【講義の目的とポイント】
今回は経営戦略と情報活用について見ていきたいと思います。企業における
情報活用について、経営戦略との関係で考えるということで、経営学で議論
されている経営戦略論をベースに、経営情報システムがどのように考えられ
てきたかを見ていきたいと思います。
今回の講義の目的とポイントはこちらです。
まず最初に、経営学における経営戦略論の流れを簡単に見ておきます。次に、
1980年代から90年代前半にかけて大きなブームとなった戦略的情報システム
(SIS)を振り返り、情報といわゆるICT(情報技術)の戦略的活用について、
事例を基に考察いたします。そして最後に、近年の経営戦略論の考え方を踏
まえて、情報活用のあり方を検討いたします。
ーーーー講義録始めーーーー
経営戦略論の誕生:チャンドラーとアンゾフ
さて、今回のキーワードの1つは経営戦略ですが、現代的な経営戦略論の形成において初期に大きな影響を与えた代表的研究者として、1962年にチャンドラー(Alfred D. Chandler Jr.)が著した『Strategy and Structure』と、1957年の論文「Strategies for Diversification」および1965年の著書『Corporate Strategy』で戦略論を体系化したアンゾフ(H. Igor Ansoff)を挙げることができます。チャンドラーはそこで経営戦略を、「企業の基本的・長期的目標・目的の決定、目標・目的の遂行にあたって取るべき行動方向の採択、必要な諸資源の配分」と定義しています。
チャンドラーは、GMだけでなく、du Pont、General Motors、Standard Oil of New Jersey、Sears といったアメリカの大企業を取り上げて、戦略の変化と組織構造の変化を研究の中心課題としていました。そこでは、企業が成長の過程で、販売量の拡大、地理的拡大、垂直統合、多角化といった戦略を進めるのに応じて、事業部制組織をはじめとする新しい組織構造へ移行していったことが示されています。
企業が組織を変えるよりも前に、まずその企業が何を長期的な目標とするのか、さらにその目標を達成するためにどのような行動を取るべきか、という戦略を立案することが重要であることが明らかになったのです。ここからチャンドラーの有名な命題、「組織は戦略に従う(Structure follows Strategy)」という考え方が生まれました。
チャンドラーとほぼ同じ時代、1960年代に、アンゾフ(H. Igor Ansoff)は、企業における意思決定との関係で戦略を考察しています。1965年に書かれた『Corporate Strategy』の中で、アンゾフは戦略を、組織の発展を導く意思決定ルールないしガイドラインの1つとして捉えています。また、企業における意思決定の種類は、戦略的決定・管理的決定(administrative decisions)・業務的決定(operating decisions)の3つに分けられるとされます。このうち戦略的決定とは、主に企業の外部環境との関係を確立し、企業がどの事業にあり、どの事業を目指すのか、そして長期目標をどう定めるのかに関わる意思決定です。これに対して業務的決定は、日常的な運営や資源配分、スケジューリング、業績管理など、企業の内部的な運営に関わる意思決定です。
さて、その外部環境との関係で中心をなすのは、企業がどの製品をどの市場に向けて展開するか、という問題です。アンゾフはこれを、製品と市場の組み合わせによる成長戦略として整理しました。とくに有名なのが製品・市場マトリックスで、これは1957年の論文「Strategies for Diversification」で示された、4つの基本的成長代替案――市場浸透・市場開発・製品開発・多角化――を整理したものです。1965年の『Corporate Strategy』は、こうした発想をさらに体系化したものと理解するとよいでしょう。
これを図にするとこのようになります。これはアンゾフの製品と市場の組み合わせを描いたものです。
【図1:アンゾフの製品・市場マトリックス(Ansoff Matrix)】
| 既存製品 | 新製品 | |
|---|---|---|
| 既存市場 | (A) 市場浸透(Market Penetration) | (B) 製品開発(Product Development) |
| 新市場 | (C) 市場開発(Market Development) | (D) 多角化(Diversification) |
例えば、新たな製品やサービスを、今持っている市場(既存の市場)で売るのであれば、(B)の「製品開発」、すなわち既存市場に対して新しい製品を開発して売り出すという戦略が取られます。あるいは、今ある製品(既存の製品)を新たな市場(新しい市場)、例えば今まで国内だけだったものを海外で売るというような場合には、(C)の「市場開発」という戦略が選択されることになります。なお、(A)の「市場浸透」は既存製品を既存市場でさらに深く販売していく戦略であり、(D)の「多角化」は新市場に新製品を投入する、4つの中では最も新規性の高い戦略です。

