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質的基幹化とは何か:非正規の基幹業務化と均等・均衡処遇を総合スーパー事例で理解する #放送大学講義録(人的資源管理第10回その3)

ーーーー講義録始めーーーー

 

# 【第3回】雇用区分の多元化と雇用ポートフォリオ:質的基幹化と総合スーパー業界の事例

質的基幹化とは

非正規社員の基幹化の捉え方には、量的基幹化とは別に、仕事の内容や責任の重さが正社員のそれと重複する現象を捉える質的基幹化があります。

日本の職場を観察すれば、補助的業務にとどまらず、質的に高い基幹的業務を担っている非正規社員も数多くいます。

こうした質的基幹化は、正社員と非正規社員、両者の役割分担を曖昧にしますが、これまで日本企業の多くは、正社員と非正規社員を統一的枠組みで処遇せず、別々の人事制度を適用し、非正規社員の賃金を正社員に比べて低く抑えてきました。

処遇格差の正当化の論理

この時、企画・管理業務は正社員、補助的な作業は非正規社員といった具合に、職務・職域が分離されていれば、両者の処遇格差を説明する理屈は、「職務の内容」や「職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用)」の違い、つまり両者のキャリア開発の仕方が違うということになります。

しかし、非正規社員が質的に基幹化すると、看板が「補助的な仕事は非正規社員、難しい管理・企画型の仕事は正社員」といった具合に、両者の職域を分離していた職場では、仕事の違いで両者の待遇の違い・処遇の違いを合理的に説明できなくなります。

つまり、非正規社員の質的基幹化が一層進むと、非正規社員も正社員と同じように管理・企画の難しい仕事を担うようになり、それにふさわしい教育訓練が施されるようになります。こうした場合、「職務の内容」や「職務の内容・配置の変更の範囲」が実質的に近づいていくため、キャリア開発の仕方が違うといった理由で、両者の格差を正当化することが難しくなります。

質的基幹化が進めば進むほど、正社員と非正規社員の格差が明白となり、均等・均衡処遇の問題が顕在化するというわけです。

(図表)均等・均衡処遇が問われやすくなる条件(整理)

何が近づくか 近づくほど起きること 典型の判断枠組み(例)
職務の内容 仕事の違いで格差を説明しにくい 職務の内容
配置転換等の範囲 「人材活用の違い」で格差を説明しにくい 職務の内容・配置の変更の範囲(運用を含む)
教育訓練・キャリア 育成投資の差を根拠にしにくい 教育訓練等の取扱いを含む説明責任

 

総合スーパー業界の事例

こうした経緯を具体的に把握するために、非正規社員の活用が進んでいる総合スーパー業界の事例を見てみましょう。

総合スーパー(GMS)は、衣料・住関連品・日用雑貨等の非食品と、食品を含む幅広い商品を取り扱い、いわゆるワンストップ型の買い物を可能にする業態として説明されます(取り扱い範囲や強みには企業差があります)。 近年は専門店やネット通販などとの競争もあり苦戦が語られることもありますが、雇用の歴史を振り返れば、総合スーパーにおける非正規社員の人事管理のあり方が日本の産業界全体に与えた影響は小さくありません。

総合スーパーの成長と主婦パート

高度経済成長期、日本ではダイエー、イトーヨーカドー、西友、ジャスコ、ニチイなど総合スーパーの有力企業が誕生し、ワンストップ型の大量販売・低価格を志向する大型店の展開が進みました。

  • ワンストップショッピング:つまり1箇所で必要なものを買い揃えることができる買い物のスタイル

  • カーショッピング:つまり駐車場を備えた大型店での買い物

  • 低価格

同時に、総合スーパーは出店先の近隣に住む女性をパートとして数多く雇用しました。

主婦パートという言い方は、公的資料などでは、たとえば「パート・アルバイトで働く20歳以上の既婚女性」といった形で操作的に用いられます。 研究上は、この層が家計補助などの目的で就業する割合が大きいことや、スーパー等の現場で重要な役割を担うようになっていくことが論じられてきました。

総合スーパーが店舗のオペレーションを担う主婦パートを重宝したのは、そのビジネスモデルと補完的であったからです。

日米の総合スーパーの違い

日本の総合スーパーはアメリカ由来のチェーンストア的な発想を参照しつつも、日本の消費・流通の条件のもとで独自に発展してきました。

ここで注意したいのは、アメリカの“general merchandise”系の店舗が食品売場を持たない、と一律には言えないという点です。一般商品を主としつつ食品も扱う店舗類型は公的分類でも確認できます。
したがって、より正確には、歴史的には食品小売と非食品小売が分かれて発展してきた側面がある一方で、総合化(食品を含む取り扱いの拡大)も進んでいる、という整理が妥当です。

特に、日本の消費者が鮮度・品質に求める水準が高いことは、流通・小売の現場で繰り返し指摘されてきました。

加えて、都市部を中心に保管スペースやバックヤードが限られると、結果として補充・配送が多頻度小口になりやすい、という論点もあります。 そのため、食品の管理においては、鮮度や品質に関する判断や売場運営上の工夫といった、現場に根差したスキルが重要となります。

また、総合スーパーは消費者の日々の暮らしを支える存在です。日本の総合スーパーにとっては、生活者の持つ暮らしに関わる地域の知識や情報をマーチャンダイジングにうまく取り込んでいくことが重要です。

鮮度や品質に対する目利き、暮らしに関わる地域情報は、しばしば家庭生活の経験と結びついて語られてきました。こうした点も、主婦層のパートタイマーが店舗運営を支える構図と関係してきたと考えられます。

企業戦略と家族戦略の合致

こうした総合スーパーの企業戦略は、主婦の家族戦略と合致しました。

家族戦略とは、家庭の生活水準を維持しようとする家族構成員によって用いられてきた無意識の戦略のことです。

家族の生活向上のために、あるいは教育費のためにという主婦の家族戦略と、鮮度・品質、地域の暮らし重視の企業戦略は合致したのです。


次回は、総合スーパーにおけるパート活用が量的基幹化から質的基幹化へとどのように段階を経て進んだのか、その具体的なプロセスを見ていきます。