ーーーー講義録始めーーーー
情報処理システムとしての組織と意思決定――この回の学習ポイントと意思決定プロセスの基礎
経営情報学では組織を広い意味での情報処理システムとして捉えます。そこで、この回では主に、情報処理システムとしての組織の根幹の機能である意思決定と、組織を情報処理システムとして捉える根拠となる組織の情報処理モデルについて学びましょう。なお、組織を情報処理の観点から捉える発想は、意思決定研究や組織設計論の展開と深く結びついています。
この回の学習ポイントをまとめました。まず、情報処理システムとしての組織の中心機能である意思決定について、そのプロセスとタイプを学習します。そして、組織における意思決定について、問題状況の捉え方に応じて、発想の異なるモデルが構築されていることを学びましょう。次に、組織がそもそもなぜ情報を処理しなければならないのかについて、組織の情報処理モデルを検討し、さらにその精緻化についても学びます。
■ 近代組織論と意思決定
経営情報学を理解する上で重要な論理基盤の1つとなった近代組織論では、組織の情報処理に関して意思決定の問題が早くから取り上げられてきました。バーナード(Chester I. Barnard)は、組織を2人以上の人々の意識的に調整された活動のシステムとして捉え、協働体系としての組織の成立と存続の条件を論じた代表的論者です。サイモン(Herbert A. Simon)は、その組織論を受け継ぎながら、意思決定における合理性の問題に着目して、意思決定への科学的接近を試みました。企業における経営活動の中心に意思決定がある、という見方は、こうした問題関心の延長上にあります。
■ 意思決定プロセスの3段階
経営活動の要は、様々なレベルで行われる多様な意思決定にあり、組織は目指すべき状況である目標と現状とのギャップ、すなわち問題を解決するために、絶えず意思決定を行わなければなりません。サイモンの意思決定プロセスは、探索、設計、選択という3つの段階からなる一連のプロセスとして整理されます。

探索段階では、問題を発見し、提起し、意思決定を要する状況を把握します。設計段階では、問題解決のために利用可能な代替案を作成・発展させ、それぞれの代替案について結果を予測し、比較・評価します。そして選択段階では、その評価に基づいて代替案の中から特定の代替案を選択します。なお、講義録で触れられている事実前提と価値前提という区別は、サイモンの議論を理解する上で重要です。事実前提は「何が起こるか」「何が手段として有効か」という認識に関わり、価値前提は「何を望ましいとみなすか」という判断に関わります。
■ 限定された合理性と満足基準
もし人間が全ての情報を完全に把握し、全ての代替案を列挙し、その結果を完全に予測できるのであれば、最適基準に基づいて完全に合理的な意思決定を行うことができるはずです。しかし、実際には人間の情報処理能力には限界があるので、限定された合理性(bounded rationality)のもとで意思決定を行うことになります。限定された合理性とは、代替案の策定能力、代替案の結果に関する予測能力、代替案の評価能力において、人間に限界があることを意味しています。したがって、現実の意思決定は、常に最適解を求めるというよりも、一定の受容可能な水準を満たす案を見いだしたところで選択する、いわゆる満足化(satisficing)の性格を帯びることになります。
皆さんが仮に大学院への進学を考えた場合に、どの大学院に願書を出すのでしょうか。研究したい領域や研究環境が整っているのか、働きながら研究できるのか、研究一筋に打ち込めるのか、校舎はどこにあるのか、家族の理解は得られるのか、費用はどうするのかなど、様々な条件を満たす全ての代替案を列挙することは、実際にはほぼ不可能でしょう。ましてや、代替案として挙げた大学院に仮に進学できるとして、どのように研究できるかを完全に予測・評価することも困難です。そこで、自分が満足できる代替案、例えば「会社に近く、会社も辞めずに勉強できる」「研究したい分野を専門とする研究者がいる」などの条件を満たす大学院に、まず願書を出してみよう、ということになるのが一般的です。こうした説明は、限定された合理性のもとでの満足化の例として理解できます。
限定された合理性しか持つことができない人間には、直面する問題・状況を一定の範囲に限定することによって、できるだけ合理性を高める仕組みが必要になります。例えば、組織において、分業による専門化や階層化による活動範囲の限定は、各成員が処理すべき情報の範囲を絞り、合理性を高める仕組みとして機能します。こうした観点は、その後の組織の情報処理モデルにもつながっていきます。
【キーワード】
バーナード、サイモン、意思決定プロセス、探索・設計・選択、限定された合理性(bounded rationality)、最適基準、満足化(satisficing)、事実前提、価値前提、組織の情報処理
