ーーーー講義録始めーーーー
意思決定の5つの評価基準と社会シミュレーション――木嶋恭一先生インタビュー(中編)
■ インタビュー(中編①):意思決定の5つの評価基準
――では、5つの評価基準をそれぞれ簡単にご説明いただけますか。

最も基本的なのは、この**効率性(Efficiency)**という概念ですね。これは、できるだけ少ない経営資源で、必要な成果をあげるという考え方です。いわば資源利用の無駄を抑えるという意味での基準ですね。ですから、同じ成果が得られるのであれば、より少ないコストや時間、労力で実現できる方が効率的だということになります。
2番目は**効果性(有効性)(Effectiveness)**と呼ばれる基準ですけども、これはその意思決定が、組織の目的や長期的な目標の達成にとって本当に意味があるのか、妥当なのかを問う基準です。どうでもいいことを効率的にやっても意味がないわけで、何を達成すべきかという観点から見て、まともで妥当な意思決定になっているかどうか、それがこの効果性・有効性の基準です。
3番目が**成立性・作動性(Efficacy)**ですけども、これはですね、その意思決定や手段が、そもそも意図したように機能するのかどうかという基準です。いかに効率的で、いかに有効な代替案であっても、実際に機能しなければ意味がないということですね。講義の流れでは「実行可能性」と近い意味で理解することもできますが、厳密には、単に実行できるかというより、手段としてきちんと働くかどうかに重心があります。
残りの2つ、**倫理性(Ethicality)と洗練性(Elegance)**ですけども、倫理性というのは、その意思決定がですね、社会的あるいは人間的、あるいは環境との関係において望ましいのか、倫理的に正しいのかどうか、これに関する基準であって、いかに効率的な意思決定が見つかったとしても、それが環境に大きな負荷を与えるとするならば、この倫理性の基準には適いませんから、これは望ましくないというわけです。最近話題になっているSDGsとか、あるいはコンプライアンス、さらにはハラスメントの問題、これはこの倫理性の範疇に入る基準だと考えられます。
最後の**洗練性(Elegance)**ですけども、これは、構成や実現の仕方が美しいか、調和的か、無理や無駄が少ないか、そういう基準ということになります。実務的には、下の諸基準を満たす案が複数ある場合に、その中でより整っていて洗練された代替案を選ぶという理解をしておくとわかりやすいと思います。
■ インタビュー(中編②):業務的・戦略的意思決定とICT
――意思決定プロセスと情報技術との関わり、そして評価基準についてお話しいただきましたが、次に意思決定のタイプと情報技術についてお伺いします。業務的意思決定においては、情報技術の活用というのは従来から盛んに行われてきたかと思われます。今日のICTの進展を考慮しますと、さらにどのように行われているのでしょうか。
その業務的あるいは戦術的意思決定ですね、これに対しての情報技術の活用というのも従来からやられてきて、非常に有効でですね。具体的には、データ分析や統計的予測、最適化、ルールベース処理、機械学習などによって、複数の代替案を比較し、順位づけし、目的に適した案を絞り込むという支援が行われてきました。反復的で定型的な業務においては、こうした情報技術の活用はとても大きな意味を持っています。
――一方、戦略的意思決定においても、昨今のICTの進展を考慮すると、ICTの貢献範囲は拡大していると思われます。具体的にどのように変化しているのでしょうか。
昨今のICTの進展というのは、この図で示したように、このプロセスの上流方向に対する貢献、これが非常に大きくなっていると思います。すなわち、探索や設計、ここが中心となる戦略的意思決定に対する情報技術の進展・貢献というのが非常に大きくなっていると思います。大量のデータを解析し、その背後にある傾向や意味を読み取ることで、何が問題であるのか、どのような選択肢がありうるのかを考える材料が豊かになってきているわけです。
具体的な例を申し上げると、例えばスーパーマーケットにおける顧客の動線をモニターし、これを解析することによって、その動きの傾向を把握し、商品棚の配置や売場の構成を見直すことができるようになります。つまり、データから新たな知見を引き出し、よりよい店舗設計や販売施策の立案につなげることが可能になってきたわけです。こうした意味で、ICTは単なる集計や記録の道具ではなく、問題発見や代替案設計を支える道具としての性格を強めています。
さらに、社会シミュレーション、とりわけエージェントベース社会シミュレーションのような手法は、人間の行動や相互作用がシステム全体にどのような影響をもたらすかを検討する上で重要になってきています。ただし、社会システムでは人間が自律的に意思決定を行い、将来の行動を正確に予測することは難しいため、シミュレーションは唯一の正解を与えるというより、もっともらしい複数の将来像を示し、深い不確実性のもとでの意思決定を支援するものとして理解する必要があります。
このように、大量のデータを迅速に解析すること、人工知能やビッグデータ技術を活用すること、さらに社会シミュレーションを通じて複数の可能性を検討すること、こういう流れがですね、意思決定を扱う大きな共通のスキーム、図式として重要になってきた、そういうふうに言うことができると思います。
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