ーーーー講義録始めーーーー
日本における人事考課制度の変遷
では、本論に入る前に、人事考課制度の変遷を簡単に紹介しておきたいと思います。
戦前から戦後にかけての日本企業の人事考課制度は、欧米、とくにアメリカの人事管理制度の影響を受けながら導入されていきました。したがって、この時代には、のちに見られるような日本独自の人事考課制度が十分に成立していたわけではありません。
日本独特の人事考課制度が本格的に形成されていくのは、先ほど申し上げた職能資格制度が導入・普及していく時期からです。能力主義の考え方は1969年の『能力主義管理』に代表されますが、職能資格制度そのものは1970年代後半に導入され始め、1980年代に職能資格制度に基づく人事制度が完成・普及していきました。これによって、他国にはあまり見られない、日本企業独特の人事処遇システムが形成されていったのです。
もっとも、それが1990年代以降になると変わってきます。いわゆる成果主義という人事制度が追求されるようになり、その流れの中で、職務等級制度や役割等級制度が導入されるようになりました。そして、それに伴って人事考課制度も変化してきたということになります。
今回の授業では、その職能資格制度における人事考課と、職務・役割等級制度における人事考課制度について、この変遷と違いを主に解説していきたいと思います。
では、まず職能資格制度について見ていきましょう。
職能資格制度のもとでの人事考課制度には、一般に三つの考課要素があると説明されます。すなわち、業績考課、情意考課、能力考課です。
一つ目は業績考課です。これは考課期間、通常は半年ないし一年のあいだに、担当した仕事について、どの程度の成果を上げたのか、目標をどの程度達成したのかといった、仕事の結果や遂行実績を評価する考課ということになります。したがって、結果の考課という説明でおおむね差し支えないでしょう。
それに対して、二番目の情意考課と三番目の能力考課は少し性格が異なります。
情意考課につきましては、組織の一員としての自覚や意欲に関する考課です。仕事への取り組み姿勢と言いましょうか、積極性・責任感・協調性・誠実さといった点が考課されることになります。
最後の能力考課なのですが、これが職能資格制度におけるその資格等級にふさわしい職務遂行能力をどの程度身につけ、発揮しているのかを評価する考課ということになります。職務遂行能力の中には、知識や技能だけでなく、判断力や折衝力なども含まれます。したがって、能力考課とは、単にその期間にどれだけ伸びたかだけではなく、その人が現在どの程度の職務遂行能力を保有し、発揮しているのかを評価する考課であると理解するのが適切です。

