ーーーー講義録始めーーーー
# 【第2回】雇用区分の多元化と雇用ポートフォリオ:非正規社員の量的基幹化
非正規社員増加の経緯
それでは、非正規社員がどのような経緯を経て増えていったのでしょうか。1990年代から現在に至るこの30年余りの動きを簡単に振り返ってみましょう。
1990年代初頭、日本はバブル経済の崩壊後、景気の低迷と雇用環境の悪化が進みました。 とりわけ1993年から2005年頃までの約13年間は、多くの企業が新卒採用の枠を狭めたため、「就職氷河期」と呼ばれました。
この時期、日本では非正規社員の拡大が幅広い産業で見られるようになりました。長期雇用を前提とする正社員の配置が業務内容の中心部門に限定される一方、周辺部門を非正規社員で補う動きが加速しました。
量的基幹化とは
このように、非正規社員が量的に増え、雇用者に占めるウエイトが高まっていく現象は、しばしば量的基幹化(量的な拡大としての基幹化)として論じられます。
量的基幹化を考えるうえで重要な変化の1つは、男性非正規社員の比率上昇です。公的資料(労働力調査等を用いた整理)では、男性の非正規比率が長期的に上昇していることが示されています。 その結果、家計を支える立場の者が非正規社員として働いていることも、以前に比べて見られるようになってきました。
(図表)男性の非正規比率の推移(例:労働力調査等を用いた整理)
|
年 |
男性:非正規比率(%) |
|---|---|
| 1985 | 7.4 |
| 1990 | 8.8 |
| 1995 | 8.9 |
| 2000 | 11.7 |
| 2005 | 17.7 |
| 2006 | 17.9 |
| 2007 | 18.3 |
| 2008 | 19.2 |
| 2009 | 18.4 |
| 2010 | 18.9 |
※上表は、資料中に示された数値列(男性の非正規比率)をそのまま整理したものです。
※雇用形態の区分は「勤め先での呼称」による整理である旨も、同資料で明示されています。
不本意型と本意型
非正規社員の中には、雇用が安定し、相対的に賃金も高い正社員として働くことを望む者もいます。
本当は正社員で働きたいのに、非正規社員で働いている者は不本意型と呼ばれ、自発的に非正規社員として働く本意型と区別されています。
就職氷河期に就職活動を行った世代(例として1993年から2005年頃に学校を卒業し就職活動を行った世代)では、非正規社員でキャリアをスタートせざるを得なかった不本意型も少なくありません。 教育訓練やスキル形成の機会に乏しい非正規社員での雇用が長く続くと、その後、正社員への登用や転職が難しくなる傾向があります。
世代間格差の固定化
一方、バブル崩壊以前(またはその直後まで)の雇用環境が相対的に安定していた時期に就職した世代は、就職、つまり初任配属の時点から正社員で雇用され、雇用が保障され、手厚い教育訓練を受けている場合が多いわけです。
量的基幹化がもたらした問題は、景気と採用環境の大きな変化を境にして、世代間の雇用機会やキャリア機会の格差が固定化しやすくなることにあります。
この世代間格差は、単なる雇用形態の違いにとどまらず、キャリア形成の機会、賃金水準、そして将来の生活設計にまで大きな影響を及ぼしています。
次回は、量的基幹化とは別の視点である「質的基幹化」について解説します。非正規社員の仕事の質がどのように変化し、それが何をもたらしたのかを見ていきます。