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クラウド・マイクロサービス・ロックインを学ぶ経営情報学講義:産業変革の歴史とプラットフォーム競争 #放送大学講義録(経営情報学入門第14回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

産業変革の歴史と「疎結合マイクロサービス」のビジョン
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■ 産業革命からプラットフォーム革命へ

産業革命以降の社会技術複合体の変化は、まず機械とそれによって製造される製品というものの世界の大変動を引き起こしました。そして市場経済の広がりのもとで、大量生産・大量流通を基盤とする産業構造が形成されていきました。次に生じたソフトウェアとネットワークという技術は、市場の仕組みを大きく変え、プラットフォームという仕組みの上での競争を拡大させました。さらに、IoT(Internet of Things)やクラウド、AIなどの技術が結びつくことによって、モノ・データ・サービスの連携が進み、新たな仕組みや戦略が生み出されつつあります。そのためには、これからの産業構造についてのビジョンが必要です。

ここではマイクロサービスと、その疎結合(そけつごう)としての組み合わせがもたらす新たな産業構造というビジョンを見てみましょう。マイクロサービスとは、ソフトウェアを小さく独立したサービス群として構成するアーキテクチャであり、それぞれのサービスは特定の機能に集中し、互いに通信しながら全体としてシステムを構成します。こうした考え方は、クラウド環境やAPI連携と親和的であり、結果として、比較的小さな単位で機能を追加・改善しやすい情報システムやサービスの構築を可能にします。したがって、ここで重要なのは「小さなサービスが相互に結びつくビジネス」というよりも、まず「小さく独立した機能単位を組み合わせる情報システムの設計思想」が、産業構造や事業の柔軟性に影響を与える点です。

小規模投資で多様なマイクロサービス対応機器やソフトウェアが開発されて、後付け的に改善可能な工場や地域のIoTが可能となるか――それが課題です。「後付け的」というのは、すべて最初に設計するのではなくて、後から改良・改善可能な形でのIoT化――サービス機器の追加や組み換えが可能になるかどうか――そこが問題になるわけです。そして超多様で常に新しい可能性が探求される経済に向けての歩みが可能となるか。そこが一番の基本となる我々の目的になるわけです。ここでいう可能性は、技術的・制度的条件に左右される将来展望として理解する必要があります。

■ ビジネス情報システムの変遷の歴史

ビジネスの情報システムの変遷の歴史を振り返りましょう。当初の経営情報システムというのは、大型の計算機を中心としたものでした。そこでは事務処理を中心として情報システムが構築されてきました。ビジネスデータをどのように蓄積して利活用をするかの答えとして発展したのがデータベースです。とりわけリレーショナルデータベース(Relational Database)は、データを表形式で整理し、関係づけて扱う仕組みとして広く普及し、企業情報システムの中核を担ってきました。このデータベースを中心に企業の情報は蓄えられ、様々に利活用するシステムが構築されてきました。

インターネット以前の世界では、企業の情報システムは大規模で、多くの場合、企業の自社内――これをオンプレミス(on-premises)というふうに言うのですが――この自社運営のシステムとして構築されてきた歴史があります。しかしながら、インターネットの普及とクラウド技術の発展によって、2000年代以降は、外部のクラウド基盤を活用するシステム運営が拡大してきました。ただし、それはオンプレミスが全面的に消えたということではなく、オンプレミス、クラウド、そして両者を組み合わせたハイブリッドな構成が並存する形で進んでいます。そこでは、一体型の自社システム開発から、クラウド上の比較的疎結合なコンポーネントからなるシステムへと変化が見られます。

■ クラウドサービスの階層構造:IaaS・PaaS・SaaS

企業の情報システムはかつては一体型システムとして開発されてきましたが、メンテナンスに大きな能力とコストを必要としました。そこでクラウド上で、IaaS(Infrastructure as a Service:インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)、PaaS(Platform as a Service:プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、SaaS(Software as a Service:ソフトウェア・アズ・ア・サービス)という、階層化されたサービスモデルを利用し、その上でビジネスシステムを構築する流れが加速しています。NISTによれば、IaaSは処理能力、記憶装置、ネットワークなどの基盤資源を提供するモデル、PaaSは消費者がアプリケーションを開発・配置できるプラットフォームを提供するモデル、SaaSは提供者のアプリケーションを利用者がネットワーク経由で使うモデルです。

 

修正版の図1:クラウドサービスの階層構造(PNG)

このように、データベースを中心とした一体型の自社システムの開発から、クラウド上の各種サービスやコンポーネントを組み合わせるシステムへと、次第に企業システムは変化しつつあります。ただし、実際のクラウド利用では、これら三つのモデルは必ずしも厳密に一段ずつ積み上がるとは限らず、直接基盤上に構築される場合もあります。

■ プラットフォームへのロックイン問題

クラウド上で疎結合可能なサービスの組み合わせというのは、多くの場合、特定のプラットフォーム上で行われ、その結果としてプラットフォームへのロックインが生じうるという問題があります。クラウド基盤、インターネット上の各種サービス、その上のアプリケーション実行環境、さらにAPIやマイクロサービスのエコシステムが積み重なると、利用企業は、多数の関連サービスがそろった便利なプラットフォームを選びやすくなります。そして、サービス提供者もまた、多くの利用者が集まるプラットフォームの上でサービスを提供しようとします。こうして、利用者と提供者の双方が同じ基盤へ集中しやすくなり、典型的なプラットフォーム・ロックインが起こりえます。

実際、現在のB2B領域では、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった大手クラウド事業者が大きな市場シェアを占めています。Synergy Research Group の2025年第4四半期データでは、AWSが首位を維持し、MicrosoftとGoogleが続いており、上位3社の合計シェアは市場の大部分を占めています。したがって、企業システムのクラウド化が進むほど、特定の大手プラットフォームへの依存が強まりやすい、という点は重要です。ただし、これを単純に AWS と Azure だけの問題として捉えるのではなく、主要クラウド事業者への集中という構造として理解するほうが正確です。

また、日本企業や国内サービス事業者にとっては、グローバルなクラウド事業者のエコシステムが強くなる中で、自社独自の競争力をどこに置くかが大きな課題になります。ただし、「ローカルサービスへと転落する」と断定するには別途実証が必要ですので、ここでは、グローバル大手への集中が進みやすい環境の中で、国内事業者の差別化戦略が重要になる、と理解するのが適切です。開発が一体型でなくなったことは、柔軟性や拡張性をもたらした一方で、結果としてプラットフォーム依存を強める側面も持っているわけです。

 

一体型システム→クラウド→マイクロサービス の変遷図(PNG)

「利便性の上昇」と「ロックインの強化」の対比図(PNG)