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女性管理職はなぜ増えないのか:管理職比率(2019)と組織文化を人的資源管理で読み解く #放送大学講義録(人的資源管理第11回その6)

ーーーー講義録始めーーーー

 

その6 組織内の女性の地位:管理職比率・コース別人事管理・組織文化
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◆ なぜ組織内の「地位」が問題になるのか

 

女性雇用者の労働力率は高まってきましたが、女性の雇用形態は非正規に偏っています。このような状況で、経済力と密接に関連する組織内における女性の地位は上昇しているのでしょうか。

なぜことさらに地位を問題にするかというと、高い地位にいる者ほど組織の意思決定に影響を有するため、企業社会における女性の影響力の変化を推測するためには、女性の地位の変化を認識する必要があるのです。

 

◆ カンター・モデル(Kanter Model)

 

組織内で多数派(dominant)が意思決定や規範形成に強い影響を及ぼし、少数派が象徴的な役割に押し込められやすい、いわゆる「トークニズム(tokenism)」をめぐる議論があります。カンター(Kanter)の議論は、集団内の人数比が偏っている場合に、少数派が「目立つ」「同質化される」「孤立する」といった力学が生じやすいことを論じたものとして紹介されます。しばしば、女性比率が15%未満のような“極端に少数”の状況ではトークン化が起こりやすく、15~35%程度では“tilted”、40%程度以上で“balanced(多様性が成立しやすい)”といった整理で説明されます。

しかし、女性の数が多いにもかかわらず女性の地位が低いという組織も存在するため、女性の地位に関する組織文化は単純に全体の比率だけではなく、組織の意思決定にどれだけ女性が関わっているかという点にこそあると考えられます。

 

◆ 女性管理職の現状(2019年)

 

【表3】規模別・役職別 女性管理職割合(2019年)
 ┌────────────────────────┬──────────────┬─────
 │ 企業規模(従業員数) │ 部長相当職  │ 課長相当職(参考)│
 ├────────────────────────┼──────────────┼────────────
 │ 5,000人以上     │ 4.2%(最低) │  ―       │
 │ 10〜29人       │ 12.3%(最高) │  ―       │
 ├────────────────────────┼──────────────┼──────────────────┤
 │業種別(課長相当職以上)│ 全産業平均  │ 11.9%      │
 │            │ 医療・福祉  │ 54.4%(最高)  │
 │            │ 教育・学習支援│ 19.2%      │
 │            │ 生活関連・娯楽│ 18.1%      │
 │            │ 宿泊・飲食  │ 16.9%      │
 │            │ 金融・保険  │ 14.4%      │
 │            │ 卸売・小売  │ 14.0% └────────────────────────┴──────────────┴──────────────────┘
 (出所:厚生労働省「令和元年度 雇用均等基本調査」)


 ※規模が小さい企業ほど部長の女性比率が高い傾向があります。
  課長・部長になるには時間がかかりますが、女性が管理職候補として育成され始めてから
  まだ十分な時間が経っていないため、上級管理職ではまだ女性比率が低く、
  下級管理職においては増加してきていると分析されます。

 

◆ コース別人事管理

 

男女雇用機会均等法の成立と前後して、コース別人事管理を導入する企業が増加しました。ホワイトカラーの仕事を基幹的業務を担う総合職と補助的業務を担う一般職に区分する動きが広まり、女性の仕事の幅が広がることが期待されましたが、かえって男女の役割固定化を強める面も見られたと評価は分かれます。

厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」によるコース区分の定義は以下の通りです。

 ● 総合職:基幹的な業務や総合的な判断を行う業務に属し、勤務地の制限がない職種
 ● 限定総合職:準総合職・専門職など基幹的業務や総合的な判断を行う業務に属し、転居を伴う
         転勤がないまたは一定地域内・一定職種内でのみ異動がある職種
 ● 一般職:総合職・限定総合職と比べて、基幹的な業務や総合的な判断を行う業務が少ない職種

なお、1997年改正(1999年施行)の改正男女雇用機会均等法により、募集・採用の段階を含む雇用管理において、女性であることを理由とする差別的取扱いを禁止する枠組みが明確化されました。

 

【図3】職種別 正社員・正職員の男女比率(2019年)
 ┌──────────────┬──────────┬──────────┐
 │ 職種     │ 女性比率 │ 男性比率 │
 ├──────────────┼──────────┼──────────┤
 │ 総合職    │ 20.1%  │ 79.9%  │
 │ 限定総合職  │ 32.5%  │ 67.5%  │
 │ 一般職    │ 32.3%  │ 67.7%  │
 └──────────────┴──────────┴──────────┘
(出所:厚生労働省「令和元年度 雇用均等基本調査」)

 

企業組織の中で、女性のプレゼンスは、正社員・正職員の数・質・地位・職種のいずれにおいても、男性よりも控えめです。男女雇用機会均等法によって、職業における男女の固定的な役割分担は徐々に変化してきましたが、企業における女性の位置づけが劇的に変わったわけではありません。

 

◆ 統計的差別

 

上司・同僚・部下となる男性や顧客による差別の存在は昔から言われていますが、それに加えて、雇用主の側からの「統計的差別」というものもあるでしょう。これは、ある集団(この場合は女性)について、期待される行動(長期継続就業・長時間労働・転勤命令等)をつつがなく達成する確率が低いと見なされるとき、その集団に属する個々の女性を丁寧に観察して採用・配置・昇進させるより、その集団から採用しない、あるいは重要な部署に配置しない・昇進させないことでリスクとコストを節約することです。会社は採用候補者の能力を100%知ることはできない、つまり情報の非対称性が存在するため、統計的差別につながる場合があるのです。

 

◆ シャインの組織文化論

 

企業側の女性に対する判断は、組織文化とも関連すると考えられます。組織心理学者のエドガー・H・シャイン(Edgar H. Schein)は、文化を観察可能なレベルにより、次の3段階に分けて説明しました。

 1. 目に見える組織の構造とプロセス(アーティファクト)
 2. 戦略・ゴール・哲学(信奉された価値観)
 3. 無意識の当然だと思う信条・認識・考え・感じ方(基本的仮定)

たとえば、男性の育児休業取得を奨励してみても、「仕事に対する献身が何よりも大切」という価値観があり、「育児は女性の仕事である」という考え方があれば、男性の育児休業取得率は高まらないでしょう。

組織文化を考えるとき、表面的な方針の転換だけでは真の変化を起こすことが困難であり、組織の中の価値観や当然と考えられている仮定までをも考慮し、無意識のバイアスを是正しなければ、根本的な変化は期待できないと考えられます。

 

◆ 性別役割の世代間移転:メアリー・C・ブリントンの分析

 

女性の性別役割は、社会における価値観や当然とみなされる仮定と深く結びついています。社会学者のメアリー・C・ブリントン(Mary C. Brinton)は、日本社会における性別役割意識や労働市場のあり方が、教育や雇用慣行などの制度的要因と結びつきながら再生産されうる、という問題意識を提示してきました。

こうした意識の変化は調査にも現れています。内閣府の調査(男女共同参画社会に関する世論調査)では、2019年調査の整理として、たとえば「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、賛成が35.0%、反対が59.8%とされます。 また、同種の整理では、2019年調査における賛成割合(賛成+どちらかといえば賛成)が女性31.1%、男性39.4%と示されています。

 

図表A:女性管理職割合(2019年)—講義内の主要ポイント

 

観点 数値(2019年)  
課長相当職以上の女性管理職割合(全体) 11.9%  
部長相当職:10〜29人規模 12.3%(最も高い)  
部長相当職:5,000人以上規模 4.2%(低水準として整理可能)  
産業別(課長相当職以上):医療・福祉 54.4%(突出)  

 

図表B:Kanter型の比率整理

 

比率の目安(女性比率) 呼称(紹介され方) 含意
〜15%未満 token的状況 少数派が目立ち・同質化・孤立などの圧力が生じやすい
15〜35% tilted 少数派の影響が増え始めるが、なお偏りが残る
40%程度以上 balanced 多様性が成立しやすい(議論は文献により表現差あり)