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Suicaはどう「情報を経営する」基盤になったのか――JR東日本のDX・データ活用・駅カルテを徹底解説 #放送大学講義録(経営情報学入門第1回その3)

ーーーー講義録始めーーーー

 

「情報を経営する」時代へ
――JR東日本・Suicaデータ活用の実践事例

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■ インタビュー(中編):ICTや情報そのものを経営する

――情報技術の発展プロセスを見るとき、企業は情報技術を手段として、いかに効率的・効果的に経営するかということを重視してきました。しかし、近年では、ICTは単なる経営の手段であるだけでなく、ICTや情報そのものをマネジメントすること、すなわち「情報を経営すること」が重要な課題となっております。この点についてどのようにお考えになられますか。

先ほどすでに申し上げましたように、初期の段階では、企業は収入や経費、経理などの情報を個別にシステム化するというかたちで、経営の手段としてICTを使っていたわけでございます。おっしゃる通りでございます。これらは経営のあらゆる課題、すなわち、私どもで言いますと、先ほどご説明しましたが、安全、これは大事なんですけれども、オペレーション&メンテナンスの効率化、設備の管理、あるいはコストダウンなどを解決するために、経営のあらゆる分野でシステム化が進められてまいりました。

しかし、現在では、おっしゃる通り、ICTや情報そのものを経営する、マネジメントするという時代になってきたと思います。まさに、経営戦略そのものが、ICT技術やデータ、情報、インテリジェンスを基盤として動いている。したがって、その基盤であるICTや情報を経営していくことが、戦略的にも重要になってきたということだと思います。

■ Suicaを軸とした「情報を経営する」の具体例

少し具体例を交えた方がよいと思いますので、Suicaから創出されるデータの活用ということでご説明したいと思います。

私どもJR東日本は、1987年4月1日に日本国有鉄道の分割民営化によって発足した会社です。そして、発足から約3年後の1990年4月には、東京駅、駒込駅に新型の自動改札システムを導入しています。したがって、比較的早い段階から、鉄道サービスの基盤としてICTの導入を進めてきたと言えます。

【図:自動改札機(駅システムの末端処理装置としての位置づけ)】
〔解説〕駅に設置された自動改札機は、機械装置と情報処理装置が統合されたメカトロニクスの典型例です。改札機は、利用者の通過情報をその場で処理する末端装置として機能しつつ、上位のシステムとも連動しています。その意味で、駅システム全体の中の重要な構成要素であり、この段階ではICTは経営課題を解決するための有力な手段として位置づけることができます。

ところが、その後、非接触ICカード技術を基盤とするSuicaサービスが実現します。Suicaは2001年11月18日にサービスを開始しました。JR東日本の公式発表では、Suica定期券およびSuicaイオカードがこの日に発売開始されたことが示されています。

【Suicaの発展プロセス】

年|出来事
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1987年|JR東日本発足(分割民営化)
1990年|東京駅・駒込駅に新型自動改札システムを導入
2001年|11月18日、Suicaサービス開始
2004年|3月22日、Suicaによるショッピングサービス開始
2006年|1月28日、モバイルSuicaサービス開始
2006年|12月、対応携帯電話の拡大
2016年|Apple PayのSuica対応開始
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その後、2004年3月には、Suicaによるショッピングサービスが始まりました。これによって、Suicaは「電車に乗るためのICカード」であるだけでなく、買い物にも利用できる電子マネーとして機能するようになりました。これは、日本のキャッシュレス決済の発展の中でも、きわめて先駆的なサービスの一つであったと言ってよいと思います。

さらに、2006年1月にはモバイルSuicaサービスが開始されました。これによって、携帯電話の通信機能や画面表示機能とSuicaが結びつき、従来のカード型Suicaが、より柔軟で拡張性のあるサービスへと進化していったわけです。同年後半には対応端末の拡大も進み、モバイル環境での利用が広がりました。

そして2016年には、Apple PayのSuicaへの対応が始まり、iPhoneやApple WatchでSuicaを利用できるようになりました。JR東日本は2016年9月に、同年10月からiPhone 7等でSuicaが利用可能になることを公表しており、Suicaは鉄道・決済・モバイル体験を統合するサービスとして一段と進化したことになります。

ここまでまいりますと、先ほどの段階とは異なりまして、企業であるJR東日本が、お客さまのユーザーエクスペリエンスに直結する複合的なサービス基盤を形成し、それ自体を経営しているという状況に至ったと考えることができます。つまり、Suicaは単なる決済や改札通過の道具ではなく、移動、買い物、モバイル利用、顧客接点、データ活用を束ねる基盤になったわけです。

ちょっとこれを説明いたしますが、私は今の上半分のお話をするときに、いつも社内や様々な講演で、「鉄道というのはそもそも、Suicaを別にしても、システム・オブ・システムズだ」と申し上げているんですね。したがって、鉄道は、多数の複合的なシステムを全体として束ねるシステムでありますから、経営の観点から見れば、企業としての鉄道は、まさにICTや情報そのものを経営しているとも言えるのではないかと思うんです。

■ 「駅カルテ」:Suicaデータの外部提供

さらには、Suicaデータの活用ということで申し上げますと、JR東日本では、Suicaを利用するお客さまが駅の改札を入出場する際に記録されるデータを、お客さま個人が識別されないよう統計処理したうえで、「駅カルテ」という分析レポートを作成・提供しています。JR東日本の公式説明では、駅カルテは、入出場駅、入出場時間などの改札データを用いた駅別の月次レポートとして案内されています。

この駅カルテの作成に用いられるデータについて、JR東日本は、My Suica(記名式)、Suica定期券、Suicaカード、モバイルSuicaを対象に、乗車駅、降車駅、日時、性別、生年月日などのデータを用いると説明しています。性別や生年月日は、Suica購入時の登録情報に基づくものです。そして、非特定化処理、集計処理、秘匿処理という三つの処理を経て、個人が識別されないようにしたうえで、表やグラフとしてレポート化しているとされています。

したがって、ここで重要なのは、駅カルテは電子マネーの店舗利用データをそのまま外部に出すものではなく、駅の改札入出場データを中心に統計処理した駅別レポートであるということです。JR東日本は、こうした統計処理済みデータを、サービス品質の向上、地域や駅、沿線の活性化、自治体や企業の課題解決に役立てる取組みとして位置づけています。

駅カルテは、首都圏エリア約600駅を対象とする月次レポートとして提供されており、発着利用客の可視化や、時間帯別・性別・年代別の利用傾向の把握などに活用されています。近年では、イベント開催時の人の動きや滞在状況を把握する「駅カルテ イベントレポート」も展開されており、マーケティングや地域活性化への利用範囲が広がっています。

これは言わば、連携する他の企業や自治体の経営戦略、地域戦略にも、こうしたインテリジェンスが活用されているということですので、先ほどおっしゃいました「ICTを経営していく」、あるいは「情報を経営していく」という段階に入っていると考えてよいのではないかと思います。

私どもの場合、国鉄時代からMARSのような重要な情報システムは存在しておりましたが、民営化後は、経営やサービスのさまざまな領域で情報活用が一段と進み、その展開速度も大きくなったということが言えると思います。こうした意味で、JR東日本の事例は、「情報で経営する」段階から、「情報を経営する」段階への移行を考えるうえで、非常に分かりやすい例なのではないかと思っております。

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