ーーーー講義録始めーーーー
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第1回 女性労働者と雇用を考える:問題提起と講義の全体像
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本日の講義では、女性労働者と雇用をテーマに学習します。女性は人口のおよそ半分を占めますが、そんなに大勢の人たちを一括りにして良いのかという疑問を持つ方もおられるかもしれません。一人ひとりの置かれた立場が違うので、一口に語れないという意見はあるでしょう。けれども、年齢が上になるほど、職場で女性として区別された経験をお持ちの方が多くなるのではないかと思います。
◆ 50代以上の方へ:あなたの経験を振り返る
講義をお聞きの50代以上の女性の皆様にお尋ねします。
● 職場で「女の子」と呼ばれたことがありましたか?
● 電話に出たら、「誰か男の人に代わって」と言われた経験はありましたか?
● 結婚で退職する女性にだけ、寿退職の金一封(きんいっぷう)や花束が贈呈されるというような慣行はありましたか?
● 女性は会議に出席させない、あるいは女性は出張に行かせないというような職務上の制限はありましたか?
なぜ50代以上の方にお尋ねしたかというと、1980年代に成立・施行された男女雇用機会均等法という法律が、その後の労働環境に大きな変化をもたらしたからです。男女雇用機会均等法は、1985年(昭和60年)に成立(公布)し、1986年(昭和61年)に施行されました。 いくつかの法改正を経て現在に至っていますが、今日の講義では、法律の変遷と労働環境の変化についても説明いたします。
◆ アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)
目に見える差別への対応として、法制度やガイドライン等が整備されてきた国や分野がある一方で、女性に対する無意識の偏見――アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)――が存在することが、研究や実務の文脈で指摘されることがあります。なお、この概念は用いられる場面が広い反面、研究領域によって定義の置き方が必ずしも一様ではない、という指摘もあります。 「女性なのに、そんな重大な責任を負わせて大丈夫か」という類のことです。
たとえば、会議の中でメアリーという女性がとても有益な発言をしたとします。それをほぼ繰り返しただけの発言をジョンという男性がしたとします。すると、ジョンの画期的な意見についての議論が続き、メアリーの貢献が正当に評価されないということがある、という話を耳にすることがあります。類似の問題意識から、会議で女性の発言が埋もれないように、同僚が発言を反復しつつ発言者の功績として明示する「amplification」と呼ばれる工夫が紹介された例もあります。 人が人を評価するとき、公正に評価するということはとても難しいのが現実です。
◆ 本講義の構成と目的
女性労働者に関する状況は、変化の真っ只中にあります。本講義では、背景、歴史、課題について学習します。具体的には以下の内容を取り扱います。
1. 女性労働者の特性(雇用形態、M字カーブ、配偶関係別労働力率)
2. 法律の変遷(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)
3. 組織内における女性の地位(管理職比率、コース別人事管理)
4. 組織文化とアンコンシャス・バイアス
5. ダイバーシティ・マネジメント(日米比較、ワーク・ライフ・バランス)
なお、ここでいうM字カーブ(年齢階級別の女性労働力率が描くM字型の形状)は、日本の公的統計や白書等でも説明されてきた概念です。また、配偶関係別の労働力率についても、公的資料で継続的に示されています。
受講生の方は印刷教材をなるべく手元に置いてお聞きください。教材の図や表を使って説明いたします。
