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専門職制度とは?研究開発人材を活かすキャリアラダーと評価・処遇の設計ポイント #放送大学講義録(人的資源管理第12回その4)

ーーーー講義録始めーーーー

 

研究開発技術者のための人的資源管理制度

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こうした特性を持つ研究開発技術者に応えるためのマネジメントが考えられました。その代表的なものの一つが、専門職制度というものがあります。

専門職制度とはどういったものかというと、マネージャーへの昇進キャリアラダーとは別に、専門性によって昇進できるキャリアラダーを設けて、優秀な技術者などをそこで処遇する制度です。つまり、課長や部長などのマネージャーにならなくても、専門性を高めることによって昇進できるということですね。そのことによって、彼らは多大な労力を要するマネジメントに参画することなく、優れた研究成果を上げることによって、高い処遇を受けるということが可能になるわけです。マネジメントへの参画はホワイトカラーにとっては嬉しいことなのでしょうが、研究開発技術者にとっては研究時間が削られるような負担になってしまうことがある、ということになるわけです。

こうした制度というのはうまく活用すると非常に効果的になります。実際、専門性を軸にしたキャリア形成や認定・審査の仕組みを整えて運用している企業の例もあります。たとえばIBMでは、技術系プロフェッションのロードマップや、成果をまとめて審査を受けて認定される、といった説明がなされています。また3Mでも、管理職とは別に技術者が影響力を発揮できる「Dual Ladder」がある旨が紹介されています。
一方で、どの企業でも、制度の運用を誤ると形骸化してしまうリスクがあります。たとえば、管理職の方が「より重要だ」といった見え方が強くなりすぎたり、専門職ポストが「昇進できなかった人の受け皿」のように扱われたりしてしまうと、専門職というのが技術者にとって名誉に当たらないということになってしまって、制度が機能しにくくなる、ということが起こり得るわけですね。

先ほど例に出した企業でも、そういったことを防ぐために、認定や任用を審査する仕組みを整えたり、技術者のキャリア形成を支える枠組みを設けたりするといった工夫がなされている、というふうに理解しておくとよいと思います。

その他、技術者に対して、彼らを尊重するようなマネジメントがいくつか導入されています。中でも自由な働き方を尊重し奨励するような制度が多いです。例えば、自律性を確保してあげるために時間や制約条件の少ない働き方の仕組みを導入したり、あるいは自分で発案して研究テーマが選べるといった制度を設けたり、自由にメンバーが選べるような研究チームの制度があったりこういったことをやっている企業もあります。

その他、研究開発技術者が喜ぶような報酬、例えば研究予算の獲得ですとか、国内外の大学・大学院に留学できるような制度を充実させることですとか、研究がうまくいって特許による成果が評価された場合に、その発明者に対して報奨や経済的利益が与えられるといった制度もあります。日本でも職務発明をめぐっては、特許法35条が従業員の「相当の利益(reasonable value)」等の枠組みを定めています。また、職務発明対価をめぐる紛争・和解等において非常に大きい金額が問題になった例もあり、制度設計や
運用の重要性が意識されてきた経緯があります。ただし、「一般に数千万円単位が当たり前になった」といった形で一括して言い切ることは難しく、企業・発明・ルール設計によって幅があると理解するのが適切でしょう。

さて、その他にも研究開発技術者を動機づけるための制度がありますが、中でも社内ベンチャー的な仕組みを使って技術者を動機づける制度をうまくやっている企業があります。代表例としてよく知られているのはアメリカの3Mという会社です。3Mでは、勤務時間の一部(15%)を、自分が選んだプロジェクトに充てられる「15% Culture」があると説明されています。つまり会社に言われたこと以外のことを、一定の範囲で勤務時間の中で進めてもよい、という考え方ですね。
そこで独創的な製品やアイディア、あるいは新事業のモデルなどを思いついた人がいると、関係者に提案し、支持(スポンサー)や資源を得て、チームとして取り組みを進めていく、という流れを取り得るわけです。
こういった制度というのは、研究開発技術者にとって自由な研究の余地を与える制度でもあり、うまくいけばキャリアや事業機会につながり得るものでもあります。非常にユニークで有益なマネジメントということが言えるでしょう。

 

図表(理解補助:研究開発技術者向けHRM制度の「狙い」と「落とし穴」)

 

制度・施策 狙い(研究開発技術者の特性に対応) 典型的な落とし穴(運用課題)
専門職制度(デュアルラダー) 管理職にならず専門性で処遇・影響力を高める “受け皿化”して名誉性が低下、形骸化
認定・審査の仕組み(例:技術プロフェッションの審査) 公正性・納得感を高め、技術者の動機づけに寄与 基準が不明確/恣意的だと逆効果 
15% Cultureのような自由裁量 自律性・探索を促し、新規アイデアを生みやすくする “自由”が名目化すると機能しない 
職務発明の報奨・経済的利益 成果の正当な評価、イノベーション促進 ルール不透明で紛争化(制度設計が重要)