ーーーー講義録始めーーーー
【第7回】雇用区分の多元化と雇用ポートフォリオ:同一労働同一賃金と雇用区分の流動化
働き方改革関連法と同一労働同一賃金
2018年6月29日に、いわゆる働き方改革関連法が成立し、2018年7月6日に公布されました。
その趣旨は2点です。
第一に、正社員と非正規社員の待遇差の解消を図る、いわゆる同一労働同一賃金の実現
第二に、正社員の長時間労働の是正
同一労働同一賃金の枠組みを企業実務の観点で言い直すなら、中心的課題は、雇用形態の違いそれ自体で待遇差を正当化するのではなく、待遇の違いがある場合には、職務内容、職務内容及び配置の変更範囲、その他の事情等に照らして不合理でないことを説明できるようにする、ということです。
そのうえで、一定の場合には、通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止も問題となります。
ここで点検対象となるのは、賃金だけではありません。基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練など、待遇全体として不合理な差がないかを点検・検討し、必要に応じて是正することが求められます。
中でも、講義で整理してきた中間労働市場に位置する質的基幹化非正規社員と限定正社員の間では、職務内容や責任が近づきやすく、待遇差の合理性が説明しにくくなる局面が生まれます。したがって、同一労働同一賃金の実現を本気で進めるなら、こうした“仕事の近接領域”に焦点を当て、待遇差の根拠を職務・人材・拘束性の実態に即して点検することが重要です。
その前提となるのが、4つの雇用区分(非正規社員、質的基幹化非正規社員、限定正社員、そして総合職)の雇用区分で編成される三層労働市場の雇用ポートフォリオなのです。
雇用区分の流動化の必要性
しかし、このような雇用区分による従業員のグルーピングは、非正規社員から限定正社員、さらには総合職への転換制度を整備しないと固定化しかねません。
従業員のキャリア意識の変化やライフステージに応じて、柔軟に雇用区分を行き来できるようにすることが大切です。
転換制度の具体例
例えば、以下のような転換を可能にしておくことが重要です。
非正規社員から限定正社員への転換を促す
出産、育児、介護など、ライフイベントに応じて、総合職から転勤や残業が免除される限定正社員への転換も可能にしておく
これは、ワーク・ライフ・バランスの観点からも必要なのです。
個別化と精緻化
新しい雇用ポートフォリオでは、雇用区分の選択は画一的・集団的でなく、個々の労働者の希望や能力、意欲に応じて決まります。
したがって、以下が必要となります。
従業員個別の能力評価と職務難度評価の精緻化(つまりより精緻にすること)
管理職の評価能力の向上を図る
重要な点は、どのような技能を習得し、どのような仕事に従事し、どのような拘束性を受容したのかということです。
正社員転換制度の拡充
非正規社員の雇用区分の固定化の背景には、不本意型非正規社員の正社員への移行がうまく進んでいないということがあります。
正社員転換制度を利用した非正規社員から正社員の登用を狭き門としてはならないのです。
転居を伴う転勤といった組織都合の拘束性を受容できない非正規社員の事情に配慮しつつ、転換基準を明示して登用の門戸を広げることが望ましいと言えるでしょう。
また、法制度上も、通常の労働者への転換に関する措置や、待遇差の内容・理由に関する説明が重要な位置を占めるため、転換制度を“制度として置く”だけでなく、実際に機能させる運用が問われます。
新しい雇用ポートフォリオをベースにして、雇用区分に関わらず、すべての従業員の適性を見極めながら、柔軟に育成・配置するマネジメントを行うことが求められます。
まとめ
本連載では、雇用区分の多元化と雇用ポートフォリオについて、以下の7つのテーマで解説してきました。
雇用区分とは何か:正社員と非正規社員の定義と分類
非正規社員の量的基幹化:バブル崩壊後の非正規雇用の拡大と世代間格差
質的基幹化と総合スーパー事例:非正規社員の役割の高度化と処遇格差問題
総合スーパーにおけるパート活用の段階的進展:量的基幹化から質的基幹化へ
法整備と雇用ポートフォリオの理論:労働契約法改正、働き方改革関連法、日経連モデル
人材アーキテクチャ論と三層労働市場モデル:RBV理論と企業特殊的技能
同一労働同一賃金と雇用区分の流動化:働き方改革の実現と転換制度の重要性
今後の課題
日本企業における雇用区分の多元化は、以下の課題に直面しています。
同一労働同一賃金の実現:職務内容、職務内容及び配置の変更範囲、その他の事情等に照らし、不合理な待遇差を解消し、必要に応じて説明可能性を確保する
雇用区分間の移動の円滑化:キャリア意識やライフステージに応じた柔軟な転換
評価制度の精緻化:能力評価と職務難度評価の客観化
不本意型非正規社員の解消:正社員転換制度の拡充と登用基準の明示
これらの課題に適切に対応することで、企業は多様な人材を活用し、従業員一人ひとりが能力を発揮できる職場環境を実現することができるでしょう。
雇用ポートフォリオの最適化は、単なる人件費削減の手段ではなく、企業の持続的競争優位を支える人材戦略の中核として位置づけられるべきです。
そして、雇用区分に関わらず、すべての従業員が適切に評価され、公正に処遇され、成長機会を得られる仕組みを構築することが、これからの人的資源管理に求められているのです。
図表1:働き方改革関連法の位置づけ(成立・公布と「同一労働同一賃金」施行の流れ)
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2018/6/29 働き方改革関連法 成立
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2018/7/6 同法 公布
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2020/4/1 「同一労働同一賃金」関係(パートタイム・有期雇用労働法 等)施行(大企業)
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2021/4/1 同法 全面施行(中小企業にも適用)
図表2:「同一労働同一賃金」を点検する実務の要点
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待遇差の判断は、職務内容/職務内容・配置変更範囲/その他の事情等に照らして不合理かどうかを点検する
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点検対象は、基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練など待遇全体
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労働者から求めがあれば、待遇差の内容・理由等の説明が重要になる
