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経営情報システムは何を支援するのか:情報処理から知識創造へ進む設計方針 #放送大学講義録(経営情報学入門第5回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

経営情報システムの設計方針

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■ 経営情報システムの役割の再定義

ここまでの講義内容を踏まえると、本講義では「経営情報システム」を、「情報通信技術を用いて企業・組織の価値創造活動を支援するシステム」と定義することができます。

もちろん、経営情報システムという言葉には、もう少し狭い定義もあります。たとえば、企業経営に関わるデータや情報を処理し、組織の運用や意思決定に役立てるシステムとして理解することもできます。経営情報システムを、組織の運用に関連したデータや情報を提供するシステムとして説明する整理もあります。

しかし、現在の経営情報学は、単に情報を処理する技術だけを扱う学問ではありません。経営情報学は、人と技術と組織を包括的に研究する学問領域として説明されることもあり、デジタル化、イノベーション、価値創造、社会的価値といった問題にも関わっています。

その意味で、経営情報システムに求められる役割は、情報処理活動支援だけではなく、「知識創造活動支援」にまで広がっていると考えることができます。

従来の経営情報システムは、どちらかと言えば、すでに決まっている業務を正確に、速く、効率よく処理するための仕組みとして理解されてきました。売上を記録する。在庫を管理する。受注を処理する。会計情報を集計する。生産計画を立てる。こうした情報処理活動は、企業を動かすうえで今も欠かせません。

しかし、企業に求められる価値創造が、生産中心のものから革新重視のものへ広がると、経営情報システムも変わらざるを得ません。すでにある情報を処理するだけでなく、まだ見えていない問題を発見すること、異なる知識を結びつけること、現場の気づきを組織の知識に変えること、外部の情報や人材とつながること。こうした活動を支えることが、これからの経営情報システムに求められているのです。

ここからは、知識の創造と活用を支援する経営情報システムの設計方針について論じていきます。

■ 知識管理から知識経営へ

情報処理型組織におけるナレッジマネジメントは、「知識管理」に限定されてしまう傾向があります。ここでいう知識管理とは、主に、すでに存在する知識を集め、保存し、検索し、共有し、再利用する仕組みを整えることです。

たとえば、マニュアルを整備する。過去の提案書を共有する。FAQを作る。成功事例をデータベース化する。業務手順を文書化する。こうした取り組みは、もちろん重要です。組織の中で同じ失敗を繰り返さないためにも、ベテランの知識を若手に伝えるためにも、知識の共有や再利用は欠かせません。

ただし、ナレッジマネジメントをそこだけに限定してしまうと、個人や組織が新しい知識を生み出していく力にはつながりにくくなります。KM研究では、SECIモデルが、暗黙知と形式知の相互作用と変換を通じて新しい知識が創造されるプロセスを説明する枠組みとして位置づけられています。

つまり、本来のナレッジマネジメントは、既存知識の保管庫を作るだけではありません。人と人が出会い、経験を共有し、言葉にならないものを言葉にし、形式化された知識を組み合わせ、実践の中で自分たちのものにしていく。その一連のプロセスを支えることが必要です。

ここで、「知識管理」から「知識経営」への転換が重要になります。

知識管理が、既存の知識をどう蓄積し、どう共有し、どう再利用するかに力点を置くとすれば、知識経営は、組織能力を継続的に成長させるために、知識が生まれ、使われ、更新されるプロセスそのものに注目します。知識を「管理する対象」としてだけではなく、「価値創造を動かす力」として捉えるわけです。

生産活動を主体とする組織が経営情報システムに求める役割は、「従来産出物や従来投入物の数量を把握し、これを予測して管理しやすいようにすること」であると言えます。たとえば、何をどれだけ作ったか、材料をどれだけ使ったか、在庫がどれだけ残っているか、需要がどれくらい見込まれるかを把握することです。

これに対して、革新活動を主体とする組織が経営情報システムに求める役割は、「新規産出物や新規投入物を探索しやすいようにすること」であると言えるでしょう。つまり、まだ明確に定まっていない顧客課題を見つけること、新しいアイデアの種を集めること、社内外の知識を結びつけること、異なる専門を持つ人が協働できるようにすることです。

ただし、ここで誤解してはいけないのは、生産活動支援が不要になるわけではないということです。数量管理、工程管理、品質管理、会計管理、顧客管理は、企業の土台です。そのうえに、探索、対話、知識共有、実験、学習を支える機能が加わっていく。つまり、経営情報システムの役割は置き換わるのではなく、広がっていくのです。

これまでは、与えられた業務を確実・迅速にこなすマニュアルワークのみが求められていた現場従業員に、今後は、企業内外の資源を動員して革新を引き起こし、顧客価値を発見するというナレッジワークも同時に求められる度合いが強まっています。

経営情報システムには、こうしたナレッジワークの支援も求められるでしょう。具体的には、現場の気づきを記録する仕組み、顧客の声を共有する仕組み、部門を越えて相談できる仕組み、過去の知識を検索できる仕組み、外部情報にアクセスできる仕組み、アイデアを試し、振り返り、学習する仕組みが必要になります。

■ 設計の方向性

限定合理性に縛られた人間が経営情報システムに求める役割は、「自己の処理能力を超える情報が流れ込まないようにするフィルタリング」であると言えます。

私たちは、すべての情報を見て、すべてを理解し、すべてを比較して意思決定できるわけではありません。情報が多すぎれば、かえって判断できなくなります。したがって、情報処理型の経営情報システムでは、必要な情報を選び、不要な情報を除き、優先順位をつけ、分かりやすい形で提示する機能が重視されます。これは今も重要です。むしろ情報が爆発的に増えている現在において、フィルタリングの重要性はますます高まっています。

これに対して、知りたがりの人間が経営情報システムに求める役割は、次のようなものです。

・異質の人間、異質の情報と偶然に出会う機会を増やすこと
・出会った際の対話を生産的にするための文脈共有を容易にすること

知識創造においては、自分がすでに知っている情報だけを効率よく処理していても、新しいものはなかなか生まれません。むしろ、自分の専門とは違う人、自分の部署とは違う人、自分の会社の外にいる人、自分が普段見ない情報と出会うことで、新しい問いが生まれます。

ただし、この「偶然の出会い」は、ただの偶然任せではありません。経営情報システムは、偶然が起こりやすい条件を設計することができます。たとえば、社内SNSで別部門の投稿が見えるようにする。プロジェクトの知見をタグでつなぐ。過去の事例を関連情報として提示する。社員の専門性や関心を見える化する。外部ニュース、顧客データ、研究情報、市場動向を組み合わせて提示する。こうした仕組みは、異質な情報との出会いを支えます。

コワーキングスペースの設置と運用などは、このための一例です。ただし、コワーキングスペースは経営情報システムそのものというより、知識創造を促す「場」の設計例として理解した方がよいでしょう。そこに、予約システム、コミュニティ管理ツール、チャット、オンライン会議、ナレッジ共有基盤、イベント運営の仕組みなどが組み合わさることで、物理的な場とデジタルな場が結びつきます。こうして初めて、場は単なる作業場所ではなく、知識創造を支える環境になります。

情報処理的観点を持つ組織が経営情報システムに求める役割は、端的には「定型的な小さなタスクの自動化や代行」と、「全体から部門、そして個人へと指示命令を円滑に伝達すること」であると言えるでしょう。

たとえば、伝票処理、受発注処理、在庫確認、勤怠管理、レポート作成、進捗管理、承認フローなどは、情報システムによって大きく効率化できます。また、組織の上位方針を部門目標に落とし込み、さらに個人のタスクへ展開する仕組みも、情報システムによって支えられます。この場合、経営情報システムは、組織を大きな情報処理機械として安定的に動かすための神経系のような役割を果たします。

これに対して、知識創造的観点を持つ組織が経営情報システムに求める役割は、次のようなものです。

・場の創設および活性化の支援
・個人が外界情報にリアルタイムにアクセスできるようにすること
・暗黙知を表出化しやすくすること
・形式知を組み合わせ、再利用しやすくすること
・実践と振り返りを記録し、学習につなげること
・部門や企業の境界を越えた協働を支援すること

たとえば、顧客接点で得られた気づきをすぐに記録できる仕組み、現場の写真や動画を共有できる仕組み、開発部門と営業部門が同じ顧客課題を見ながら議論できる仕組み、プロジェクト終了後の学びを次のプロジェクトに引き継ぐ仕組みなどが考えられます。

ここで経営情報システムに求められるのは、単なる効率化ではありません。人と人をつなぎ、経験と言葉をつなぎ、過去の知識と未来の可能性をつなぐことです。

言い換えれば、情報処理型のシステム設計では、「いかに迷わず、速く、正確に処理するか」が重視されます。知識創造型のシステム設計では、それに加えて、「いかに気づき、出会い、語り、組み合わせ、学び直すか」が重視されます。

この2つは対立するものではありません。現代の経営情報システムには、両方が必要です。日常業務を安定して処理する力がなければ、組織は回りません。しかし、日常業務を処理するだけでは、新しい価値は生まれません。したがって、これからの経営情報システムは、情報処理の基盤でありながら、同時に知識創造の土壌でもある必要があります。

▼ 講義全体のまとめ

本講義では次の2点を扱いました。

第1のポイントは、「なぜ知識の創造と活用が課題となってきたのか」という問いです。

その答えとして、価値創造方法、組織形態、ワークスタイルの3つの側面から変化が起きていることを見てきました。

価値創造方法については、生産から革新へと重点が移っています。もちろん、生産が不要になったわけではありません。しかし、単に効率よく作るだけではなく、新しい製品、新しいサービス、新しいビジネスシステム、新しい顧客体験を生み出すことが重要になっています。

組織形態については、情報処理型から知識創造型へと重点が広がっています。階層と分業によって情報負荷を小さくし、効率よく処理する組織だけでなく、異なる文脈を持つ人々が出会い、対話し、新しい意味を作る組織が求められています。

ワークスタイルについては、マニュアルワークからナレッジワークへと比重が移っています。決められた目的を、決められた手段で達成するだけでなく、現場の従業員もまた、顧客価値を発見し、知識を創造する担い手になりつつあります。

第2のポイントは、「どうすれば知識の創造と活用を促進できるのか」という問いです。

その答えとして、組織的知識創造理論、特にSECIモデルを理解した上で、「場」「知識資産」「リーダーシップ」の3要件を整備し、それを支援する経営情報システムを設計することが重要であると説明しました。

SECIモデルは、共同化、表出化、連結化、内面化という4つの知識変換を通じて、暗黙知と形式知が相互に変換され、知識が個人から集団、組織、さらに組織間へと広がっていく過程を説明します。

場は、知識が生まれる文脈共有の関係性です。知識資産は、知識創造の成果であると同時に、次の知識創造の土台です。リーダーシップは、価値の方向性を示し、場を作り、知識資産を生かし、矛盾を統合しながら、知識創造のプロセスを支える働きです。

そして経営情報システムは、これらを支える基盤になります。情報を処理するだけでなく、人と人をつなぎ、知識を共有し、対話を生み、外部情報へのアクセスを開き、実践と振り返りを組織の学習へと変えていく。そのようなシステム設計が、これからの経営情報システムには求められているのです。

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【キーワード】
ナレッジマネジメント(KM)、情報処理型組織と知識創造型組織、組織的知識創造理論、SECIモデル、暗黙知と形式知、知識スパイラル、場の創設と活性化、知識資産の評価と活用、リーダーシップの発揮と育成、知識経営、経営情報システム、ナレッジワーク
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3. 講義用整理表:経営情報システムの設計方針

観点 情報処理型の設計 知識創造型の設計
中心課題 決められた情報を正確・迅速に処理する 新しい知識や価値を生み出す
主な対象 定型業務、数量、工程、在庫、会計、進捗 顧客課題、現場の気づき、対話、外部情報、学習
システムの役割 自動化、集計、検索、報告、指示命令の伝達 場づくり、知識共有、文脈共有、探索、協働支援
人間観 限定合理性を持つ情報処理者 知りたがり、学びたがる知識創造者
重要な機能 フィルタリング、標準化、ワークフロー、ダッシュボード 社内SNS、ナレッジ共有、共同編集、外部情報連携、振り返り支援
目指す成果 効率化、ミス削減、統制、安定運用 創造性、学習、革新、顧客価値発見