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ブルントラント委員会とは何か――持続可能な発展と「将来世代への責任」 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第1回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

ブルントラント委員会の定義――「将来世代への責任」
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そこで、本来の言葉の意味を考えてみましょう。「持続可能な発展(Sustainable Development)」という言葉の定義付けとして、世界中で最も広く知られ、私たちが課題解決に取り組む上で重要な示唆を与えてくれる定番の定義があります。それは、環境と開発に関する世界委員会、英語ではWorld Commission on Environment and Development、通称「ブルントラント委員会」が1987年にまとめた報告書『我ら共通の未来(Our Common Future)』における定義です。

ちなみにこの委員会は、ノルウェーの医師であり政治家でもあり、環境大臣、そしてノルウェー初の女性首相となったグロ・ハーレム・ブルントラント(Gro Harlem Brundtland)氏が委員長を務めました。そこで委員長の名前をとって、通称「ブルントラント委員会」と呼ばれています。ブルントラント氏は、医師としての経歴を持ちながら、環境政策、社会政策、国際保健の分野でも大きな役割を果たした人物です。

そのブルントラント委員会での定義は、「持続可能な発展とは、将来世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような発展」というものです。したがって、そのような発展のあり方が社会全体として実現されている状態を、「持続可能な社会」と考えることができます。

この定義は現在でも、各国の政策立案や企業の戦略構築、自治体の計画づくり、関係者間での対話など、様々な場面においてより所とすべきものとして活用されています。本科目でも、このブルントラント委員会の定義をもとにして話を進めていきます。

この定義には、大きく2つの要素が組み込まれています。まず、前半に出てくる「将来世代の人々がそのニーズを満たす能力を損なわない」ということは、将来世代に配慮するということです。例えば、自然資源を使い尽くしてしまう、環境を汚染する、生態系を壊してしまう、気候変動のリスクを拡大するといったことがないように、将来世代のために地球環境を保全する責任ある行動を取ることと解釈することができます。「持続可能な発展」という言葉は環境問題と結びつけて用いられることが多いので、この考え方は皆さんにも理解しやすく、なじみやすいことかと思います。

一方、定義の後半には「現在の世代のニーズを満たすような発展」とあります。この意味については、前半の将来世代に配慮した環境に関する責任に比べると、「持続可能な発展」という言葉から一般的にはあまり連想されることがないのではないでしょうか。

この定義の後半の中心命題は、「今の生活をより良い状態にする」ということです。そして、今日の時点で満たされていないニーズといえば、典型的には、途上国における貧困層の切実なニーズがあります。食料、安全な水、衛生、住居、医療、教育、雇用など、「ベーシック・ヒューマン・ニーズ(Basic Human Needs)」とも呼ばれる、人間として尊厳を持って生きていくために必要不可欠な基本的なニーズすら満たされていない人々の生活をより良くすると理解すれば、「現在の世代のニーズを満たす発展」という言葉もわかりやすいと思います。

ここで大切なのは、将来世代のことを考えるからといって、現在の世代の貧困や不平等を放置してよいわけではない、という点です。反対に、現在の世代の生活を良くするためだからといって、自然環境を壊し、資源を使い尽くし、将来世代の選択肢を奪ってよいわけでもありません。ブルントラント委員会の定義が優れているのは、この両方を同時に考えようとしているところにあります。

つまり、将来世代のために環境を保全しながら、今の生活をより良い状態にしていくことであり、端的に言い換えると、「環境」と「貧困」という2つの大きなグローバルな課題を同時に解決するような発展のあり方と考えられます。もちろん、ここでいう「貧困」は、単に所得が少ないという意味だけではありません。安全な水にアクセスできないこと、十分な教育を受けられないこと、安心して働けないこと、医療や住まいが保障されないこと、社会の意思決定から排除されることなども、人間らしい生活を妨げる重要な問題です。

したがって、持続可能な発展とは、単純に右肩上がりの成長が続くという話ではありませんし、よく考えられがちな環境だけの問題でもありません。そして、環境と開発という2つの問題を二者択一ではなく同時に解決することが必要であり、経済、社会、環境を統合的に捉えながら、新たな発展のあり方の実現を目指すものだといえます。

言い換えれば、「持続可能な発展」は、未来のために我慢するだけの考え方でも、現在の豊かさだけを追い求める考え方でもありません。現在を生きる人びとの基本的な生活を支えながら、将来世代が生きるための環境や資源、社会の基盤を壊さないようにする。その両方を成り立たせるために、私たちの生活、企業活動、政治、地域社会、国際協力のあり方を問い直していく考え方なのです。

図表:ブルントラント委員会の定義に含まれる2つの視点

視点 定義の中の表現 具体的な意味 関係する主な課題
将来世代への責任 将来世代が自らのニーズを満たす能力を損なわない 未来の人びとが生きるための環境・資源・社会基盤を守る 気候変動、生物多様性、資源枯渇、環境汚染
現在世代への責任 現在の世代のニーズを満たす いま生きている人びとの基本的な生活条件を改善する 貧困、水・衛生、食料、医療、教育、雇用、住居
統合的な発展 環境と開発を同時に考える 環境保全か開発か、という二者択一を超える 経済・社会・環境の調和、公正な制度、参加と協働
持続可能な社会 上記が社会全体として成り立つ状態 現在と未来の双方に責任を持つ社会 政策、企業、地域、市民生活、国際協力