ーーーー講義録始めーーーー
意思決定のタイプとICTの関わり――木嶋恭一先生インタビュー(前編)
■ 意思決定のタイプ:プログラム化される意思決定とされない意思決定
意思決定は、対処する問題のタイプによって、注目すべき意思決定プロセスの段階が異なってきます。従来から、意思決定が対処する問題のタイプは、プログラム化される意思決定とプログラム化されない意思決定とに分類されてきました。これは、問題がどの程度ルール化・手順化できるかという違いに着目した区別です。
プログラム化される意思決定とは、業務的・戦術的意思決定問題のように、日常的に繰り返され、その処理手順や判断基準を比較的明確にできる典型的な問題のことを指します。雨の日には店頭に傘が置かれていることが多いですが、このように、ある条件のもとで、どの商品をどのくらい、どのように販売するのかを現場で決定する場合などがこれにあたります。そこでは、あらかじめ一定のルール、方法、モデル、あるいはガイドラインに基づいて判断できるため、代替案の比較や評価を効率的に行うことが重要になります。こうした定型的で構造化しやすい意思決定については、従来から情報技術が盛んに活用されてきました。
プログラム化されない意思決定とは、戦略的意思決定問題のように、革新的・単発的で構造化が比較的困難な非定型的問題を指します。例えば、市場シェアを拡大するために競合他社を吸収合併すべきかどうか、新規事業に進出すべきかどうかといった、企業全体にとって重要度が高く、与える影響が大きいものがこれにあたります。このような意思決定は通常、経営者層で行われます。そこでは、何が問題なのか、その問題状況をどう捉えるのかを明らかにする探索段階が特に重要となります。また、その後の設計段階において、代替案を発想し、構想し、比較・検討することも重要になります。こうした意思決定では、完全な最適化よりも、受容可能な水準を満たす案を選ぶという意味で、満足基準によって行われることが多くなります。ここでは人間の思考や判断の重要性が高いのですが、今日ではAIやデータ分析技術の進展により、情報技術(ICT)が問題発見や情報提供、代替案検討を支援する範囲はかなり拡大してきています。
それでは、意思決定においてICTの貢献範囲はどのように拡大しているのでしょうか。次のインタビューでは、意思決定とこれを支える情報技術・情報システムとの関わりについて、東京工業大学名誉教授の木嶋恭一先生にお伺いしました。木嶋先生は、社会システム工学、システムマネジメントをご専門とされ、この科目の開講時には一緒に主任講師を務めてくださいました。
■ インタビュー(前編①):意思決定をどう捉えるか
――本日は、情報処理システムとしての組織の中心機能である意思決定と、これを支える技術・情報システムとの関わりについてお伺いしたいと思います。まず、このような関わりを考える上で、意思決定をどのように捉えることが重要だとお考えでしょうか。
そうですね、組織は何らかの組織目標を実現するために様々な活動をしているわけですけども、その全ての活動において基礎となるのが意思決定活動です。経営活動において、それが人事であれ、生産であれ、販売であれ、研究開発であれ、あらゆる分野の活動の基礎として意思決定がある。その意味でサイモンは、経営や組織の活動を意思決定の過程として捉えておりますね。
ここで1つ注意しておきたいことは、意思決定というのは、単に与えられた代替案の集合、選択肢の集合から最も望ましい1つを選ぶという活動というよりも、むしろここに示したように、探索、設計、選択、これはサイモンによる3つの言葉なんですけども、いくつかの活動の繋がったプロセス、過程であって、これが繋がり、またこう循環していく、そういう言わば終わりのない活動の連鎖というふうに捉えるということ、これが非常に重要だと思います。探索段階では、まず問題状況を発見し、それが意思決定を要するものであることを認識する。設計段階では、その問題に対する代替案を考え、作り出し、比較・検討する。そして選択段階では、その中から1つを選ぶ。そうした流れとして理解することが重要だと思います。
■ インタビュー(前編②):各段階とICTの関わり
――それでは、その意思決定プロセスの各段階に対して情報技術はどのように関わっているのでしょうか。
まず、この探索の段階ですけども、ここにおいては、何が問題なのか、どのような状況が意思決定を必要としているのかを発見し、把握することが求められるわけです。その状況においてですね、情報技術というのは大量のデータを迅速に収集・処理・解析することができるわけですから、異常の発見や傾向の把握、問題状況の可視化という面で非常に有効な役割を果たすことができるようになってきました。さらに、こうした情報基盤は、その後の代替案の発想や検討を支える材料にもなります。
設計の段階ですね。ここのところというのは、従来からもそうなんですけども、最も情報システムあるいは情報技術が活躍できる、そういう段階だと思います。ここでは、問題に対してどのような代替案がありうるのかを構想し、その代替案の結果を予測し、比較し、評価することが求められます。大量のデータを解析し、そして分析する、ビッグデータ解析ですね、あるいは人工知能、そして先端的な情報技術、こういうものが発達してきたわけですから、これによってですね、いわゆる客観的事実の解析、事実前提の構成というものが非常に容易になってきました。さらに、シミュレーションやモデル化によって、複数の代替案を比較検討することも進めやすくなってきています。
ただ、ここで注目しておきたい、あるいは強調しておきたいことは、単なる事実前提だけではなくて、価値前提ですね、つまり意思決定において何をもって望ましい意思決定であるというふうに定義するかということですね。企業においては、これは例えば利益なのかシェアなのか、あるいは持続可能性なのか、何をもって望ましい意思決定とするのかというのは、その企業の経営理念とかですね、あるいはトップマネジメントの価値観の共有、そういうところに関わる非常に高次のレベルの概念だと思います。情報技術は事実前提の整理には大きく貢献できますが、価値前提そのものを最終的にどう定めるかという点では、人間の判断がなお重要であると言えるでしょう。
【キーワード】
プログラム化される意思決定、プログラム化されない意思決定、業務的・戦術的意思決定、戦略的意思決定、探索段階・設計段階・選択段階、ビッグデータ解析、人工知能、事実前提、価値前提、意思決定支援
