ーーーー講義録始めーーーー
第7回 ダイバーシティ・マネジメント:日米比較とワーク・ライフ・バランスの課題
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◆ ケア(両立支援)とフェア(均等性)のバランス
女性の活躍推進のためには、職業生活と家庭生活との両立――ワーク・ライフ・バランス――が重要であると考えられます。しかし、両立支援が男女の公平性・均等支援と同時に成り立つのでしょうか。
研究者の雨宮裕子氏は、両立支援(ケア)と均等性(フェア)のバランスの重要性を指摘しました。すなわち、女性の活躍支援の初期段階では、とにかく継続就業ができるように両立支援(ケア)に重きが置かれがちですが、それだけではやがて女性の管理職比率や職域の拡大が進まなくなってしまいます。
【注】本講義録では雨宮氏の指摘として紹介していますが、ここに対応する一次資料(論文・著作等)の出典が本文中に明示されていないため、出典の特定・検証が必要です。
そこで必要なのは、均等性(フェア)の確保です。社内の教育・育成、配置ローテーション、業務経験などの点で男女の均等性を確保しなければ、女性が組織ヒエラルキーの階段を上がったり、職域を広げたりすることはできないからです。
◆ ダイバーシティ・マネジメントとは
女性労働問題から派生して、ダイバーシティ・マネジメントについてお話しします。「ダイバーシティ(diversity)」とは英語で「多様性」を意味します。したがってダイバーシティ・マネジメントという言葉は、多様な人材の管理ということになります。
日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会報告書によると、ダイバーシティとは「従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想を取り入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人の幸せにつなげようとする戦略」と定義されています。
また、社会学者の山口一男先生(Kazuo Yamaguchi、シカゴ大学教授)がおっしゃるように、障害のある人々を含めて多様な人々に社会的機会を平等に開き、より多くの人々が自らを生かす可能性を広げられるような社会制度として、ダイバーシティの推進を提唱するという考え方もあります。
【注】本講義録の表現に対応する一次資料(山口氏の著作・講演録等)の出典が本文中に明示されていないため、出典の特定・検証が必要です。
◆ アメリカにおけるダイバーシティの起源
ダイバーシティは英語に由来することからもわかるように、外国――特にアメリカ――から輸入された概念です。しかし、アメリカのダイバーシティの起源は経営効率のためではありませんでした。それは平等雇用機会の概念(Equal Employment Opportunity)の法的な導入でした。
公民権に関する法律自体は19世紀(1866年)から連邦法として存在しますが、雇用差別に関する包括的規制としては、1964年に公民権法第7編(Title VII of the Civil Rights Act)が成立し、雇用における差別禁止規定が盛り込まれました。 この条項は、人種・肌の色・宗教・性・出身国に基づく雇用差別を禁止しています。 もっとも、適用には事業主規模等の要件があり、一般に一定規模以上の雇用主等が対象とされています。
その後も、雇用機会の平等は大統領命令によって強化されたり、退役軍人(保護退役軍人)に関する差別禁止によって対象が拡大されたりしました。例えば、連邦請負業者に対して差別禁止とアファーマティブ・アクションを求める大統領令(EO 11246)や、連邦請負業者等に対して保護退役軍人への差別禁止等を定める法律(VEVRAA)などが挙げられます。 また、年齢差別を禁じる法律(ADEA:1967年)や、障害を理由とする雇用差別を禁じる枠組み(ADA:1990年)なども整備されていきました。
アメリカにおけるダイバーシティ・マネジメントは、人種差別の撤廃という社会的課題から始まりました。差別を是正するためのアファーマティブ・アクション(Affirmative Action)という取り組みがある中、1990年代には社会経済環境の変化からダイバーシティのマネジメントが注目を集めたのです。
アメリカで保護の対象として認識されている属性は以下の通りです。
● 人種・民族的出身・肌の色(アフリカン・アメリカン、ヒスパニック・アメリカン、ネイティブ・アメリカン、アジア系アメリカンなど)
● 性(ジェンダー。妊娠した女性も含む)
● 年齢
● 障害
● 軍隊経験(退役軍人)
● 宗教・特定の信念や慣習
● 州によっては、婚姻状況や性的指向(同性愛者への差別禁止など)も含む
【注】連邦法の中核として、Title VIIは人種・肌の色・宗教・性・出身国に基づく差別を禁止し、妊娠差別もTitle VII(妊娠差別法による修正)として整理されます。 また、連邦最高裁(Bostock判決)は、Title VIIの「性」による差別が性的指向や性自認に関する差別を含むと判断しました。
◆ 日本型ダイバーシティ・マネジメントの特徴
これまでの日本のダイバーシティ・マネジメントは、むしろ女性活用の促進という意味合いが強調されてきました。女性の雇用と関連の深い法律の整備が進み、法令遵守(コンプライアンス)の観点から男性中心であった企業社会における女性という少数派の管理がダイバーシティ・マネジメントの主要課題となりました。
たとえば、1985年に日本は国連の女性差別撤廃条約(CEDAW)を批准し、同年男女雇用機会均等法が制定されました。 同法は1997年改正(1999年施行)や2006年改正などを経て、雇用管理の各段階で性別を理由とする差別の禁止が整備されてきました。 こうして、女性の活用は企業の社会的責任――コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(CSR)――の面でも避けられない課題と認識されるようになったのです。
同時に、少子高齢化の進展による労働力の減少を女性や高齢者で補おうという議論が盛んになり、そのためには男性を含めて仕事と生活の調和を図るワーク・ライフ・バランスの推進が重要施策と位置づけられました。また、1990年代以降に進展した非正規雇用の拡大は、働き方の多様化という面からすでに存在するダイバーシティの管理の重要性を際立たせています。
法律面では、改正育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法、改正パートタイム労働法などが整備されてきました。
◆ 講義のまとめ
本日の講義で学んだ内容を整理します。
1. 女性雇用者の特性:非正規の職員・従業員が56%と過半数を占め、年齢階級別労働力率はM字型として説明されてきたが、近年は谷が浅くなるなど形状が変化している
2. 法的枠組み:男女雇用機会均等法(1985年制定・1986年施行)および育児・介護休業法の変遷と影響
3. 組織内の地位:カンター・モデルをもとに、意思決定への関与という観点から女性の地位を問題化
4. 統計的差別と組織文化:シャインの3段階モデル、メアリー・C・ブリントンの世代間移転分析
5. ダイバーシティ・マネジメント:日本は「女性活用」に重点、アメリカは「差別禁止の法的枠組み(EEO)」から出発という違い
【注】上の2の「育児・介護休業法(1995年成立)」という過去回要約の表現は正確ではありません。法令上の位置づけは1991年(その後の改正で介護休業制度が整備・拡充)として整理する必要があります。
女性が管理職として企業の中枢に加わることで、機会の不均等→結果の不均等→機会の不均等という悪循環を変える可能性があります。ダイバーシティの推進は、個人の幸せと企業の成長、そして社会全体の公正さにつながる重要な課題です。
図表1:日米「ダイバーシティ」制度起点の対比
| 観点 | アメリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 起点(強調点) | 雇用差別禁止(Title VII 等) | 均等法(1985制定・1986施行)と関連法整備 |
| 代表的な法・枠組み例 | Title VII(差別禁止) / EO 11246(連邦契約) / ADEA / ADA / VEVRAA | CEDAW批准(1985) / 均等法 / 育児・介護休業法等(両立支援) |
| 概念の定義(日本側で引用) | — | 日経連報告書の定義(多様な人材を活かす戦略) |
図表2:ケア(両立支援)×フェア(均等性)—講義の論点整理
| フェア低 | フェア高 | |
|---|---|---|
| ケア高 | 「支援はあるが職域・昇進が伸びにくい」問題が起きやすい(講義の問題提起) | 両立支援と機会均等が同時に進みやすい(目標像) |
| ケア低 | 継続就業が困難になりやすい | “機会均等”を掲げても実質利用が困難になりうる |
