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職能資格制度の人事考課の意義と問題点をわかりやすく解説――組織コミットメント・長期勤続・主観評価・分布制限まで整理 #放送大学講義録(人的資源管理第5回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

職能資格制度の人事考課:意義と問題点

では、こうした職能資格制度における人事考課の意義と問題点について、ここで考えていきたいと思います。

まず、意義の一番目です。従業員の組織への関与や帰属意識を支えやすいということが言えます。なぜならば、職能資格制度の人事考課では、仕事の結果だけでなく、仕事の進め方や、そこで発揮された能力、さらに組織の一員としての姿勢も評価の対象になるからです。したがって、単に短期的な成果を上げたかどうかだけではなく、組織の中でどのように働き、どのように能力を蓄積しているかが重視されやすい人事考課だということになります。

このように日々評価されていますと、従業員には、組織人として組織の規範に従って貢献することが強く求められることになります。ですから、一人ひとりが組織の目的に向かって粘り強く努力するという姿勢は、支えられやすいということになります。ただし、これをもって直ちにすべての従業員の組織コミットメントが自動的に高まるとまで言うのは言い過ぎであり、長期雇用や内部育成と結びつくことで、その傾向を支えやすいと理解するのが適切でしょう。

意義の二番目です。長期的な勤続の意欲を支えやすいということに繫がっていきます。先ほどから申し上げていますように、職能資格制度では、短期的な結果だけではなく、職務遂行能力を高めていくことが重視されます。特に、能力評価が昇給や昇格といった中長期的な処遇に結びつきやすいというのが職能資格制度の大きな特徴です。ですので、従業員からすると、一生懸命働いて能力を高めていくことが、自分の処遇を上げていくことにつながるわけです。ですから、長期にわたって社内の仕事に熟練していくことの意義が非常に強くなるということになるわけですね。結果として、組織に長くとどまろうというインセンティブが支えられやすいということになります。

もう一つ、幅広い実務能力を習得させるという意義があります。これは何かというと、先ほど申し上げた評価項目が比較的一般的であり、個別の職務だけに厳密に限定されていないということと連動しています。能力考課の項目が広く設定されるため、例えば自分が今担当していることだけではなく、それ以外の職務にも応用できる能力が評価されやすくなります。また、それらを身につけることが企業から奨励されるということになります。ですから、狭い分野の専門知識だけを深める人というよりも、幅広い実務能力を持ち、会社全体の仕事の流れにも対応できる人材が育ちやすくなります。

こうしたメリットを考えていくと、この職能資格制度の人事考課というのは、日本企業の組織や経営のスタイルに非常にマッチしているということがわかります。ですから、これが大きな意義だと言ってよいでしょう。日本企業では、曖昧な分業のもとで、チームワークで仕事をやり遂げる場面が多く、そうした組織の中では、幅広い能力を持つ人や組織への貢献意欲が強い人が生かされやすいということになります。ですから、職能資格制度の人事考課の意義というのは、この点にかなり集約されるのではないかと思われます。

では、職能資格制度の最後に、問題点について見ていきましょう。

メリットにもつながっていることなのですが、曖昧な評価項目というのは、主観的な考課になりやすいということが言えます。これは問題だと言えるでしょうね。職務記述書に基づくような評価ではなく、一般的な項目で評価しているわけですから、評価の根拠が不明瞭になりやすいということになります。そうすると、どうしても上司の主観が入るのではないかという疑念は否定できないでしょう。

そもそも日本の人事考課制度には、情意考課・能力考課といった、客観的に測定しにくい考課要素が多いので、厳密な意味で客観的な考課が難しいということになります。こういった評価が多いと、どうしても評価者の主観的判断に依存するのではないかと考えられがちだということになるでしょう。

そして、もう一つです。先ほどお話しした、人事考課が多段階で行われ、かつ最終的な結果について分布制限や分布調整が行われるということ。これも問題点として挙げられるでしょう。

何度かの人事考課を経ていくうちに、結果が徐々に変わっていくということは十分にあり得ます。そうなると、一次考課とはかなり異なる結果になるとも考えられます。それを疑問に思う従業員がいてもおかしくはありません。最も近くで従業員を見てくれている直属上司の意見が十分には尊重されていないのではないかという不満も、当然出てくるでしょう。

また、一次考課の結果と最終的に行われた考課ランクの結果が少し違ってしまった場合、冒頭で言いましたフィードバックが難しくなり、説明がしにくくなるということも十分に考えられます。

さらに、結果の分布制限や分布調整が行われていますから、考課ランクの高い人が一定比率で制限されてしまう一方で、ランクの低い人が一定割合で生じることになります。そうなってしまうと、評価の正確さや公平さに対して疑問を持つ従業員が現れることも十分にあるということになろうかと思います。

以上が、職能資格制度の人事考課における問題点のまとめということになるのではないでしょうか。

これまで見てきた職能資格制度における人事考課制度ですが、事実上のスタンダードとして実に多くの企業に普及し、使われてきたということが言えるでしょう。それだけ日本企業になじみが強かったわけですね。その期間がかなり長く続いたのですが、1990年代以降になると、いわゆる成果主義の人事制度が追求されるようになってきます。

その際に、職能資格制度が大きく見直されることになりました。ただし、その結果は一様ではありません。職能資格制度を維持した企業もあれば、制度を修正した企業もあり、さらに職務等級あるいは役割等級といったような格付け制度を導入した企業も現れてきたということになります。したがって、1990年代以降の変化は、職能資格制度から一斉に別制度へ置き換わったというよりも、見直しと再編成が多様な形で進んだと捉えるのが適切です。