F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

PPM・SWOT・DSSで学ぶ分析型アプローチ―経営戦略と情報活用の基礎 #放送大学講義録(経営情報学入門第4回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

分析型アプローチ:PPM・SWOT・DSS

さて、1970年代に入りますと、それまで多角化によって拡大してきたアメリカの大企業では、様々な事業にどのように経営資源を配分するのかということが大きな問題となってきました。事業が増えれば増えるほど、どの事業に投資を続け、どの事業から資金を回収し、どの事業からは撤退するのかを、全社的な視点から判断する必要が出てきたのです。アメリカの代表的な大企業の1つであるGE(ゼネラル・エレクトリック)も、当時そうした複数事業の管理という問題に直面していました。

この時代には、複数事業を評価するためのポートフォリオ分析の手法が発展しました。ただし、ここで区別しておく必要があります。BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が普及させたのは、一般にBCGマトリックス、または成長率・シェア・マトリックスと呼ばれる手法です。これは、BCGのAlan Zakonらが原型をつくり、Bruce Henderson が1970年の “The Product Portfolio” で広く知られるようにしたものです。一方、GEがマッキンゼーと関係して発展させたのは、GE–McKinsey nine-box matrix と呼ばれる別のポートフォリオ評価手法です。したがって、GEがBCGと共同でPPMを編み出したというよりも、1970年代前後に、BCGマトリックスやGE–McKinseyマトリックスのような複数事業の評価手法が発展し、経営資源配分の最適化が重要な課題として意識されるようになった、と理解する方が正確です。

このように、経営者の直感だけに頼るのではなく、一定の分析枠組みを用いて市場、競争上の地位、事業の収益性、資金需要などを整理し、戦略を立案していこうとするやり方を、ここでは「分析型アプローチ」と呼ぶことにします。分析型アプローチでは、戦略形成を比較的体系的な手順として捉え、計画段階で情報を集め、分析し、選択肢を比較し、経営資源を配分するという考え方が強くなります。

分析型アプローチの代表的なものといえるものが、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:Product Portfolio Management)です。ここで中心になるのが、BCGマトリックス、あるいは成長率・シェア・マトリックスです。この考え方は、ある事業がどれだけ資金を生み出し、またどれだけ資金を必要とするかは、市場成長率と相対的マーケット・シェアの組み合わせによって大きく左右される、という見方に立っています。BCGは、このマトリックスを、複数事業の優先順位づけと資源配分を考えるためのポートフォリオ管理の枠組みとして説明しています。

この図のように、縦軸に市場成長率、横軸に相対的マーケット・シェアをとって、この4つのマトリックスによって今後の展開をどうすべきかを分析いたします。一般的な図では、左側を相対的マーケット・シェアが高い側、右側を低い側として描くことが多くなっています。

【図2:BCGマトリックス(PPM:プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)】

 
  相対的マーケット・シェア:高い 相対的マーケット・シェア:低い
市場成長率:高い 花形(Star) 問題児(Question Mark)
市場成長率:低い 金のなる木(Cash Cow) 負け犬(Dog / Pet)

 

 

例えば、「金のなる木」と言われるマトリックスの1つですが、ここは市場の成長率はそれほど高くはないけれども、自社の相対的マーケット・シェアは高いということですので、自社製品はそれなりによく売れていてお金は入ってくる上に、なおかつ成長率が低いですから、もはやそれほど追加的な投資、たとえば大規模な設備投資や販売促進投資などをする必要がない。結果として、多くのキャッシュフローを生み出し、その資金を他の成長事業に回すことができるだろうと考えるわけです。BCGの説明でも、低成長・高シェアの事業は “cash cows” とされ、そこから得られる資金を再投資する対象として位置づけられています。

反対に「負け犬」ですが、こちらは市場成長率がもはや低いということです。しかも自社の相対的マーケット・シェアも低いですので、あまり将来的に、事業を継続しても大きな見込みがないだろうと判断されます。したがって、場合によっては、撤退、売却、縮小、あるいは再配置といった戦略が考えられるわけです。ただし、現実の経営では、単に「負け犬だからすぐ撤退」と機械的に決めるのではなく、他事業との相乗効果、ブランド維持、顧客関係、技術蓄積なども考慮する必要があります。

分析型アプローチの1つで、今日でもよく使われるものとしてSWOT分析があります。SWOTとは英語の頭文字で、強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)・機会(Opportunities)・脅威(Threats)、この4つの英語の頭文字です。これは、自社の内側にあるプラス要因とマイナス要因、そして自社の外側にあるプラス要因とマイナス要因を整理するための基本的な枠組みです。SWOT分析は、現在でも戦略立案の入口として広く使われている代表的な分析手法です。

【図3:SWOT分析】

 

  内部環境 外部環境
プラス面 強み(Strengths) 機会(Opportunities)
マイナス面 弱み(Weaknesses) 脅威(Threats)

 

内的要因、主に内部環境といってもいいかもしれませんが、それぞれ自社の強みあるいは弱みを分析して、その組織の力、すなわちコンピタンス、能力、資源、技術、人材、ブランド、組織文化などを明らかにするというものです。そして、外部環境、それは企業の外との関係性ということになりますが、どういった機会がその会社の前にあるのか、それからどういった脅威に取り囲まれているのかということを分析し、それらから成功と失敗の要因を明らかにして戦略を形成しようという考え方です。

SWOTは、従来は1960年代にハーバード・ビジネス・スクールのケネス・アンドルーズ(Kenneth Andrews)らによって体系化・普及したと説明されることが多く、1965年の Business Policy: Text and Cases は、戦略論のデザイン・スクールを広めた重要な教科書として位置づけられます。ただし、近年の研究では、SWOTの直接的な起源について、SRIのLong Range Planning Serviceで用いられたSOFTアプローチが、のちにStrengths、Weaknesses、Opportunities、Threatsへと再ラベル化されたものだとする見解が示されています。したがって講義では、SWOTはHBS系の戦略論によって広く普及したが、その起源についてはSOFT/SRIにさかのぼる研究もある、と補足しておくのが正確です。

こうした分析型アプローチにおける情報活用は、いずれの戦略を取るべきかという意思決定を支援するための情報提供が中心でした。代表的なものとして、1970年代から80年代にかけて発展したDSS(Decision Support System:意思決定支援システム)が挙げられます。DSSは、経営者や管理者の意思決定をコンピュータで自動的に置き換えるものというより、データや分析モデルを用いて、人間の判断を支援するシステムとして考えられました。DSSは、コンピュータによって分析能力や情報提供力を高め、意思決定の質を改善することを目的としていました。

DSSの古典的な議論として、1971年のゴリー(Gorry)とスコット・モートン(Scott Morton)による枠組みが挙げられます。ここで注意したいのは、彼らが組み合わせたのは、アンゾフの意思決定分類というよりも、ハーバート・サイモン(Herbert A. Simon)の意思決定の構造化度、すなわち構造的・半構造的・非構造的な問題の区別と、ロバート・アンソニー(Robert N. Anthony)の管理活動の階層、すなわち戦略計画・管理統制・業務統制の区別である、という点です。この枠組みの中で、DSSは特に、完全に定型化された問題ではなく、データやモデルによる支援は可能だが、最終的には人間の判断も必要になる半構造的な問題に有効であると考えられました。

また、スプレイグとカールソン(Sprague and Carlson)は、DSSを構築するための実践的な枠組みを示しました。DSSの構成要素としては、データを扱うデータベース、分析やシミュレーションを扱うモデルベース、そして利用者がシステムとやり取りするための対話的なインターフェース、すなわちダイアログ・ジェネレータが重要になります。のちの整理では、ユーザー・インターフェース、データベース、モデルと分析ツール、DSSアーキテクチャやネットワークといった要素として説明されることもあります。

当時のコンピューター・システムは、今日のようにPC上で簡単に表計算ソフトやデータベースソフトを使えるものではありませんでした。1960年代から70年代にかけては、大型計算機、いわゆるメインフレームやタイムシェアリング、対話型端末、モデル指向のシステムなどを用いながら、経営上の分析を支援することが構想されました。ただし、リレーショナル・データベースについては、E. F. Codd が1970年に関係モデルを提案し、その後1970年代にSystem Rなどの研究開発が進み、商用化が1970年代末以降に広がっていきました。そのため、1970年代のDSS一般を「メインフレームにリレーショナル・データベースを載せて使った」と説明するのはやや強すぎます。より正確には、DSSはデータ、モデル、対話的な利用環境を組み合わせて、経営者が検索・集計・分析・シミュレーションを行えるようにしようとしたものだといえます。

現在では、PC上で表計算ソフトやデータベースソフトを使い、What-If分析、ゴール・シーキング、最適化、シナリオ分析など様々なシミュレーションができます。機能としては、かつてのDSSが目指していた「データとモデルによって意思決定を支援する」という考え方に近いものです。さらに現在では、DSSという名称だけでなく、BI(Business Intelligence)、データウェアハウス、OLAP、ダッシュボード、スコアカード、データマイニング、AIによる分析支援など、より多様な形で意思決定支援の仕組みが発展しています。