ーーーー講義録始めーーーー
実践から学ぶ——テレワークにおけるデジタルメディア活用
〔インタビュー:谷口氏(レーベンクリーンエナジー 代表取締役)〕
この点に関して、次のインタビューでは、コロナ禍を契機として急速に普及・一般化したテレワークについて、レーベンクリーンエナジー代表取締役の谷口さんにお話を伺いました。テレワークで活用するデジタルメディアのリッチネスを高める組織的工夫、特にメディアの併用について指摘されています。なお、ここで述べられる評価の多くは、理論的断定というより、谷口氏の実務経験に基づく知見として理解することが重要です。
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インタビュー
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——谷口さんは2つの会社でトップマネジメントとしてご活躍されていると伺っております。コロナ禍の中、その2つの会社のテレワークの活用実態についてお話しいただけますか。
ありがとうございます。私は2つの会社、まず1つはソフトバンクグループの中でディーコープ株式会社(DeeCorp)という会社なんですが、もう一方は MIRARTH ホールディングスグループのレーベンクリーンエナジーという会社でマネジメントをやっています。
その2つの大きな違いはですね、やはりソフトバンクグループということもあるんですが、実際にはディーコープではオフィスとしてはフリーアドレスを使っています。そのフリーアドレスの中で、フレックスからスーパーフレックスをやった上で、現在はテレワーク・在宅勤務というのをやっているんですが、出社率がほぼ5%ぐらいですね。ですから、在宅というのは逆に95%という形の働き方になっています。
一方で、レーベンクリーンエナジーというのは、いわゆる昔のオフィスと言ったらいいのかもしれませんが、そういう形の皆さんが出社して仕事をしているという実態で、ほぼ100%出社をしているという形になっています。ただし、コロナになってから、実際にはお客さんへの訪問というのがなかなか難しくなっていることもあって、社内のコミュニケーションというのは、会社の中で実際に出社してやっているんですが、一方で、お客さんとの間でのテレワーク、Web会議といった形での働き方というのが徐々に増えてきているというのが今の実態でございます。
——テレワークを有効に実施していく上で、組織に欠かせないものはなんだとお考えになりますか。
はい。テレワークだけではないんですが、組織を動かすということになってきますと、1番大事なのはトップの考え方だと思います。トップの考え方ということで、組織はいかようにでも動いていきますので、まずはトップが意志を強く持ってやるということを考えないと動かないと思います。トップの考え方の中で2つ大事なものがあるんですが、1つは評価の仕方です。
なぜ評価の仕方かと申しますと、通常の働き方で、オフィスで人が会っている間というのは、マネジメントですとか管理をするというのは、時間である程度管理ができたり、見える中で管理ができるということができます。一方で、テレワークとなってきますと、物理的に人と人が会わないということが前提になってきますから、時間の管理というのがものすごく難しくなります。一方で、何をその人にやってもらうのか、その人にやってもらったことに対してどう会社が評価するのかということを徹底的にやっていくことで、人と人が離れていたとしても、組織としてのマネジメントが成り立っていくんですね。ですから、成果をどう管理するかということの中で評価を作っていく。それで組織を動かしていくということになります。
もう1つは、ITインフラです。ITインフラがなぜ必要かと言いますと、実際にテレワークになりますと、先ほど申し上げたように、物理的に人と人が離れています。そうなってきますと、どうコミュニケーションを取るかというツールが必要になってきます。そこで極めて重要な基盤になるのが IT インフラになってきます。インターネットの強みの1つは距離を超えるということですから、その距離を超えるコミュニケーションをするということが、この IT インフラの力になると思います。
ITインフラを作るときに、ネットワークとセキュリティということが大切です。これは物理的なインフラですから、ネットワークが遅かったり、ストレスがかかるようなことだとビジネスにならないですから、そこは性能的にしっかりしたものを作らなきゃいけないということになります。一方で、セキュリティというものも、ビジネスでやっているものは、会社の中で守らなきゃいけないもの、外に出てはいけないものというのがたくさんありますから、セキュリティがあやふやで穴だらけですと、インフラとして十分機能しないので、インフラとして機能させるためには、ネットワークとセキュリティというのが大事になってきます。
コミュニケーションツールの中で、一方で、単に人と人がコミュニケーションするだけではなくて、会社の中では業務のフローというのが回っています。このフローが回らないと、会社の組織が回りませんから、この IT インフラを使った上で、コミュニケーションだけでないプロセスを回す。特に1番わかりやすいのは稟議だと思います。紙の稟議でハンコをついて回すということではなくて、電子稟議、クラウドを使ったいろんなサービスがあります。それを使っていくですとか、一方で、セールスをした時のいろんな情報というのを仲間・社員で共有しないと会社は回っていきませんから、その共有するためのツールというのが、ITインフラのネットワーク・セキュリティの上に乗ったアプリケーションとして必要になってくると思います。
——テレワークに関しては、人と人とのコミュニケーションの取り方が難しいということが言われております。谷口さんは、テレワークにおいて有効なコミュニケーションを行えるメディアとはどのようなもので、どのように活用することが求められるとお考えでしょうか。
はい。テレワークで一般的に今いろんな方が使っているツールとしては、Web会議というのがあると思います。これは私たちもずっと使ってきている中で、テレワークの中では極めて重要で、欠かせないツールだと思います。社内会議のほぼ全部をディーコープでは Web会議でやっていました。Web会議の良さというのは、やはり顔が見えるということですし、表情が見えるということですし、声が聞こえる、それから情報の共有ができる、資料の共有ができるというのは、ものすごく強力なツールだと思います。これは、対面ほどではないにせよ、比較的リッチなメディアとして機能しうるという点で理解できます。
一方で、やってみて面白いなと思ったのは、テレワークになって意外にメールが役に立つということですね。これはどういうことかというと、例えばブレインストーミングをするというのは、通常、会議室に入って、5人とか6人が30分テーマを決めないでいろんなことをお話をするということがあったりするわけですけども、これをメールでやるんですね。
これが意外に良くて、どういうことかというと、例えば、1つの何かについてブレインストーミングをしようという時に、1週間とか5日とか期間を設けて、誰かがメールを入れたら、そのメールの上に誰かが返信していく、またさらに誰かが返信していくということをやっていくと、なんとなくいろんな意見が出てきて、5日経ってみると、なるほどなという結果が見えているんですね。それで終わりにするんじゃなくて、実はまた次の時に時間を取って、30分ぐらい Web会議でブレインストーミングをやるんです。そうすると、ものすごくしっかり固まったような結果が出てくるので、こういう使い方というのは、ものすごくいいなと思っています。これは、非同期的なメールと、よりリッチな Web会議の併用が有効に働いている例として理解できます。
もう1つは、電話の併用ですとか、そういったものをすることによって——これはですね、もちろん Web会議の中で音は聞こえるんですが、音声がネットの環境によって、うまく聞こえないことがあるんですね。そういう時は、Webの音声を切って、クリアな音声を出すということの中で、電話の併用ということをやったりしています。これは意外に、音というのもリアルタイムで聞こえるものなので、いい音が聞こえるというのは、相手の環境がどうなのかということが、なんとなく空気感が見えるということで、いいツールだなという風に思っています。
一方で、もう1つ、これはチャレンジしてみて、まだまだ途上だなと思っているのが、バーチャルオフィスのツールがあるんですね。これは、偶然の出会いというのはオフィスにあるので、それを醸し出して、いろんな話とかコミュニケーションを作る意味で、テレワーク・リモートワークをしている、在宅をしている中でもオフィスにいるような環境を作るということで実は使っていたんですが、やはりなかなか社員の方に使ってもらえなくて。何がまだいけなかったのかなということはわからないんですが、もしかしたら何かイベントをするなり、いろんなことを仕掛けていかないとなかなかうまく使えなかったという記憶があるので、これはもっとやり方を考えていきたいなと思っているツールです。これは、技術の能力だけでなく、組織的運用や経験の蓄積が重要であることを示す例でもあります。
——テレワークにおいて有効なコミュニケーションを行うためには、どのような組織的工夫が求められると思われますか。
はい。テレワークで1番強力なツールとして Web会議というのを先ほど申し上げましたが、Web会議だけだとどうしても足らないところというのが出てきます。
例えば「初回訪問はリアルで」ということを大切にしているんですが、初回訪問はなぜリアルかというと、まず最初にお客さんのところに行く。お客さんは私がどんな人かわからない、私もお客さんがどんな人かわからないという時に、これもメディア・リッチネスの中で1番リッチなところだと思うんですが、人と人が会うということの中で、その人の空気感だとか、肌感だとか、それをやることによって、信頼関係が醸成できるということがあります。これが最初の初回訪問では大事なことで、Web会議ではそれを十分には代替しにくいということだと思っています。一方で、初回訪問でやるだけではなくて、次に2回目・3回目という訪問があります。その時に、実際に会った時に、「次回はリモートでいいですか」ということの許可(パーミッション)を取るということが、次以降のミーティングをものすごくスムーズにするということがあるので、初回訪問ではそれをやっていきたいなという風にやっています。
一方で「ハイブリッドで訪問」ということがあるんですが、このハイブリッドで訪問というのはどういうことかというと、実際に全部を Web会議で2回目以降でもやったとしても、なかなか通じないことがあるんですね。特に専門性のことだとか、そういうものを話し出すと、向こうでお客さんが1人でいて、こっちが4人でいたり、向こうのお客さんが3人いてもいいんですが、通じない時にいくら説明してもわかってもらえない。その時に向こうに1人だけ私たちの人間が行っているとします。こっち側に3人がリモートで。わかってもらえない時に、その1人の人間は、私たちはわかっていますから、お客さんに対してしっかりトランスレーション(翻訳・橋渡し)をしてもらえる。これでものすごく深い理解が深まるということになります。この Web会議で通じないところを現地の人がそこで補完するというのは、ある意味、メディア・リッチネスが高いところと低いところということの中で、どうそれを融合していくかということが、ものすごく有効に機能することだと思います。これは、複数メディアや複数チャネルの併用が実践上有効であることを示す事例として理解できます。
——今後さらにテレワークが浸透すると、リアルなオフィスは必要とされるのでしょうか。また、それはなぜだと思われますか。
はい。テレワークがどんなに進んだとしても、オフィスはなくならないだろうと私は思います。オフィスの役割というのは、逆にこのコロナの中でリモートをやっていく中で、はっきり見えてきたような思いがありますね。実際には次の3つのオフィスの役割ということで、社員みんなで考えたんですね。皆さんの意見として出てきたのがこの3つなんです。
【図5:テレワーク下においてオフィスが果たす3つの役割】
① オフィスのファシリティの利用
大型ディスプレイ、大判図面、広い作業スペースなど
在宅では代替できない設備を活用できる。
② 偶然の出会い(セレンディピティ)
移動中・廊下・休憩室での偶発的な会話が
新たなアイデアや化学反応を生む。
③ ロイヤリティと帰属意識
「この会社に属している」という安心感を与え、 孤立感・不安感を軽減する。
1つ目は、オフィスのファシリティの利用です。例えば家で仕事をしていると、どうしても小さい机だったりとか、狭いところであったりとか、そういう時に、大きな図面を見たいとか、書類を大きく広げたいとか、そういったことをやろうとした時には、家では絶対に無理なんですね。ですから、そういう時に会社のファシリティを使いたくなる。例えば、大きな Excel のファイルを見ていく時に、小さい画面では全く仕事にならないんですね。全体を俯瞰しなきゃいけないので、やっぱり大きな画面で大きなスプレッドシートを見ていきたい。そういったように、会社のファシリティでしかできないこと、それを効率的に使うということはオフィスの役割の大きな1つだと思うんですね。
2つ目は、偶然の出会いです。リモートワークでは、誰々と Web会議をやろうという時は、例えば3人・4人でそのメンバーしか会えないです。ですけども、会社で、オフィスで会議室で4人で会議をしようとすると、オフィスに行くとき、会議室に行くとき、偶然の出会いがそこにはたくさんあるんですね。その中で、「あれ、どうなった」とか、「なんか今これで悩んでいるんですけど」とか、いろんなことを話している中で、いろんな化学反応が起こって、新しいビジネスモデルが生まれたり、いろんな新しいアイデアが生まれる。これはオフィスの持つすごい力だと思うんです。それがなくなるということはないので、逆になくしたら会社にとっては損害だと思います。
3つ目は、ロイヤリティと帰属意識です。リモートワークや在宅勤務をしていると、どうしても1人ぼっちになります。その時に自分が精神的に不安になったりとか、自分がどこに属しているのかとか、自分このまま仕事してていいのかという不安に陥ることがあります。これは、例えば、皆さんが学生の時に、授業には行かないのに、例えば午後3時ぐらいに学校に行って、ラウンジに行って誰かを探して、そのままどこかに飲みに行くということと同じように、学校に行くということが、そこに帰属しているということで、人に安心感を与えていると思うんですね。実際にリモートワーク社員になったとしても、だんだん不安になるということに対して、会社に行く、あのオフィスに行ったら自分がこの会社に属しているんだということがはっきり認識できるというのは、大きな会社・オフィスの役割だと思うんですね。これをしっかりオフィスとして持つということが大事になってくると思います。ですから、今まで働くだけの、ファシリティを使うだけのオフィスから、逆に言うと、ロイヤリティだとか帰属意識を高めるためのオフィス作りというのも、もしかしたらこれから出てくるんじゃないかなという風に思ったりしています。
(以上は、谷口氏の実務的見解として理解されるべきであり、普遍的法則としてではなく、テレワーク時代のオフィス再定義の一例として読むのが適切です。)
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まとめ
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今後、デジタル世代が活躍するようになってくると、組織のコミュニケーションでは今以上に、組織がデジタルメディアをいかに活用するかという組織の活用能力が問われるようになるでしょう。組織独自の工夫がより重要になる時代を迎えていると言えます。とりわけ、単一メディアの客観的能力だけでなく、組織における経験の蓄積、社会的意味づけ、複数メディアの組み合わせといった要因が、コミュニケーションの有効性を左右するようになります。今回は組織のコミュニケーションについて考察しました。
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【主な用語解説】
・バーナード(C. I. Barnard):近代組織論の代表的論者。組織成立の基本条件として「共通目的」「協働意思(貢献意思)」「コミュニケーション」を重視した。
・サイモン(H. A. Simon):近代組織論の中核を担う研究者。組織を意思決定の過程として捉え、その中で情報伝達やコミュニケーションが重要な役割を果たすと論じた。
・スプロールとキースラー(Sproull & Kiesler):ICT の組織的効果に関して、コンピュータ媒介コミュニケーションの効果を first-level effects と second-level effects に分けて考える視点を提示した。第1段階は効率化などの予測されやすい効果、第2段階は社会的関係や行動様式の変化などの予期しにくい効果である。
・ダフトとレンゲル(Daft & Lengel):メディア・リッチネス理論の提唱者。組織の情報処理要求、とくに多義性への対処との関係から、メディアのリッチネスを論じた。
・カールソンとズムッド(Carlson & Zmud):チャネル拡張理論の提唱者。経験の蓄積により、デジタルメディアの知覚されるリッチネスが拡張されると主張した。
