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新興専門職(IT・コンサル)の人的資源管理を4類型で解説 #放送大学講義録(人的資源管理第12回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

新興専門職の人的資源管理:4つの類型分析

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ここからは新興専門職、すなわちソフトウェア・IT技術者ですとかコンサルタント、あるいはアナリスト等々の人たちの人的資源管理について考えていきたいというふうに思います。

こうした人たちの人的資源管理というのは、研究開発技術者と比べると、研究蓄積が相対的に多くはないと言われてきました。比較的新しい職種群でもありますので、従来は研究開発技術者と同じように個人の自律性ですとか専門性を重視する人的資源管理が必要だということが語られてきました。また、それに伴い、個人の能力や業績に応じて大きな格差がつくような人的資源管理、例えば競争的で市場志向と言われるような人的資源管理が彼らには合っているんだという考え方が、強く意識されることが多かったということになります。

特に先進的なIT企業ですとか名門のコンサルティングファームでは、自由度の高い働き方を認める(例えば服装が自由であるとか、職場のルールが比較的柔軟であるとか、そういう自由もあるわけですが)一方で、競争が強く意識される運用が見られることがある、ということなんですね。格差も大きく、例えば人材は優秀な人たちを外部から採用することもありますので、中にいる人たちが安心してゆっくり働くこともなかなかできない、常に頑張っていないといけないというような状態になり得ます。高額な成功報酬
とか株式報酬が与えられて、優秀な人たちにはそれに応じた報酬が支払われる。歴史的には、ストックオプションを通じた資産形成で、従業員に大きな経済的リターンが生じた企業事例も知られています。
さらには昇進競争も、いわゆるアップ・オア・アウトというように語られることがあります。アップというのは昇進で、アウトというのは社外に転出するということです。つまり昇進するか転出するかというくらいの厳しい競争が想定される、ということです。
こういう人的資源管理が行われているし、それが合っているんだということが、強く言われてきたということになります。

しかしながら、そんな企業ばかりではないよということが、徐々に研究で出てきました。むしろ新卒採用や長期雇用・内部昇進を重視している会社もあるよという研究も出てきましたし、優秀な人たちだけが報われるのではなく、むしろチームワークを重視するような組織志向の企業もあるということがわかってきて、新興専門職の人的資源管理は実はすごく多様なものがあるということがわかってまいりました。

もともとこの授業の冒頭に言いましたように、新興専門職の仕事には、その難易度ですとかチームワークの程度においてかなりの多様性があるわけです。例えば、コンサルタントを見ても、大企業相手に大規模なプロジェクトチームを組んですごく高度な提案をするといった働き方をするコンサルティングファームもあるでしょうし、中小企業の経営者を支援するために一人一人が身近で丁寧なサービスを提供したり相談に乗ったりといった働き方をしている人もいます。またIT技術者についても、宇宙開発のようなものすごく大きなテーマに対してすごく大きなチームで取り組んでいるような人たちもいれば、あるシステムの下請けやそのまた下請けで小さなシステムを組んでいるといったような会社もあるでしょう。そういったことを考えると、人的資源管理にいろんなものがあるということは当然であるということなのですが、ただそういった多様性を実証的に分析した研究というのは今まで少なく、特に日本企業については例が乏しかったということになります。

そこで私が2015年に刊行した本において、そういった分析をしたわけですが、その結果について簡単にご紹介していきたいというように思います。テキストをお持ちの方は、表5-2がその結果を表したものです。かなり複雑な分析になっていますので、詳しいことはテキストで読んでいただくこととして、この授業ではその内容をできるだけ分かりやすくご説明したいというように思います。

日本の新興専門職の人的資源管理を分析した結果、大きく分けて4つの類型というものが発見されました。その4つの類型がどういうものなのか、これから見ていきたいと思います。

【表5-2:新興専門職の人的資源管理の4類型】

類型 成果主義(競争) 人材育成 特徴・該当企業
①強い成果・能力主義型 非常に強い 熱心(内外問わず) 歴史浅いが高ブランドの大企業/チャレンジングな仕事が多い
②プロセス重視の成果主義型 マイルド(プロセスも重視) 内部人材を重視(新卒採用中心) 日本の大企業に多い類型/成果主義移行後の日本的形態
③市場志向型 強い競争重視(外部スカウト多) ほとんどなし 外資系・若いベンチャー企業
④非競争型 低い(競争させない) 低い 小規模企業/比較的易しい知識労働

 

まず1番目の類型。これは成果主義・能力主義が非常に強いという類型です。ただし、これはただ単に競争させるだけのマネジメントではなく、人材育成にも熱心です。こういった意味では日本企業とも通じるような内部志向のところもありますが、この育成というのは新卒の内部の人間だけにこだわりません。外から引っ張ってきた人たち、いわゆるスカウトしてきた人たちも同じように扱うという特徴があって、成果主義で人材育成にも熱心、内部の人材にはこだわらないというような特徴があります。これが「強い成果・能力主義型」と言われるようなマネジメントの形ということになります。

2番目の類型は、成果主義を追求しているのですが、1番目の類型よりは随分とマイルドです。しかも成果と同等に仕事のプロセスを重視するような傾向があります。全体のバランスを取るような非常にマイルドな成果主義です。この類型で行われている企業は、あまり外部の人材をスカウトしません。むしろ新卒を中心とした内部の人材を登用することの方を重視します。ここらへんが1番目の類型と違うところですね。ですので2番目の類型は「プロセス重視の成果主義型」というふうにも名付けられます。近年の日本の大企業によく見られるような成果主義型の人的資源管理で、日本企業は年功主義の人的資源管理から成果主義の人的資源管理に移行してきたわけですが、そこで独特のマイルドな成果主義というのを作ってきました。それがプロセス重視の成果主義型で、2番目の類型はそれに当たります。

3番目の類型は、人材育成だとか内部人材登用にはほとんど関心がありません。これに関する調査結果のスコアは非常に低いです。一方で、外部の人材をスカウトして活用することですとか、個人の成果を重視して競争させるところのスコアが非常に高い。だから育成ではなく競争を重視するような人的資源管理ということでしょう。こういった類型を「市場志向型」というふうに呼ぶことができると思います。

最後、4番目の類型は全体的にマネジメントのスコアが低く、特に外部労働市場を活用することですとか、個人の成果を重視して競わせることに関する点数が低いです。ですので、あまり人を育てたり競争させたりということがしない類型ということになります。4番目の類型は「非競争型」というふうに理解できるでしょう。

最初に見た強い成果・能力主義型というのは、比較的歴史が浅いながら大企業となり高いブランドを持つに至った企業で、チャレンジングで高度な仕事が多いそういう企業が多いです。

2番目の類型は近年の日本の大企業ということになるわけですが、非常にたくさんの企業がこれに当てはまりました。
3番目の非常に競争だけを重視するような類型は外資系ですとか若いベンチャー企業が当てはまりました。

4番目の非競争型は小規模な企業ですとか、比較的易しい知識労働をやっているような企業が当てはまったということになります。

 

図表(理解補助:4類型を2軸で見取り図化)

※本文・表の内容を「競争(成果・能力主義の強さ)」×「育成(人材育成の強さ)」で整理した模式図(説明補助)です。

 

  育成:高 育成:低
競争:高 ①強い成果・能力主義型 ③市場志向型
競争:低 (※表では明示なし/中間領域)

④非競争型

(②プロセス重視の成果主義型は、競争は「マイルド」だが育成は「内部重視」で一定高い、という位置づけになりやすい、という整理です。)