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プラットフォーム型ビジネスモデルとロックイン――ネットワーク効果が生む新たな独占を読み解く経営情報学 #放送大学講義録(経営情報学入門第13回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

プラットフォーム型ビジネスモデルとロックイン——新たな独占のメカニズム
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次に、新しい現実の出現に対応したマネジメントの革新について見てみましょう。産業革命以来、企業のマネジメントそのものも発展してきました。企業における事業部組織という、複数事業を分化して統括する組織構造の出現については、経営学者のアルフレッド・チャンドラー(Alfred D. Chandler Jr.)が、多角化戦略と密接に関連することを明らかにし、「組織構造は戦略に従う」という命題で知られるようになりました。当時の米国で企業の巨大化と多角化が進んできたという新しい現実に適応するための、新たな組織構造として事業部制、より正確には多部門制が出現してきたのだというふうに理解することができます。

スポーク&ハブモデル(Spoke & Hub Model)、ロングテールモデル、フリーモデル。時代に応じた色々な新しいビジネスモデルが登場してきました。ですが、その中で今日最も大きな影響力を与えているのが、プラットフォーム型のビジネスモデルです。それはプラットフォーム型のビジネスモデルが、従来の独占企業のメカニズムとは異なる側面を持ちながら、「ロックイン」という名前でしばしば呼ばれる強力な寡占や独占を生み出してきたからです。この寡占や独占を生み出したメカニズムについて見てみましょう。デジタル市場では、ネットワーク効果、規模の経済、範囲の経済、データ蓄積、スイッチングコストなどが組み合わさって、市場支配力が形成されやすいとされています。

古典的には、市場の失敗を補完するそういう制度に独占禁止法があります。独占禁止法は、巨大化する企業による市場支配や不公正な競争制限に対処するための制度として発展してきました。大量生産が「収穫逓増」や規模の経済を通じて、生産コストの引き下げを可能にし、それが新規参入の妨げと独占・寡占による市場支配につながることは確かにあります。しかし独占禁止法は、そのような規模の経済だけではなく、取引制限や独占的行為一般に対処するための制度でもあります。大量生産する企業は、同じものを小規模に生産する企業よりも安いコストで生産できます。そのことで小規模な企業は市場に参入することを困難にします。結果的には市場は少数の巨大企業に支配され、あるいは単独の巨大企業に支配されるようになるわけです。この独占や寡占は、結果として高いコストを消費者が払う結果になるだけではなく、製品の発展の可能性そのものを少数の企業が支配することになり、世界の多様性を縮減させるリスクが生じます。古典的な収穫逓増や規模の経済に基づく寡占・独占に関しては、その市場の失敗を補完するものとして、独占禁止法が作られてきました。しかしながら、新しいプラットフォーム型の産業構造の中では、これに加えてネットワーク効果やデータ蓄積、ロックインを通じた、別のメカニズムでの寡占と独占が生じつつあるわけです。

インターネットは結果的に従来のマスメディアからパーソナルメディアの時代を切り開いて、誰もが世界に情報発信できるという理念を大きく前進させました。そこにはテッド・ネルソンのザナドゥのビジョンがワールドワイドウェブにつながり、スマートフォンやタブレット端末の登場でアクセス機会が大きく拡大するなど、ビジョンと技術のスパイラル状の変化が見られ、世界はより分散的で多様な方向に向かうように見えたのです。しかしながら、インターネット上の情報集積を新たな資本とし、プラットフォーム構造を取るビジネスモデルというのは、強いロックイン構造を持つ「ウィナー・テイク・オール(Winner-take-all)」型の産業構造を作り出しやすい面を持っています。インターネットという情報技術をコアに生み出された、自律分散を一つの理念にしていたはずのコミュニケーションのネットワークは、収穫逓増に基づく独占とは異なる形で、プラットフォームのロックインという寡占・独占の構造をこの世界に生み出してきました。ただし、その背景にはロックインだけでなく、間接ネットワーク効果、データ蓄積、切替費用、マルチホーミングの難しさなど、複数の要因が作用しています。なお、スマートフォン等の普及でアクセス面の格差は縮小しましたが、デジタル・デバイドそのものが解消されたわけではありません。

このプラットフォームというのはそもそも何でしょうか。プラットフォームというのは、単にアプリケーションサービスを提供するその前提になるサービスというだけではなく、複数の利用者グループを媒介し、その間の相互作用を成立させる基盤のことです。したがってユーザーはアプリケーションサービスを利用するためには、プラットフォームサービスそのものを選択する必要がありますし、サービス提供者もまた、どのプラットフォームに参加するかを選択する必要があります。したがってユーザー(顧客)とアプリケーションサービスとプラットフォームサービスという三者間関係のダイナミクスがここでは問題となります。従来の市場では、顧客と販売者という二者間関係のダイナミクスが問題になっていたのですが、新しい時代にプラットフォームという構造が入ったことによって、世界の競争の原理は激変します。

簡単な例でちょっと見てみましょう。ゲームユーザーはゲームソフトを使うためにゲームマシンを必要とします。したがってソフトウェアを使うためにゲームマシンを購入するということで、ここでもユーザーとゲームソフトとゲームマシンという三者間関係が生じるわけです。そしてゲームソフトの競争は同時にゲームマシンの競争でもあるわけです。これは、ある側の利用者が増えるほど他方の利用者にとっての価値が高まる、間接ネットワーク効果の典型例として理解できます。

よくあるオンライン通販を例にプラットフォームについて、もう少し細かく見ていきましょう。よく知られているように、オンライン通販には複数のものがあります。そして販売業者はオンライン通販を選ぶことによって販売が可能になります。顧客は通販業者から何かを買うためには、そのオンライン通販のプラットフォームを利用しなければなりません。つまり、たくさんのサービスが集中するプラットフォームに顧客が集中し、顧客が集中するプラットフォームにサービスが集中するという構造があります。結果としてたくさんの顧客が集まるプラットフォームをサービス提供者は好むことになります。そして顧客もたくさんのサービスができるプラットフォームを好むことになります。これは多面市場における間接ネットワーク効果の基本的な構図です。

さらに、一般にサービス提供者にとって、両方のプラットフォームに提供することはコストがかかりますので、次第に顧客もたくさんのサービスの集まるプラットフォームに集中しますし、販売業者もたくさんの顧客の集まるプラットフォームにサービスを提供するようになるわけです。さらに、顧客の購買データの蓄積から販売業者にレコメンデーションなどの仕組みをプラットフォームが提供することによって、販売業者はデータ蓄積のあるプラットフォームを選択する利得が上昇し、さらに特定のプラットフォームを選択するインセンティブが高まっていくわけです。その結果として、特定のプラットフォームが本来のプラットフォーム自体の効用を超えて競争優位となる強いロックインが生じます。プラットフォーム上での顧客データの蓄積がさらにロックインを加速させるわけです。OECD も、データ・ポータビリティや相互運用性が不十分な場合、こうした consumer lock-in が強まりうるとしています。

このプラットフォーム型の産業構造というのは、この三者間関係で出来上がっているというところに、非常に大きなメカニズム上の特色があるわけですね。今事例で申したように、顧客によるサービスの選択、そしてサービス提供者によるプラットフォームの選択というものがあります。この両者のダイナミクスが同時に進みます。それによって事実上大差のない状況でスタートしたプラットフォームが、ちょっとした条件で顧客が集まる、サービス提供者がもっと集まる、さらに顧客が集まるというような、いわば一つのプラスのフィードバックが回ることで、プラットフォームのロックインというのが、プラットフォームの能力と全く無関係とまでは言えないものの、しばしば能力差以上に進んでいくメカニズムがよく見られます。その意味でプラットフォーム上での顧客のロックイン・サービス提供者のロックインという現象は、古い収穫逓増のメカニズムと重なる部分を持ちながらも、間接ネットワーク効果、データ蓄積、スイッチングコストなどが強く作用する点で、新しい特徴を持つものであるということが理解していただけると思います。