ーーーー講義録始めーーーー
メディア・リッチネス理論——メディアの能力を考える
■ メディア研究からメディア・リッチネス理論へ
元来、組織におけるメディア研究は、人と文書といったような情報源の相違を扱うものがその多くを占めてきました。しかし、徐々に、単に情報源の相違だけでなく、組織が不確実性や多義性にどのように対処するか、そのためにどのようなコミュニケーション活動や情報処理が必要かという点にも着目されるようになります。このような流れの中で、メディア・リッチネス理論は誕生しました。その端緒となったのは、ダフトとレンゲル(Daft & Lengel)が行った研究です。彼らは、組織の情報処理要求とメディアの情報処理能力との適合関係に注目し、特に多義性の高い状況では、よりリッチなメディアが必要になると論じました。
■ メディア・リッチネスの定義
ダフトらは、メディア・リッチネスを、コミュニケーションメディアにもともと備わっている、コミュニケーションの当事者間の相互理解を促進し、とりわけ多義的な事柄について共通理解への収束を助ける能力と考えました。すなわち、メディア・リッチネスとは、コミュニケーションの当事者間で1つの共通理解に収束するために、互いの理解を変更し、異なった準拠枠を克服し、曖昧な事柄を明確にする能力属性であるとされていました。
メディア・リッチネスは、具体的には、
・迅速なフィードバックを入手できるか
・多様な手掛かりを同時に伝えられるか
・自然言語を多様に用いることができるか
・個人に焦点を当てているか
という特性を統合した能力として捉えられていました。
このことは、古典的な理論においては、誰がどこで活用したとしても、メディアにはある程度、リッチネスという能力属性が備わっていると考えられていたことを意味します。ただし、この点については、後の研究において、知覚されるリッチネスは利用経験や組織文脈によって拡張されうると考えられるようになります。
■ 伝統的メディアのリッチネス・ヒエラルキー

この考え方に基づくと、伝統的メディアにおいてリッチネスレベルが最も高いメディアは対面関係になります。ついで電話、次いで個人宛ての文書、さらに公的文書、掲示、広報などと順にリッチネスのレベルが低くなり、数値中心の報告書や統計資料は最もリーンなメディアとして位置づけられます。
対面関係は、徹底した議論を直接、しかも自然言語だけでなくボディーランゲージまで利用して行える上、その場でのフィードバックが得られます。また、対象者に焦点を絞ったコミュニケーションも可能です。したがって、メディア・リッチネスが最も高いものとして考えられています。
電話は迅速なフィードバックは可能ですが、対面関係のような視覚的な手掛かりはなく、音声のみのやり取りとなります。しかし、自然言語を用いた即時のやり取りが可能であり、対象者に焦点を絞ったコミュニケーションも可能です。
文書はフィードバックに時間がかかり、手掛かりも限定されます。特定の個人を対象としないもの、例えば掲示や広報などは、特定の個人を対象としたもの、例えば手紙やメモよりもリッチネスのレベルは低くなります。さらに、数値中心の報告書のように自然言語や個人焦点性が乏しいものは、よりリーンなメディアとして理解されます。
対して、口頭のメディアは文書メディアより、また同期的メディアは非同期的メディアより、一般にリッチネスレベルが高いと考えられてきました。ただし、伝統的メディアに関しても、その理論の予測は多くの研究で支持されてきた一方で、後続の実証研究では、社会的影響や経験、慣行などによってメディア選択や知覚が変化することも示されています。したがって、理論と実証が常に単純に一致しているとまでは言えません。
■ 情報処理モデルとの関係
この理論は、第2回で検討した組織の情報処理モデルをその基礎としています。すなわち、メディア・リッチネス理論では、組織がコミュニケーションの有効性を確保するためには、コミュニケーションタスクの情報処理負荷、特に多義性に対処し得るよう、一定のリッチネスレベルを持つメディアを活用すべきであるという、条件適合的な関係があることを前提にしていました。多義性の高い課題にはリッチなメディアが、比較的明確で定型的な課題にはリーンなメディアが適しているという考え方です。
■ 今日のデジタルメディアを含むリッチネス・ヒエラルキー

伝統的メディアを対象に作られたメディア・リッチネスのフレームワークに基づいて、今日のメディアを列挙してみると、図4のような例示は可能でしょう。Web会議やSNSは、単一のメディアというより、多様な機能が備わったものが一般的となっていますが、ここではそれぞれテレビ会議ツール、社内交流ツールとして取り上げています。ただし、今日のデジタルメディアについては、そのリッチネスを固定的な序列として一義的に決めることは難しく、利用者の経験、相手との関係、話題への習熟、組織内の運用慣行などによって、知覚されるリッチネスは変化しうると考えられています。
しかし今日、特にデジタルメディアに関しては、生来メディアに備わった能力とされてきたメディア・リッチネスは、組織において拡張・開発され得るものであると考えられています。これは、メディアの有効性が単なる技術的属性だけで決まるのではなく、組織との相互作用や利用経験の蓄積を通じて高められることを意味しています。
