風俗環境を保持するというのが基本的な目的として宣言されています。これは第1条の条文ですね。

ただ、善良の風俗といっても一体何のことかというのはちょっとわかりにくいと思いますが、これは警察庁が示している解釈運用基準(通達)では、「国民の健全な道義観念により、人の欲望を基盤とする風俗生活関係を善良の状態に保持すること」というふうに説明されています。

これは第7回で見た行政規則(行政内部の基準)の一種でして、法律の意味内容を行政庁がより詳しく説明しているということになりますね。ただこれは、裁判所を拘束するものではないのですが、一応行政側の説明としてはこのように説明されているということになります。

風営法の目的の具体的意味
これもあまり具体的な基準ではないのですが、結局、風営法の目的というのはどういうことなのかということを噛み砕いて説明すると、人の欲望に関わる営業について、その営業態様が過度なものとなって、人々に不利益が及びやすいということですよね。

例えば、射幸性が問題となり得る遊技の分野では、射幸心を過度に煽ることによる社会的弊害、依存の問題などが指摘され得るわけです。

あるいは性風俗関連の営業についても、地域の生活環境への影響が問題となることがあるわけです。ただここは注意が必要で、いわゆる「売春」は売春防止法で定義される別の概念ですし、性風俗関連特殊営業を直ちに「売春そのもの」と同一視してしまうのは正確ではありません。

もう一つ、ここには清浄な風俗環境というのも出てきますが、警察庁の解釈運用基準では、様々な風俗生活関係から形成される地域の風俗環境その他社会の風俗環境を清浄な状態に保持すること、というふうに説明されています。

ですから、こういった風営法の目的というのは、善良の風俗と清浄な風俗環境の保持、そして少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止を柱として、そのために営業時間・営業区域等の制限や業務の適正化を促進する、という枠組みにあることを覚えておいてほしいと思います。

目的の解釈の変動性
もちろん、こういった善良とか清浄といった目的は抽象的なので、その時々の行政側の解釈、あるいは裁判所の解釈によって、具体的なあてはめの射程が問題になることもあるんですね。例えば、かつてはダンスホール等の営業形態が風営法の規制対象として扱われてきた経緯がありましたが、2015年の改正では、一定のダンス営業が規制対象から外されるなど、規制のあり方が見直された面があります。

感染症対策との関係
この点はさておきということで、風営法に基づく規制権限は、この善良の風俗・清浄な風俗環境の保持等という目的に照らして行使されるべきであって、目的から外れた権限行使は問題になります。
感染症の防止といった目的は、感染症法のように、感染症の発生予防・まん延防止を通じて「公衆衛生の向上及び増進」を図る、という目的を掲げる法律の枠組みで扱われるのが基本です。

ですから、感染症対策が重要だということ自体は当然としても、そのために何の権限を、どの法律目的の下で、どこまで使えるのかが問題になります。風営法の立入等の権限は、条文上も「この法律の施行に必要な限度」に限られますし、解釈運用基準でも、犯罪捜査の目的や他の行政目的のために行うことはできない、例えば保健衛生上の見地から調理場の検査を行うこと等は認められない、といった形で限界が示されています。

そのため、風営法に基づく立入調査が、実質的に感染防止対策“だけ”を目的として行われていると評価される場合には、目的外利用、ひいては権限の濫用と評価され違法となり得る、ということになります。
そして、もし違法な権限行使によって損害が生じ、故意または過失などの要件も満たすなら、国家賠償法1条に基づく賠償責任が問題となり得る、ということですね。

さらに、この風営法に基づく営業停止処分といった権限もあるのですが、当然これらも、風営法の目的の枠を外れて、感染防止対策“だけ”のために行使してしまうと、目的外利用として違法となり得ます。
ですから、感染防止対策が不十分、例えばマスクの着用が徹底されてないといった事情だけを理由に、直ちに風営法に基づく営業停止処分にする、という形は、少なくとも風営法の目的・権限構造との関係で慎重に検討されるべきであり、安易には正当化できない、ということになるわけなんですね。

 

図表:目的(風営法)と目的(感染症法)/権限行使の限界

 

観点 風営法(風営適正化法) 感染症法
目的(条文) 善良の風俗・清浄な風俗環境の保持、少年保護等+業務の適正化  感染症の発生予防・まん延防止を通じ公衆衛生の向上及び増進 
立入等の限界 「この法律の施行に必要な限度」/他目的のための行使は不可(解釈運用基準で具体例)  目的に沿った措置として設計(条文体系で対応) 
論点の核 目的外利用(権限濫用)になっていないか 目的・要件・手続に沿っているか