ーーーー講義録始めーーーー
デジタル・プラットフォームとデータドリブン経営
さらに、2000年代になると、インターネット上に共通の土台、一般にプラットフォームと言われるものを構築してビジネスを行う企業が、大きな存在感を持つようになります。もちろん、プラットフォーム戦略そのものはそれ以前から議論されてきましたし、オンライン・プラットフォームの起源も1990年代にさかのぼることができます。しかし、検索、EC、SNS、アプリストア、動画配信、広告、クラウドなどを含むデジタル・プラットフォーム企業が、2000年代以降に世界規模で急速に影響力を拡大したことは、現代の経営情報学を考えるうえで非常に重要です。OECDも、オンライン・プラットフォームがネットワーク効果、規模・範囲の経済、低コストで高速な取引、広い市場到達力などを活用して、経済社会の中で重要性を高めたと説明しています。
ここで言ういわゆるデジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルは、需要側、つまり消費者や利用者のニーズに合わせて、供給側、つまりメーカー、サービス事業者、広告主、アプリ開発者、コンテンツ提供者などを結びつける仕組みを提供するものです。たとえば、検索サービスは利用者と情報・広告を結びつけ、ECモールは買い手と売り手を結びつけ、SNSは利用者同士や広告主を結びつけ、アプリストアはアプリ開発者と利用者を結びつけます。そして、広告料、取引手数料、出店料、サブスクリプション、アプリ内課金、クラウド利用料などを収益源とするものが多く見られます。ただし、すべてのプラットフォームが同じ収益モデルを持つわけではなく、企業ごとに収益構造は多様です。
中でも、GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)といった略語に代表されるグローバルに展開するプラットフォーマーは、インターネット上にサービスの基盤を提供します。ただし、現在の正式な企業グループ名として見ると、GoogleはAlphabet傘下の主要事業であり、Facebookは社名をMetaに変更しています。そのため、現在の規制や政策文書では、Alphabet、Amazon、Apple、Meta、Microsoft、ByteDance などの企業名で語られることが多くなっています。実際にEUのDigital Markets Actでは、2023年9月に Alphabet、Amazon、Apple、ByteDance、Meta、Microsoft が最初のゲートキーパーとして指定されました。
これらのプラットフォーマーは、多くのユーザーにサービスを利用させることを通じて、検索履歴、購買履歴、閲覧履歴、広告反応、位置情報、アプリ利用、取引記録など、多様なデジタルデータを大規模に収集・蓄積し、それらを解析してサービス改善、広告配信、推薦、価格設定、物流最適化、新規サービス開発などに活用してきました。したがって、ここで重要なのは、単にサービスを提供しているだけではなく、サービス利用を通じてデータが集まり、そのデータがさらにサービスを強くし、さらに多くの利用者を集めるという循環が働く点です。OECDも、デジタル化の中でデータ駆動型ビジネスモデルが多くの分野に広がり、プラットフォームがネットワーク効果や両面市場の性質を活用することを指摘しています。
こうしたプラットフォーム型のビジネスでは、より多くの利用者を集めることで、より多くのサービスや商品、コンテンツ、アプリ、広告主、サービス提供者が集まり、それがさらに多くの利用者を引き寄せるという、ネットワーク効果が働きます。このネットワーク効果に加えて、規模の経済や範囲の経済、データの蓄積、ブランド、既存利用者の乗り換えコストなどが重なると、市場が少数の巨大企業に集中しやすくなります。ただし、ロックインとは、利用者や取引先が特定サービスから乗り換えにくくなる状態を指す言葉であり、寡占化そのものとは区別して理解する必要があります。経済産業省関連資料でも、デジタルプラットフォーム市場では、ネットワーク効果や規模の経済性などを通じて独占化・寡占化が進みやすく、取引上の依存やプライバシー上の懸念が指摘されるようになったと説明されています。
一般に、寡占的な市場では競争が十分に働きにくくなる場合があり、市場支配力を持つ企業は高い収益性を得やすくなります。しかし、寡占であれば必ず高い利益率が保証されるわけではありません。規制、技術変化、新規参入、代替サービス、消費者行動の変化によって競争条件は変わります。したがって、デジタル・プラットフォーム企業の強さは、単に「大きいから強い」というだけでなく、ネットワーク効果、データ、補完サービス、ブランド、エコシステム、乗り換えコストなどが組み合わさって形成されていると考える方が正確です。
しかしながら、その一方で、個人情報の取り扱い、競争制限、自己優遇、取引条件の不透明性、アプリストアや広告市場での支配力といった観点から、こうしたグローバルなデジタル・プラットフォーマーの企業活動に法規制や何らかの制限を加える動きが世界的に進んでいます。EUでは、Digital Markets Act(DMA)により、指定されたゲートキーパーに対して義務が課され、2024年3月から最初に指定された企業が全面的な義務遵守を求められています。また、Digital Services Act(DSA)では、EU内で月間4500万人を超える利用者を持つ大規模オンライン・プラットフォームや検索エンジンに対し、違法コンテンツやシステムリスクへの対応など、規模に応じた追加義務が課されています。
日本でも、デジタル・プラットフォームをめぐる透明性と公正性を高めるための制度が整備されています。「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」は、特定デジタルプラットフォーム提供者を指定し、取引条件の開示、透明性・公正性の評価などを通じて、公正で自由な競争と国民経済の健全な発展に資することを目的としています。経済産業省も、この法律が「指定されたデジタルプラットフォーム提供者」を特定の規制対象とし、透明性・公正性の自主的改善を求めるものだと説明しています。
また、近年では、データドリブン経営やデジタル・トランスフォーメーション(DX)といった言葉に見られるように、収集・蓄積されたデジタルデータに基づいて経営戦略を立案する、あるいは蓄積されたデジタルデータの活用そのものを自社のビジネスモデルの中核に置き換える動きも見られます。ただし、DXを単なるデータ活用やデジタル化とだけ捉えると不十分です。経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」では、DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルを変革するとともに、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することと定義されています。
例えば、ある大手建設機械メーカー、具体的にはコマツの事例を考えてみましょう。コマツは建設・鉱山機械、ユーティリティ、林業機械、産業機械などを主な事業とする企業です。従来は建設機械という「モノ」を販売することが中心でしたが、建設工事の現場が本当に必要としているのは、建機そのものだけではありません。実際には、測量し、計画し、施工し、進捗を管理し、検査し、工事全体を安全かつ効率的に進めることが重要です。そこでコマツは、デジタルデータを駆使して建設現場のプロセス全体を支援するスマートコンストラクションを展開しています。
例えば、工事前の測量・計画、実際の現場での施工、完成後の検査、それぞれのところでドローン、ICT建機、3次元データ、クラウドなどを活用してデジタルデータを集め、それらをつないで全体のプロセスをデジタルで管理していくわけです。スマートコンストラクションの公式サイトでは、測量・調査・計測、施工計画・分析、作図、建設機械・車両、施工管理などの領域で、現場の地形把握、施工シミュレーション、稼働モニタリング、進捗管理、データ統合管理などを支援することが示されています。また、コマツカスタマーサポートの説明では、ドローン等で計測して生成した3次元データをクラウドで一括管理し、現場状況をリアルタイムで確認しながら、施工から検査までを効率的・効果的に管理するとされています。
測量の段階では、ドローン等により高精度な3次元測量を行い、点群データから現況地形を3次元データ化することができます。検査の段階では、施工後の計測点群データと3次元設計データから出来形評価用データを生成し、完成検査に対応した帳票を作成することもできます。つまり、ここでの価値は、単に高性能な建機を売ることだけではなく、建設現場全体をデータで可視化し、計画、施工、管理、検査のプロセスをつないで、生産性や品質を高めることにあります。
自社が提供すべき価値(バリュー)が何なのか。顧客が本当に必要としているのは何なのか。ビッグデータやデータサイエンスが注目される時代となり、データや情報と経営戦略との結びつきはこれからもますます強いものとなっていくでしょう。ただし、データを集めれば自動的に競争優位が生まれるわけではありません。重要なのは、データをどのような顧客価値に変えるのか、どの業務プロセスに組み込むのか、どのような意思決定やビジネスモデルの変革につなげるのかということです。デジタル・プラットフォームも、データドリブン経営も、DXも、最終的には「情報を使って、どのように価値を創造するか」という経営情報学の根本問題につながっているのです。
【図:デジタル・プラットフォームとデータドリブン経営の関係】
| 論点 | 内容 | 経営情報学上の意味 |
|---|---|---|
| デジタル・プラットフォーム | 利用者、事業者、広告主、開発者などを結びつける共通基盤 | 企業内システムから企業間・顧客接点を含む情報基盤へ拡張 |
| ネットワーク効果 | 利用者が増えるほどサービス提供者が増え、さらに利用者が増える | 勝者集中、寡占化、ロックインを説明する重要概念 |
| データ蓄積 | 検索、購買、閲覧、広告反応、取引記録などが集まる | 推薦、広告、価格設定、物流、サービス改善に活用 |
| 規制・ガバナンス | 個人情報、競争制限、透明性、公正性への対応 | 技術戦略だけでなく法制度・倫理・社会的責任が重要になる |
| データドリブン経営 | データに基づく意思決定とビジネスモデル変革 | 勘や経験だけでなく、データ分析を経営判断に組み込む |
| DX | データとデジタル技術で製品・サービス・業務・組織を変革 | 単なるIT導入ではなく、競争優位を生む経営変革 |
