ーーーー講義録始めーーーー
【第4回】雇用区分の多元化と雇用ポートフォリオ:総合スーパーにおけるパート活用の段階的進展
第一段階:量的基幹化
日本の総合スーパーのパート活用は、量的基幹化から質的基幹化へと段階を経て進みました。
第一段階は、総合スーパーの勃興期である1970年代から始まった量的基幹化でした。
改めて量的基幹化とは、店舗のオペレーションを担う人員構成において、パートの比率(ウエイト)を高めていくこと、すなわち量的にパートが基幹的存在になっていくことです。実務的には、店舗作業の相当部分を、正社員よりも時間給ベースで柔軟に配置できるパートに担わせることで、人件費のコントロールや繁閑対応を図る意図も伴ってきました。
当時、日本では解雇には法的な制約があり、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となり得ます(解雇権濫用法理:現労働契約法16条)。 一方で、有期雇用のパートについては、契約期間満了をもって雇用関係が終了するという形式を取りやすく、企業が雇用調整の一手段として用いがちだった面があります。もっとも、有期契約であっても反復更新などにより更新期待が形成されている場合など、雇止めが制限され得ること(現労働契約法19条)には注意が必要です。
職務・職域の分離
1970年代から1980年代にかけて、総合スーパーではパートと正社員の職務・職域は基本的に分離していました。
正社員:数値目標(例えば、品揃え計画、部下の育成・評価、担当部門の売上・利益、人事・生産性など)の達成に責任を課せられるマネジメント業務を担当
パート:陳列・商品整理・発注などの作業を上司の指示のもと、ルール・マニュアルに沿って遂行
スクラップ&ビルド戦略と総合職
総合スーパーの成長戦略はスクラップ&ビルド、つまり不採算店舗の閉鎖などによる整理と、新規出店や店舗刷新などの投資を組み合わせる政策を通じた店舗網の拡張でした(必ずしも「同じ地域」に限定されるわけではありません)。そして、一部の有力総合スーパー企業は店舗の全国展開を志向しました。
こうした企業では、正社員の重要な業務は、新店舗の開設だったのです。
新しい店舗をオープンしようとすれば、商圏の特性を調べ、そのニーズに適応したレイアウトや品揃えを一から決めなければなりません。また、未経験の主婦パートや学生アルバイトを雇い、仕事を教えていかなければなりません。つまり、仕事の難度は既存店のオペレーションよりはるかに高くなります。
したがって、新店舗の開設メンバーには経験豊富で、技量の高い人材が任命されることになります。そうした人材が数多くいるのは、そのスーパーが事業を始めた土地です。店舗数も多く、店舗同士のネットワークも緊密で、人材の層が厚いのです。
無限定総合職の役割
ダイエー、ジャスコ、ニチイなど関西発祥の総合スーパー各社では、創業の地である関西圏の店舗で経験を積んだ男性総合職が関東や東北のマーケットの開拓の先兵として続々と転勤していきました。
この時期、以下のような働き方をするいわゆる総合職は、旺盛な出店戦略を支える重要な雇用区分だったわけです。
勤務地無限定:つまり「どこへでも行きます」
時間無限定:「いつでも働きます」
職種無限定:つまり「何でもします」
※行政資料でも、いわゆる正社員(従来型の正社員)を、勤務地・職務・勤務時間がいずれも限定されていない正社員として整理しています。
第二段階:質的基幹化
日本の総合スーパーはパートの活用を一層進めるために、パートの人事制度にも職能資格・職能給の考え方を取り入れ、評価・昇給、教育訓練を施しました。
例えば、ダイエーでは、アクティブキャップ制度というパートの処遇制度を導入し、パートに5段階の職能資格を適用しました。
こうしたパートの職能資格制度が、1990年代以降のパート活用の第二段階、すなわちパートの質的基幹化を促したと言えます。
質的基幹化の内容
質的基幹化とは、それまでもっぱら正社員が担っていた以下のような業務を、調味料、飲料、乳製品、日用雑貨などの品種単位でパートへ任せ、さらに主任業務も代替していくことでした。
商品の配分・販売
商品補充
在庫管理
在庫調整
計画の修正
といった店舗のマーチャンダイジングのビジネスサイクル
均衡・均等処遇の問題の顕在化
しかし、パートの質的基幹化は、正社員とパートの役割分担を曖昧にします。パートの賃金が正社員に比べ低く抑えられているとすれば、質的基幹化が進めば進むほど、正社員とパートの処遇格差が拡大することになります。
すなわち、均衡・均等処遇の問題です。
以上、総合スーパーの事例を説明してきましたが、こうした非正規社員の量的・質的基幹化、そしてそれに伴う正社員と非正規社員の処遇の不均衡の問題、つまり同一労働・同一賃金の問題は、業界を問わず起きている現象です。
次回は、こうした非正規社員の状況に対して国が政策的にどのように取り組んできたのか、そして公正な雇用ポートフォリオとは何かについて解説します。
図表1:総合スーパーにおけるパート活用の段階(整理)
| 段階 | キーワード | 中心的な変化 | 典型的な制度・運用 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 量的基幹化 | パート比率(人員構成上のウエイト)が上昇 | 役割分担の分離(作業=パート/管理=正社員) |
| 第2段階 | 質的基幹化 | 品種別運営や主任業務など基幹業務の一部をパートが担う | 職能資格・評価・昇給・教育訓練(例:ダイエーの制度) |