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感情労働者のマネジメント方法:バーンアウトを防ぐ「個人の距離調整」と「組織の支援体制」をわかりやすく解説 #放送大学講義録(人的資源管理第13回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

感情労働者のマネジメント――組織と個人ができること

では、感情労働者のストレスに対処するにはどうすればいいのでしょうか。ストレスはさまざまな理由によって発生しますが、ここでは感情労働に関連して生じ得るバーンアウトを中心に、有効だと考えられる対処行動を2つ取り上げて考えてみたいと思います。

 

■ 対処行動①:自分自身と役割を切り離す


最初の対処行動は、労働者自身の内面的なもので、「自分自身と役割を切り離す(距離を取る)」というものです。感情労働を演技(acting)の側面から論じたホックシールドは、仕事上の感情表現が自己感覚に影響し得ること、そして自己と役割の関係の取り方によって負担の生じ方が変わり得ることを示しました。 ここでは講義の整理として、自己と職務の距離の取り方を次のように捉えておきます。
・第1は、仕事に強く献身し、演技と自己の境界が曖昧になりやすく、結果として消耗が高まる危険があるケース。
・第2は、自分自身を職務から切り離しすぎて、演技している自分を「不正直だ」と感じやすくなるケース。
・第3は、演技と自分を区別して遂行できる一方で、仕事が空虚に感じられたり、皮肉な見方が強まったりして疎外感を抱きやすくなるケース。
重要なのは、感情労働が自己を揺さぶり得る以上、役割と自己の距離を“ゼロか100か”で決めるのではなく、状況に応じた調整が必要になる、という点です。

この「距離の取り方」を補足する概念として、Lief と Fox に連なる議論で知られる「デタッチト・コンサーン(detached concern:突き放した関心)」を紹介します。医療職の文脈では、適切なケアのために関心は持ちつつ、心理的距離も保つことが重要だとされ、このバランスが燃え尽きの予防に関わると論じられてきました。

もっとも、感情労働には達成感を高め得るというポジティブな面もあります。したがって、いつも職務と自分を切り離してしまうことが常に有益とは限りません。ポイントは、負担となりやすい感情不協和(感じている感情と表出のズレ)を強めない形で、必要なときに距離を取れるようにすることです。目の前の顧客の状況を判断してニーズに応える形で行動しながら、一方では状況を冷静に見て、感情が疲弊しそうな場合には自分の感情と役割を一時的に切り離す、という調整が必要になるでしょう。

 

■ 対処行動②:ソーシャルサポートの活用


もう1つの対処行動は、感情労働者の周りの人たちによるサポートです。これは「ソーシャルサポート」と呼ばれ、上司や同僚などによる精神的援助を含む、さまざまな支援活動を指します。職場の社会的支援は、職務満足や情緒的消耗感などと関連することが示されています。

関連する知見として、McCance らは実験研究で、厄介な顧客対応を想定した課題の後に、参加者がグループで出来事を共有する(social sharing)ことで、怒りなどの否定的反応が弱まる可能性を示しました。 講義録にある通り、大学生を対象とした実験やロールプレイには外的妥当性の限界がありますが、現場でも「一人で抱え込まず、出来事を共有し、意味づけを整理する」ことがストレス低減に役立ち得る、という示唆としては重要です。

 

■ 感情労働者のマネジメントに向けて


ここまで感情労働について解説をしてきましたが、最後に感情労働者をどのようにマネジメントしていくべきかを考えてみたいと思います。感情労働は、要素によっては情緒的消耗感と関連し得ますが、その影響の出方は一様ではなく、バーンアウトに至る場合と至らない場合があります。したがってマネジメントとしては、個人差があることを前提にしつつ、感情労働が消耗感を高め得ることを認識し、組織としていかに感情労働者を支えるかを設計する必要があります。

その際に、感情労働者が顧客のプライベートな情報に接する機会が多いこと、また感情労働と一口に言っても職務内容が異なり感情規則も異なるため、有効なサポートのあり方が職種・職場によって変わり得ることを考慮しなくてはなりません。

対処行動でも紹介したように、バーンアウトという重大な結果を招く前に、上司や同僚が支援を行いやすい体制を整えることが重要です。また、感情労働者が必要を感じたときに、社内で気軽に気持ちを吐露できたり、話を聞いてもらえたりする機会を持てることも重要だと考えられます。職種や職場の状況を勘案して、職場でのサポートのあり方を検討する必要があります。

さらに、昨今のSNSの普及による現場スタッフの不安にも配慮する必要があります。口コミサイトやSNSで拡散されるネガティブなコメントは、顧客の不満表明や注意喚起として機能する場合がありますが、要因は一つではありません。サービス失敗とその回復(失敗後の対応)が影響することもあり、組織としては不具合が発生した場合に素早く適切に対処できる体制を整えることが、結果的に企業と従業員を守ることにつながります。 そのためには、現場スタッフがすぐに上司に相談でき、一緒に解決策を考えていく、懲罰主義ではない職場風土を醸成することが、安心感にもつながっていくと考えられます。

もう1つは、感情労働者自身が、さまざまな状況にうまく対応できるスキルを身につけることを支援する、という観点です。特に感情不協和が起こりそうなときに、自分の感情と状況(役割)を一時的に切り離して捉え直せれば、情緒的消耗感を小さくし得ますし、うまく対応できた場合には達成感につながる可能性もあります。顧客からの厳しい言葉を個人的な攻撃としてのみ受け取らず、自分の役割を意識して顧客と向き合うことができれば、消耗感を抑え、バーンアウト予防に役立つでしょう。

組織としては、先輩社員の経験から学ぶ機会や、難しいケースの振り返り(共有・意味づけ)を設けて、感情不協和を起こしやすい状況に対して現場が対応できるよう支援していくことも必要だと考えられます。