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SECIモデルとは何か:暗黙知と形式知から学ぶ知識創造のメカニズム #放送大学講義録(経営情報学入門第5回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

知識創造のメカニズム——SECIモデル

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第2のポイントは、「どうすれば知識の創造と活用を促進できるのか」というHowの問いです。

ここからは、知識の創造と活用を支援するために、知識創造のメカニズム、主要な促進要因、そして経営情報システムの設計方針について理解を深めていきたいと思います。中心に置くのは、ナレッジマネジメント、すなわちKMの分野で広く知られるようになった「組織的知識創造理論」です。

この理論は、野中郁次郎と竹内弘高らによって発展させられた理論であり、企業がどのように新しい知識を生み出し、それを組織の力へと変えていくのかを説明しようとするものです。とくに有名なのが、暗黙知と形式知の相互変換を説明するSECIモデルです。SECIモデルは、共同化、表出化、連結化、内面化という4つの知識変換モードから構成されます。

■ 暗黙知と形式知

この理論の前提となっているのは、知識には大きく分けて「暗黙知」と「形式知」という2つの側面がある、という考え方です。

ここで注意したいのは、すべての知識がきれいに2種類へ分けられる、という意味ではないことです。実際の知識は、言葉にできる部分と言葉にしにくい部分が入り混じっています。したがって、暗黙知と形式知は、知識を理解するための2つの基本的な見方だと考えるとよいでしょう。

・暗黙知(tacit knowledge):
言語や数値で完全に表現することが困難な、主観的・身体的・経験的な知識のことです。具体的には、直観、熟練技能、ノウハウ、勘どころ、ものの見方、状況判断の感覚などが相当します。場合によっては、信念や価値観も暗黙知と深く結びついています。暗黙知という考え方の背景には、マイケル・ポランニーの「私たちは語れる以上のことを知っている」という有名な考え方があります。

たとえば、自転車の乗り方を考えてみましょう。自転車に乗れる人は、バランスの取り方を体で知っています。しかし、その人に「なぜ倒れずに乗れるのかを、すべて言葉で説明してください」と言っても、完全には説明できません。料理人の火加減、職人の手触り、営業担当者の間合い、看護師の患者への声かけなども同じです。知ってはいるけれど、言葉だけでは伝えきれない。これが暗黙知です。

・形式知(explicit knowledge):
言語、数値、図表、記号、文章などによって表現でき、他者に共有しやすい知識のことです。具体的には、文章、方程式、仕様書、マニュアル、設計図、データベース、報告書、業務手順書などがこれに該当します。

ただし、形式知は「形式化されているから常に正しい」という意味ではありません。形式知とは、あくまで言葉や数値などで表現され、保存・共有・検索・組み合わせがしやすくなった知識です。形式化された知識であっても、古くなったり、文脈を失ったり、現場に合わなくなったりすることはあります。

新たな知識は、暗黙知と形式知が互いに関係し合い、変換され、組み合わされることによって生成されます。これが「知識変換(Knowledge Conversion)」という、組織的知識創造理論の中核概念です。重要なのは、知識が個人の頭の中に閉じ込められたままでは、組織の力になりにくいということです。暗黙知が共有され、言葉になり、組み合わされ、実践を通じてまた身体化される。その循環の中で、組織の知識は育っていきます。

■ SECIモデル

知識創造のプロセスは、「共同化(Socialization)・表出化(Externalization)・連結化(Combination)・内面化(Internalization)」という4つのモードを経るというモデルによって説明されます。このモデルは、それぞれの変換モードの頭文字を取って「SECIモデル」と呼ばれています。SECIモデルは、暗黙知と形式知の相互作用を通じて、個人の知識が集団や組織の知識へと広がっていく過程を説明する枠組みです。

変換モード 知識変換の方向 内容
S:共同化 Socialization 暗黙知 → 暗黙知 共体験、観察、模倣、実践を通じて暗黙知を共有する
E:表出化 Externalization 暗黙知 → 形式知 対話、比喩、概念化を通じて暗黙知を言葉や図にする
C:連結化 Combination 形式知 → 形式知 既存の形式知を組み合わせ、整理し、新しい形式知を作る
I:内面化 Internalization 形式知 → 暗黙知 実践、反復、内省を通じて形式知を身体化する

 

この4つの知識変換は、一度きりで終わるものではありません。共同化、表出化、連結化、内面化が繰り返されることで、知識は螺旋状に広がっていきます。個人の気づきが集団で共有され、組織の仕組みに変わり、さらに社会や組織間のネットワークにまで広がっていく。このような動きが、知識スパイラルと呼ばれます。

S——共同化(Socialization)とは、個人と個人が共同体験によって暗黙知を共有するモードです。「技は習うものでなく盗むもの」というポリシーの徒弟制度のもとでは、弟子は共同体験の中での観察や模倣を通じて、親方の価値観や技能を体得していきます。言葉で細かく説明されなくても、同じ場にいて、同じ作業を見て、同じ空気を吸い、同じ失敗を経験することで、少しずつ分かってくるものがあります。

製品開発の際に、開発メンバーが製品の使用現場に足を運んで、ユーザーの生活感覚や文化風土を肌で感じ取るというのも共同化の一例です。たとえば、会議室でアンケート結果を読むだけでは見えてこないことがあります。実際に顧客の家を訪ね、使い方を見せてもらい、ちょっとした不満や戸惑いに触れることで、初めて見えてくる知識があるのです。五感を働かせ、言語化されていない知識を獲得するのが共同化モードです。

E——表出化(Externalization)とは、個人や集団がメタファーや対話を通じて、暗黙知を形式知に変換するモードです。言語化困難な暗黙知を、それでもなんとかして言葉や図やコンセプトにしようとすることで、共同体験の範囲に限定されずに知識が広がっていく可能性が開けます。

ここで大切なのは、表出化が単なる説明作業ではないということです。暗黙知は、最初からきれいな文章として頭の中にあるわけではありません。何となく感じていること、うまく言えない違和感、体で覚えている判断を、比喩や物語や図を使って、少しずつ形にしていく。表出化とは、そのような苦労を伴う作業です。

また、徹底的な概念化を行うために現実から少し距離を置くことで、単なる顧客迎合を超える価値を生み出す可能性も開けてきます。顧客が口にした要望をそのまま実現するだけでは、新しい価値には届かないことがあります。顧客自身もまだ言葉にできていない欲求を、開発者側が対話を通じて掘り起こし、概念として表現する。そこに表出化の面白さがあります。

このモードの出現例は、個人に体化されている熟練技能をマニュアルに落とし込もうとする時や、製品開発チームが新製品のコンセプトを決定しようとする時などに見ることができます。ただし、暗黙知を形式知に変換しても、暗黙知のすべてが完全に移し替えられるわけではありません。言葉にできた部分の背後には、なお言葉にしきれない経験や感覚が残ります。だからこそ、表出化は一度で終わるのではなく、対話を重ねながら少しずつ深められていくのです。

C——連結化(Combination)とは、形式知の抽象度を高めたり、形式知同士を組み合わせたりして、新しい形式知を創造するモードです。報告書、仕様書、データ、議事録、マニュアル、研究成果、顧客情報など、すでに形式知として存在している知識を整理し、編集し、組み合わせることで、新しい知識を作り出します。

新製品のコンセプトがすでに言葉として表現されている場合、それを製品スペック、設計情報、工程表、販売資料などへ展開していく作業は、連結化として理解できます。また、複数の記事を編集して雑誌全体の体系的なメッセージを紡ぎ出す作業や、複数部門のデータを統合して新しい経営指標を作る作業も、このモードの典型です。

コンピューターネットワーク、データベース、グループウェア、ナレッジ共有システムなどを利用することで、時空間を超えた情報共有を実現することも、この連結化モードに含まれます。経営情報システムによる支援が比較的行いやすいモードであると言えます。なぜなら、連結化で扱う知識は、すでに言葉、数値、文書、データといった形式を取っていることが多いからです。

ただし、ここにも注意点があります。情報を集めれば自動的に知識が生まれるわけではありません。形式知を組み合わせるには、何を重要と見るか、どの文脈で読むか、どの順番で整理するかという判断が必要です。つまり、連結化にも人間の解釈や構想力が欠かせないのです。

I——内面化(Internalization)とは、実践と内省を通じて形式知を暗黙知に変換するモードです。形式知を暗黙知にするには、頭で理解するだけではなく、体で納得しなければなりません。マニュアルを読んだだけでは、仕事ができるようにならない。研修を受けただけでは、現場で自然に動けるようにならない。知識は、使ってみて、失敗して、振り返って、また試す中で、ようやく自分のものになっていきます。

強い信念を持ち続けたり、技能をいつでも発揮できる状態にしておいたりするためには、実践による追体験や反復練習が必要です。営業のロールプレイ、製造現場での訓練、システム操作の演習、ケーススタディ、プロジェクト後の振り返りなどは、内面化を支える活動です。

内面化が進むと、形式知は単なる外部のルールではなくなります。最初は手順書を見ながらでなければできなかった作業が、やがて自然にできるようになる。最初は頭で考えながら行っていた判断が、やがて状況を見ただけでできるようになる。このように、形式知が個人や集団の暗黙知へと変わっていくのです。

■ 知識スパイラル

以上の4モードを通じた暗黙知と形式知の知識変換は、認識論の次元における螺旋的プロセスとして捉えることができます。ここでいう認識論の次元とは、暗黙知と形式知がどのように相互に変換されるかという次元です。

同時に、このプロセスは、個人、集団、組織、そして組織間や社会的ネットワークという異なるレイヤーでも起こっています。野中らの議論では、知識創造は個人レベルから始まり、集団、組織、さらに組織間へと広がっていく螺旋的なプロセスとして説明されます。

組織的知識創造の基盤は、個人の暗黙知です。現場で感じた違和感、顧客とのやり取りから得た感覚、長年の経験で身につけた勘どころ。こうしたものは、最初は個人の中にあります。個人の暗黙知は、共同化によって他者に共有されます。同じ現場に入り、同じ経験をし、互いの行動を見ながら、言葉にならない知識が少しずつ伝わっていきます。

暗黙知を形式知にする表出化は、個人が単独で行うこともできます。しかし、暗黙知を共有した集団で行う方が、より効果的・効率的であると言えます。なぜなら、表出化には多様な視点と対話が有効だからです。1人では「何となくこうだ」としか言えなかったことも、他者から問い返されることで、「そうか、自分はここを大事にしていたのか」と気づくことがあります。対話は、暗黙知を言葉にするための鏡のような役割を果たします。

形式知同士の組み合わせである連結化は、組織レベルで行うことが可能となります。文脈依存度が比較的低い形式知は、時間が経っても、空間が隔たっても、意味が大きく変化・減衰しにくいという特徴があります。そのため、形式知を獲得する範囲を広げることが容易になります。

たとえば、ある部門の成功事例を文書化しておけば、別の部門がそれを読み、自分たちの状況に合わせて応用できます。ある地域で得られた顧客データを、別の地域の販売戦略に活用することもできます。経営情報システムは、この連結化を支える重要な道具になります。

形式知を暗黙知にする内面化は、個人、集団、組織の各レベルで行われます。個人で言えば、マニュアルや研修内容を実践の中で体得することです。集団で言えば、チームが共通の手順や考え方を実践しながら、自分たちらしい仕事の進め方として身につけていくことです。組織で言えば、理念や方針やルールが、単なる掲示物ではなく、日々の判断や行動の中に浸透していくことです。

形式知は実践を通じて個人に内化されると同時に、集団や組織の暗黙知としても吸収されます。このようにして、個人の知識と組織の知識が質量ともに増幅していくプロセスは「知識スパイラル」と表現されます。この表現は、知識が螺旋のように高まりながら広がっていく様子をイメージさせます。

ただし、実際の組織における知識創造は、モデル上のスムーズな経路とは異なって、もっと複雑な経路をたどっています。常にS、E、C、Iの順番で美しく進むわけではありません。連結化から始まることもあれば、内面化の途中で新たな暗黙知が生まれ、それがまた共同化や表出化につながることもあります。モデルは現実を単純化して理解するための地図であって、現実そのものではありません。

個人、集団、組織、社会の各レイヤー内だけでなく、異なるレイヤー間を連結する活動も生じています。個人の気づきがチームの対話を生み、チームの対話が組織の制度やシステムに変わり、組織の知識が顧客や取引先、地域社会との関係の中でさらに更新されていく。知識創造とは、このような動的で開かれたプロセスなのです。

だからこそ、知識創造を促進するためには、単にマニュアルを作ればよい、データベースを整備すればよい、という話にはなりません。共体験の場を作ること、対話を促すこと、形式知を整理し共有すること、実践と振り返りを繰り返すこと。この4つが結びついて初めて、組織の中で知識は生きたものになります。


3. 講義用整理表:SECIモデルの4モード

モード 変換 代表的な活動 経営情報システムとの関係
共同化 暗黙知 → 暗黙知 共体験、観察、模倣、同行、現場訪問 直接支援は難しいが、交流機会の設計や記録共有で補助できる
表出化 暗黙知 → 形式知 対話、比喩、図解、コンセプト化、マニュアル化 議事録、ナレッジ投稿、ホワイトボード、生成支援ツールなどが役立つ
連結化 形式知 → 形式知 文書整理、データ統合、編集、分析、仕様化 データベース、検索、グループウェア、BI、文書管理と相性がよい
内面化 形式知 → 暗黙知 実践、反復練習、研修、ケース学習、振り返り eラーニング、シミュレーション、業務支援、振り返り記録が支援する