ーーーー講義録始めーーーー
商用コンピューターの登場からインターネットへ——技術革新と第4次産業革命
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商用コンピューターの登場を少し見てみましょう。これが IBM の「System/360」と呼ばれるコンピュータ・ファミリーですが、これが登場したのは 1964年です。正確には、IBM は 1964年4月7日に System/360 を発表しました。System/360 は、商用計算だけでなく科学技術計算にも対応する、互換性ある汎用コンピュータの体系として大きな意味を持っていました。世界初の商用単一チップ・マイクロプロセッサであるインテルの「4004」が登場したのは 1971年です。今からおよそ半世紀余り前の出来事です。このコンピューター技術というものは、従来の機械エネルギー・化学反応に基づく技術では想像のできない形で、我々の社会組織、経済、制度を変えつつあります。インテルの 4004 は、インテルが日本のビジコン社(Busicom)の電卓用チップセット開発を受注したことをきっかけに生まれたもので、インテル側の技術者とビジコン側の嶋正利らの関与のもとで実現しました。電子式卓上計算機に搭載されることを背景に開発されたこの技術に、日本企業も重要な形で関わっていたのです。
その後、コンピューターはあらゆる場所で使われるようになりました。さらに、インターネットの商用化と World Wide Web の普及が進みます。商用インターネット化は 1980年代末から 1990年代前半にかけて進展し、1991年の CIX 設立や 1995年の NSFNET 廃止によって本格化しました。また 1993年は、CERN が Web を広く開放し、Mosaic のような使いやすいブラウザが登場して、Web 利用が一気に広がった重要な年でした。この商用化と Web の普及は、市場の構造や我々の生活世界の相互作用をさらに根底から変容させてしまいました。この社会技術複合体の変化を、情報技術とりわけインターネットの影響に焦点を当てて見てみましょう。それが経営システムと産業構造にどのような影響を与えつつあるか、また今後の社会や産業構造をどのようにデザインするべきかについて論じていきます。技術というのはいろいろな影響を与えます。会社の中で利益を目的として出てくるだけではありません。
【図表2:インターネットで実際に結ばれたネットワークの可視化図】
(世界中のノード(端末・サーバー・ネットワーク拠点)が無数の線で結ばれた、クモの巣状かつ放射状のネットワーク図。中心に向かうほど接続が密で、主要都市圏・主要国・大規模ネットワーク拠点が高密度のハブとなっていることが視覚的に確認できる。なお、これは世界全体の通信基盤が相互接続された構造を概念的に示す図であり、特定時点のインターネット全体を完全に写したものではない。)
インターネットで実際に結ばれたネットワークを可視化した図をご覧に入れます。こうやって見ると、世界がつながっているということがとてもよくわかります。ただし、ここで重要なのは、単に世界がつながったということだけではなく、その接続が情報の流通、取引、組織間連携、そして個人間コミュニケーションの仕組みそのものを変えたという点です。
産業革命後の世界では、連続的に産業構造の変化が生じ、同時にそれを担う企業組織も我々の生活も大きく変化し続けています。最近では今までの産業革命を3段階に分けて、さらに現在第4次の産業革命が生じているという説明がしばしば行われます。第4次の産業革命と呼ばれるものは、サイバーフィジカルシステムの上で、IoT、クラウド、AI、データ連携などを通じて、物理世界とデジタル世界が統合され、あらゆるものがつながる。そういう革命であるというふうに言われているのです。
しかし、ここではちょっとだけ異なる見方をし、コンピューターだけではなくて、インターネットの前後で大きく変化した社会と産業構造に着目します。インターネットは、需要と供給による市場取引を前提とする従来の相互作用に加えて、企業間連携、データ共有、ネットワーク効果、プラットフォームを通じた価値創出を大きく拡大させました。その結果、市場と組織の境界のあり方、企業組織のあり方や企業で働く人々の働き方にも、大きな変化をもたらしつつあります。特に我々が着目するのが、プラットフォーム型の産業が与えた影響です。これについては後ほど詳しく説明いたします。
社会的相互作用の前提となる情報共有やファクトの共有についても、新たに生じてきたパーソナルメディアは、旧来の社会の前提となっていたマスメディアを中心として形成される社会的な知の共有地の概念を揺るがしつつあります。ソーシャルネットワーキングサービスと呼ばれるサービスは、パーソナルなメディアとして、個人が世界に情報発信することで、人々のコミュニケーションの可能性を高めると同時に、誤情報や偽情報の拡散によって、人々が信じたい事柄と事実の境界というものを危うくするリスクももたらしつつあります。OECD や UNESCO も、SNS を含むオンライン情報空間における偽情報・誤情報が、情報への信頼や社会的結束、民主的討議の基盤に深刻な影響を与えうることを指摘しています。

