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経営情報学で学ぶ社会シミュレーションと意思決定支援―エージェントベース分析・可視化・COVID-19対応を解説 #放送大学講義録(経営情報学入門第2回その4)

ーーーー講義録始めーーーー

 

社会シミュレーションと意思決定支援――木嶋恭一先生インタビュー(後編)

■ インタビュー(後編①):社会シミュレーションとは何か

――もう少し具体的な例を挙げてお話いただけますか。

1つの例として、膨大に蓄積されたデータや、主体間の相互作用に関する知見を用いて、計算機上に社会的な状況をモデルとして構成し、その中で人間や組織に相当する主体を相互作用させることによって、どのようなパターンや結果が生じうるのかを検討する、そういう社会シミュレーションという技術がですね、近年ますます実践的なものになってきています。とりわけ、エージェントベース社会シミュレーションは、複数の主体の相互作用から生じる社会的現象を分析する方法として広く用いられるようになっています。

化学とか物理の世界とは違ってですね、経営の場面においては生身の人間を取り扱うわけですから、これを実際に実験することはなかなか難しくて、その代わりにですね、計算機上に人間や組織に相当する個体を配置して、それをこう相互作用させることによって、どのような構造が、どのような結果が生まれてくるか、これを言わば模擬的に検討するわけですね。それが社会シミュレーションなわけです。ただし、ここで得られるのは唯一の未来を確定的に予言することではなく、複数のありうるシナリオを比較しながら、意思決定の材料を提供することだと理解するのが適切です。

例えば、化粧品会社でですね、新製品を投入する際に、どういうふうな形で消費者にアプローチするのがより効果的なのか。これは典型的なマーケティングの問題なんですけども、これに対してシミュレーションは有効に使われうるわけです。マスメディアを通してやるのか、SNS を通した口コミを中心にやるのか、あるいはインフルエンサーの役割をどう活用するのか。これに対して、エージェントベースシミュレーションと呼ばれる技法を通してですね、様々なパラメーターを動かすことによって、広告宣伝や普及過程の違いを比較検討し、戦略立案に役立てることができるようになってきました。

また、今述べたこの社会シミュレーションというのは、単なる結果パターンの検討だけではなくてですね、意思決定に関与する人たちの間の問題意識をすり合わせ、問題意識を共有するための、いわばコミュニケーションツールとしての役割も非常に重要になってきています。参加型のモデリングでは、利用者や利害関係者がモデルの設計や利用に関与すること自体が、理解共有と対話の促進につながると考えられています。

■ インタビュー(後編②):新型コロナへの社会シミュレーションの適用

――例えば、それはどのようなものでしょうか。

そうですね、具体的に言えば、例えば2019年末以降に大きな影響を及ぼした新型コロナウイルス感染症の問題がありましたけども、これに対してですね、感染拡大の理解や政策判断の支援のために、各種のシミュレーションや可視化が用いられてきました。日本でも、感染状況を把握し、共通の状況認識を作るための可視化やリスク把握の試みが行われています。

そこでは、医師や病院関係者、教育の関係者、あるいは交通機関、行政の担当者、それぞれの人たちはこの問題に対して独自の経験、独自の知見というものを持っているわけですけども、彼らの頭の中にあるそういう知見や経験というものを、頭の中に閉じ込めるんではなくてですね、1つのモデルや可視化の枠組みに落とし込んで、それを共有化して、それをベースに様々な議論をする、そういうようなコミュニケーションツールとして社会シミュレーションや関連する可視化技術は使われうるわけです。実際、シミュレーションを使った計画支援では、計画段階から関係者間で情報共有することの重要性が指摘されています。

このようにやることによってですね、具体的な状況を数値的に可視化することによって、多くの人々が問題の全体像を理解しやすくなり、関心を高めることにつながる場合があります。可視化そのものが直ちに人々の行動や実感を一義的に決めるわけではありませんが、問題を共有し、関与の必要性を理解する上で重要な役割を果たしうるわけです。

これより、社会シミュレーションというのは、現象のパターンの検討はもちろんなんですけども、異なった分野の専門家、彼らが持っている知見・経験、そういうものを多くの人たちによって共有するためのコミュニケーションツールとしての役割も非常に大きくなって、それを支える技術として、モデリングの技術とか、可視化の技術とか、グラフィックスの技術とか、これが非常に発展してきているわけですね。これからさらに発展していくと思います。

【キーワード】
社会シミュレーション、エージェントベースシミュレーション、意思決定支援、コミュニケーションツール、マーケティング、COVID-19、知見の共有、可視化技術、モデリング技術、参加型モデリング