ーーーー講義録始めーーーー
工場のIoT化と「タスクコンテナ」によるマネジメント
════════════════════════════════════════
■ 工場映像から見るIoTの可能性(小島工業・諏訪の事例)
次に工場の事例についてご覧に入れます。これは諏訪の板金工場の事例で、工場全体を俯瞰したものです。いろいろな工作機械があります。このような工作機械の中には、同じメーカーや同系統システムのもとでつながっているものもありますが、つながっていないものもたくさんあります。こうした多くの機械が接続可能になることによって、工場のマネジメントはより高度なものになりうると考えられます。工場には工作機械や測定装置などの生産に用いるものがたくさん集まっており、それがIoT化で大きく変化する可能性があります。ここでいう変化とは、単なる自動化の増大だけではなく、データ収集、状態監視、工程可視化、追跡可能性の向上などを含むものとして理解するのが適切です。
最新の工場は数値制御(NC:Numerical Control)の工作機械がたくさんあり、自動制御されたロボットが活躍しています。しかしながら、経営情報という視点では、生産に関する自動化は、必ずしもそのままマネジメントの高度化を意味するわけではありません。製造制御の高度化と、計画・実績差異管理、スケジューリング、原価把握、工程横断の可視化といった管理機能の高度化は、区別して考える必要があります。IoTは、このような工場のマネジメントを変えていく可能性を持っています。
■ IoTベースのマネジメントとタスクコンテナ
ものやサービスの生産をなぜIoTベースでマネジメントするのか、それには何が必要なのでしょうか。ものづくりやサービスの製品・サービス単位の製造プロセスでは、そのタスク・プロジェクト単位でのプロセスを管理するためのマネジメントが必要です。そのために、IoTによって収集される現場データを利活用しながらマネジメントを行う仕組みと、それを支えるオープンな連携技術や基盤を整備する必要があります。その技術というのは、工場の現場の工場長・職長らと連携し、現場が理解し利活用することができることが求められます。そして月単位で頻繁に組み替えられる現場のラインのタスクに対応して、「タスクコンテナ」とここで呼ぶような管理単位を容易に組み替えられる必要があるのです。なお、「タスクコンテナ」は一般標準用語というより、講義上の説明概念として理解するのが適切です。
■ IoTベースのマネジメントの3つの柱
製造過程では、単一あるいは小ロットの製品単位での生産プロセスを、それをひとまとまりの仕事をタスクとして捉えるわけです。その上で、タスクの着手条件と終了条件、タスクの遂行に必要な資源の割り当て、タスクの実行順序等が定義され管理されるという意味で、製造工程は一つの小さな実行管理単位として捉えることができます。ここでいう「マイクロプロジェクト」は、そのような小さな実行単位を講義上わかりやすく示すための概念です。
IoTベースのマネジメントでは、計画と実際の差をIoTを利活用してタスク・プロジェクト単位で管理することが求められます。そこでは以下の3つの大きな柱があります。これは一般標準そのものではなく、この講義における実践的整理です。
▼ 柱1:原価のマネジメント(Cost Management)
タスク単位で計画原価を実物単位で算定・計画する。そして実際の工程で原価や資源消費を把握する。そこからプロジェクト単位の製品・サービスの計画と実際の差を明らかにします。計画と実際の差をタスク単位・プロジェクト単位でマネジメントすることが求められるわけです。なお、現実には原価そのものをIoTだけで直接測定できるわけではなく、設備稼働、作業時間、投入量、停止時間などのデータをもとに推定・管理する場合が多いと理解するのが適切です。
▼ 柱2:スケジューリング(Scheduling)
複数のプロジェクトのタスクに対して、人(人的資本サービス)・装置(物的資本サービス)を割り当てるスケジューリング計画が重要になります。プロジェクトの実行管理情報から計画と実際の差を把握し、必要に応じて再計画・再スケジューリングすることが求められるわけです。これは製造管理で広く重要とされる考え方であり、IoTはそのための現場データ取得と迅速な状況把握を支える技術として位置づけるのが適切です。
▼ 柱3:実行マネジメント(Execution Management)
タスクの内部での遂行管理――すなわちタスク内部での遂行状態の遷移の管理、およびプロジェクト内でのタスクの遂行順序管理を行って、遂行の遅れやトラブルを見える化し把握することで、異常対応やリスケジューリングが必要な状況を把握します。これは MES や製造実行管理の発想に近いもので、IoTによって設備状態や工程イベントを取得しやすくなることで、より精緻な把握が可能になります。
■ 4タスクからなる筐体製造プロジェクトでの実行マネジメント
鉄板・銅板を切削加工した後で、これをプレスして塗装するという先ほど例に挙げました4つのタスクからなる部品製造工程を、マイクロプロジェクトとして捉えてみましょう。これをタスクA・B、そしてタスクC・Dと名付けますと、この4つからなる製造プロジェクトをIoTベースでマネジメントすることが必要になるわけです。
【図5:筐体製造マイクロプロジェクトのスケジューリングと資源割り当て】
タスクA(鉄板の切削加工) → NC工作機械 + オペレーター
タスクB(銅板の切削加工) → NC工作機械 + オペレーター
↓(A・B完了後)
タスクC(プレス加工) → プレス加工機械 + オペレーター
↓
タスクD(塗装加工) → 塗装工 + 塗装設備
↓
完成品(筐体)
スケジューリングでは、それぞれのタスクのところで資源の割り当てが必要になって、それぞれの工程に必要な工数も、そこで計画されているわけです。そして、例えば実行マネジメントになりますと、鉄板の切削加工がトラブルで停止したとか、そういう状態が速やかに通知されて、全体の進行状況が把握され、それに基づいてマネジメントが行われる必要があります。こうした現場情報の迅速な把握は、Industrial IoT の代表的な利点の一つです。
こういう計画と実行過程のデータの落差をフィードバックする、そういうことがIoTによって従来より容易にできるようになる。そしてこれはタスクの過程で取得したデータを分析する、あるいはこの工程の中でそれぞれどういう品質のものが出来上がったかを管理する、あるいはここで出来上がった製品をトレーサブルな形で次の工程に渡す、その際に来歴情報や工程情報を改ざん耐性やデータ完全性にも配慮しながら付随させる、そういうこともまた求められるようになります。NISTの製造サプライチェーン・トレーサビリティでも、traceability record、pedigree、provenance といった考え方が重視されています。したがって、ここで重要なのは「真正性証明」という一語よりも、トレーサビリティ記録と来歴情報の適切な管理である、と整理するのが適切です。こうした高度なマネジメントは、IoTやデータ連携基盤を用いることによって、従来より低コストで実現しやすくなる場合があります。


