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サービスとは何か?無形性とサービス品質の評価(探索・経験・信用)を例でわかりやすく解説【感情労働の前提知識】 #放送大学講義録(人的資源管理第13回その3)

ーーーー講義録始めーーーー

 

サービスの本質を知る――無形性とサービス品質の評価

感情労働は対人サービスの提供プロセスで行われるため、理解するには
サービスの特性を理解することが必要となります。ここで、サービスの
特性についてまとめておきたいと思います。サービスは、モノとは異なる
特徴をもつと伝統的に説明されてきたため、感情労働を考えるうえでも、
まずその前提を押さえておくことが重要です。

 

まず、サービスとは何かを考えてみましょう。皆さんも日常生活の中で
「サービス」という言葉をよく聞かれることと思いますが、ここで注意して
いただきたいのは、私たちが普段の生活の中で使っているサービスという
言葉と、マーケティングの研究の中で定義されているサービスは、必ずしも
同じではないということです。

まず、日常生活での使い方の例を見てみましょう。私たちが買い物をした
ときに、お店の方が「サービスしておきます」と言ってくださることがあります。
この場合のサービスというのは、通常よりも量を多くする、あるいは何かを
無料でつけるという意味で使われています。また、レストランのメニューに
「ランチセットを注文した方にはドリンクをサービス」と書かれていれば、
ランチセットの料金を払えば飲み物は無料でついてくるということを意味します。
このように、日本語の日常用法では、「サービス」が値引きやおまけ、無料提供の
意味で使われることがあります。

では、マーケティングの研究において、サービスというのはどのようなものなの
でしょうか。サービス研究ではさまざまな定義が提示されてきましたが、共通して
重視されるのは、サービスが活動・過程として提供され、本質的に無形であり、
しばしば提供者と顧客との相互作用を伴うという点です。

クイン(Quinn)とガニョン(Gagnon)は、サービスを、主たる成果が製品や
建造物ではない経済活動として、製品との対比で捉えました。コトラー
(Kotler)は、「サービスとは、ある当事者が他者に提供できる行為または便益で
あって、本質的に無形であり、何らの所有権ももたらさないもの」であると
しています。また、グロンルース(Grönroos)は、サービスを、程度の差は
あっても無形性をもつ一連の活動であり、通常は顧客とサービス提供者との
相互作用の中で行われ、顧客の問題解決のために提供されるものと説明して
います。

このような定義を踏まえると、サービスとは、無形性をもち、しばしば提供者と
利用者との相互作用を伴う活動や過程である、とまとめることができます。
なお、サービスは市場で販売される場合もあれば、物品の販売に付随して提供
される場合もあります。したがって、「有償で独立して販売されるもの」だけに
限定して理解する必要はありません。

 

定義を通してサービスについて共通の認識を持つことができたと思いますので、
次にサービスの特徴をまとめておきたいと思います。サービスはモノと対比して
語られることが多く、古典的には、無形性、同時性、異質性、消滅性という
4つの特徴によって説明されることが多いです。

サービスの第1の、そして最も顕著な特徴は「無形である」ということです。
これがモノとの決定的な違いです。モノは実際に目で見ることができ、大きさや
手触り、色や匂いなどを確かめることができますが、サービスはそれ自体が
活動や過程であるため、モノのように事前に完全に確かめることはできません。
サービス研究でも、サービスは「objects ではなく performances に近い」と
説明されます。 

サービス自体は活動ですので無形ですが、実際の商品は有形のモノとの
組み合わせで構成されることがほとんどです。すなわち、商品によって無形の
サービスの部分と有形のモノの部分の割合が異なるということです。コトラーも、
サービスの生産は物理的製品と結びついている場合もあれば、そうでない場合も
あると述べています。

一例としてレストランを考えてみましょう。レストランと一口に言っても、
ファストフード店から高級なフランス料理店まで様々なカテゴリーがあります。
私たちは状況に合わせて、店内の雰囲気や提供される料理、値段などの情報から
レストランを選びます。例えば、時間に余裕がなく手軽に食事を済ませたいという
場合には、ファストフード店を選ぶ人が多いことでしょう。ファストフード店では、
有形の食べ物が素早く提供されること、そして価格があまり高くないことが
重要となります。一方、高級フランス料理店を訪れる人たちは、記念日を祝うことが
目的かもしれませんし、優雅な雰囲気の中でゆっくり食事を楽しむことが目的
かもしれません。この場合は、有形である料理と同程度、あるいはそれ以上に、
店の雰囲気や洗練された接客、空間演出などが重要になる可能性があります。
すなわち、サービスという無形の部分の比重が、ファストフード店よりも大きく
なることがあるのです。

そして、この無形の部分がサービス品質の評価対象となりますが、無形性が高いほど、
顧客にとって事前評価が難しくなる傾向があります。ザイタムル(Zeithaml)は、
品質評価に関わる属性を、購入前に評価しやすい「探索属性」、利用や消費を通じて
分かる「経験属性」、利用後でも十分に判断しにくい「信用属性」に整理しました。
サービスは一般に、モノに比べて探索属性が少なく、経験属性や信用属性の比重が
高くなりやすいと説明されます。

 

商品の品質については、ザイタムル(Zeithaml)が3つに分類しています。

 1つ目は、色や感触、匂いなどによって購入前に評価できる「探索的品質」です。
  この「探索的」というのは、あらかじめ品質を調べることができるという意味です。
 2つ目は、味や使い心地など購入後や消費段階でないと認識できない「経験的品質」。
 3つ目は、購入後あるいは消費後ですら十分に評価しにくいことがある「信用的品質」です。

サービスは無形性という特性のために、モノに比べると探索的品質だけでは評価しにくく、
経験的品質と信用的品質がより重要となります。しかしながら、経験的品質と
信用的品質は事前に十分には分かりにくいため、商品を買ってみないとわからない
ということが、利用者にとってリスクとなります。

そのため、利用者のリスクを軽減して安心して購入してもらえる方策を考えていく
必要があります。その1つとして、「無形のものを有形的手がかりによって示す」
ということが考えられます。有形のものによって、自社の扱う商品の品質のヒントを
与えるということです。例えば、ホテルのスタッフの制服や身だしなみ、施設の
清潔さ、フロント周辺の整頓状況、設備や内装などは、そのホテルのサービス品質を
推測するための重要な手がかりになります。これは、サービスの無形性ゆえに、
顧客が tangible cues に依拠して判断するからです。

また、利用者は購入前のリスクを軽減するために、品質の手がかりを実際に
利用した人の経験に求めることがあります。いわゆる「口コミ」と言われるものです。
SNSが普及した昨今、レストランやホテル、観光地などの口コミサイトの利用者は多く、サイトでの評価を参考にして選択する行動も一般的になっています。

ただし、口コミの一番の課題は信頼性です。日本では2023年10月1日から、
広告であるにもかかわらず広告であることを隠すステルスマーケティングが
景品表示法違反となりました。他方で、消費者庁Q&Aでは、レビュー投稿を
促進するだけで内容の決定に事業者が関与していない場合には、通常は
「事業者の表示」に当たらないとされています。これに対して、「星5をつける」
ことや、特定の推奨表現を条件にする場合には問題となり得ます。したがって、
口コミを活用する際には、事業者・プラットフォーム・利用者のそれぞれが、
透明性と信頼性を確保することが必要だと考えられます。