ーーーー講義録始めーーーー
資源ベース・ビュー:バーニーとVRIO分析、戦略サファリ
1990年代初頭になりますと、ポーターとは異なる見方で競争戦略論を展開する人々が、いっそう注目を集めるようになっていきます。ただし、この資源ベース・ビュー(Resource-Based View:RBV)の形成は、1990年代に突然始まったものではありません。企業を「資源の集合」として見る考え方は、すでにペンローズ(Edith Penrose)の1959年の研究に重要な源流があり、Wernerfelt の1984年論文 “A Resource-Based View of the Firm” も、企業を製品側からだけでなく資源側から見ることの有効性を示した重要な研究でした。その後、1991年のバーニー(Jay B. Barney)の論文 “Firm Resources and Sustained Competitive Advantage” によって、企業資源と持続的競争優位の関係がより明確に理論化され、RBVは経営戦略論の中心的な見方の1つとして広く知られるようになっていきます。
彼らは、ポーターたちのポジショニング・ビューは、業界の産業構造や市場での位置取りという外部環境の分析に重心を置いていると見ます。この考え方は、業界構造や競争要因を分析するうえでは非常に強力ですが、それだけでは、同じ業界の中にいても企業ごとに収益性や競争力が異なるのはなぜか、あるいは同じような外部環境に置かれていても、ある企業だけが長く優位を保つのはなぜか、という問題を十分に説明しきれない面があります。そこでRBVの論者たちは、競争優位の源泉を、業界の外部構造だけでなく、企業の内部に蓄積された独自の経営資源や能力にも求めるべきだと主張するわけです。
そして、ポジショニングだけでなく、たとえ平均的には魅力がそれほど高くない業界であっても、企業が独自の資源や能力をうまく活用し、他社が容易に模倣できない仕組みを作ることができるならば、利益を上げ続けることは可能であると考えます。また、経営資源や能力の活用の仕方によっては、低コストや差別化といった競争優位の源泉を企業内部から生み出すことができるというふうに考えました。RBVは、競争優位が企業の資源と能力の関数であるという立場をとるものとして説明されます。
その代表的な論者の1人がジェイ・バーニー(Jay B. Barney)です。バーニーは、持続的競争優位を左右する要因として、その企業が保有し、活用している資源やケイパビリティ(capability:能力)に注目しました。ここで言う資源とは、物的資源だけではありません。技術、人材、組織プロセス、情報、知識、ブランド、評判、組織文化など、企業が戦略を構想し実行するために利用できる幅広いものが含まれます。したがって、RBVでは、企業戦略の一環として、こうした資源やケイパビリティを開発し、蓄積し、それを組織として適切に活用できるかどうかが、持続的競争優位を考えるうえで重要になるのです。
バーニーによれば、持続的競争優位とは、ある企業が価値を創造する戦略を実行しており、しかも現在および潜在的な競争相手がその戦略の便益を複製できない状態を指します。つまり、持続的競争優位の源泉となるのは、単に市場でよいポジションを取ることだけではなく、その企業が保有し、他社が簡単には獲得・模倣できない独自の資源やケイパビリティであるということになります。
バーニーが前提とする企業の考え方は大きく2つあります。1つ目は、企業は資源の集合、あるいは束であり、個々の企業ごとにそれらの資源は異なっているという考え方です。これを「資源の異質性」と言います。もう1つの前提は、経営資源の中には、企業間で簡単に移転したり、他社が同じものをすぐに購入・複製したりできないものがあるという考え方で、これを「資源の非移動性」と言います。Barney の1991年論文でも、戦略的資源は異質であり、移動しにくいものと仮定されています。
これら2つの前提の上で、企業は、経済的価値が高く(Valuable)、希少であり(Rare)、かつ模倣することが困難で(Inimitable)、さらに組織によって適切に活用されている(Organized)資源や能力・ケイパビリティを開発し、保持することが重要であると言います。ただし、ここで注意しておきたいのは、バーニーの1991年論文で明示された古典的な条件は、Value、Rareness、Imitability、Substitutability、つまり価値・希少性・模倣困難性・代替困難性に近い枠組みであったという点です。その後の議論や教科書的整理の中で、企業がそれを活用できるように組織されているかという Organization の要素が強調され、現在よく知られるVRIO分析として整理されるようになりました。
こうした考え方は、経営資源や能力を重視することから、資源ベース・ビュー(Resource-Based View:RBV)という略称で呼ばれています。RBVは、企業の競争優位を、外部環境だけでなく、企業内部の資源やケイパビリティから説明しようとする見方です。もともとWernerfeltの1984年論文が “A Resource-Based View of the Firm” という題名で発表され、その後、Barneyをはじめとする研究者によって発展していきました。
RBVに基づき、企業の持つ経営資源を分析し、それが競争優位につながるかどうかを検討する手法がVRIO分析と呼ばれるものです。これは、それぞれの英語の頭文字、経済的価値(Value)・希少性(Rarity)・模倣困難性(Imitability)・組織(Organization)の頭文字です。より実践的には、「その資源や能力は価値があるか」「希少か」「模倣にコストがかかるか」「企業はそれを活用できるように組織されているか」という4つの問いを順番に考える枠組みです。
【図6:VRIO分析フレームワーク】
| 経済的価値 Value | 希少性 Rarity | 模倣困難性 Imitability | 組織 Organization | 競争上の含意 |
|---|---|---|---|---|
| No | — | — | — | 競争劣位 |
| Yes | No | — | — | 競争均衡 |
| Yes | Yes | No | — | 一時的競争優位 |
| Yes | Yes | Yes | No | 未活用の競争優位・潜在的競争優位 |
| Yes | Yes | Yes | Yes | 持続的競争優位 |
この表で重要なのは、VRIOが単なるチェックリストではなく、資源が競争優位に変わっていく条件を段階的に考える枠組みだということです。価値がなければ、その資源は競争劣位につながる可能性があります。価値はあっても希少でなければ、多くの企業が同じように利用できるため、競争均衡にとどまります。価値があり希少でも、他社が容易に模倣できるならば、その優位は一時的なものにとどまりやすい。さらに、価値があり、希少で、模倣困難であっても、企業がそれを活用できるように組織されていなければ、競争優位は潜在的なものにとどまります。したがって、持続的競争優位を得るには、資源そのものの性質だけでなく、それを活かす組織能力が必要になるのです。
以上、1960年代から現代までの代表的な経営戦略論を見てまいりました。今ご紹介した以外にも、経営戦略については実に多くの概念や定義が生まれてきましたが、いまだみんながこれでいけると納得できるような戦略論が1つに定まっているわけではありません。むしろ、複雑さを増す経営環境の変化の中で、戦略論は多様な見方を併存させながら発展してきたと言った方がよいでしょう。
そうした状況を見て、経営学者のヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)は、ブルース・アルストランド(Bruce Ahlstrand)、ジョセフ・ランペル(Joseph Lampel)とともに、多くの獣がうろうろしているアフリカのサバンナをなぞらえて『戦略サファリ(Strategy Safari: A Guided Tour through the Wilds of Strategic Management)』という本をまとめています。同書の初版は1998年に刊行され、戦略形成に関する10の学派を整理したものとして知られています。こちらは、そこに出てくるミンツバーグたちの戦略論の分類です。ここでは10種類の「戦略論」というより、戦略形成をどう捉えるかについての10の学派が挙げられています。
【図7:『戦略サファリ』における10の戦略形成学派】
| 学派 | 戦略形成の捉え方 |
|---|---|
| デザイン・スクール | 構想・設計のプロセス |
| プランニング・スクール | 公式的・計画的なプロセス |
| ポジショニング・スクール | 分析的なプロセス |
| アントレプレナー・スクール | ビジョン形成のプロセス |
| 認知スクール | 認知・思考のプロセス |
| 学習スクール | 創発的な学習のプロセス |
| パワー・スクール | 交渉・政治のプロセス |
| 文化スクール | 集合的・文化的なプロセス |
| 環境スクール | 環境への反応プロセス |
| コンフィギュレーション・スクール | 変革・転換のプロセス |
将来が不透明な状況下で、成功している企業とそうでない企業の分かれ目は一体何なのか。そこに普遍的な原理・理論があるのではないか。多くの企業が考え、その手がかりを経営戦略論に求めているのです。ただし、戦略論は1つの万能理論に収束しているというよりも、外部環境を見る視点、企業内部の資源を見る視点、学習や組織文化を見る視点、権力や交渉を見る視点など、複数の視点を使い分けながら発展してきました。だからこそ、経営戦略を学ぶことは、1つの正解を覚えることではなく、企業が置かれた状況に応じて、どの視点で問題を捉えるべきかを考えることでもあるのです。
