ーーーー講義録始めーーーー
定義に込められた2つの公平――「環境と開発」の不可分な関係
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実際に、「ブルントラント委員会」と呼ばれることが多いこの委員会の正式名称は、「環境と開発に関する世界委員会(World Commission on Environment and Development:WCED)」です。ここで大事なのは、この委員会の名前の中に、すでに「環境」と「開発」という2つの言葉が並んで入っているという点です。つまり、持続可能な発展という考え方は、最初から環境問題だけを扱うものでも、経済開発だけを扱うものでもなく、この2つを切り離せないものとして考えるところから出発しているのです。
報告書の序文で、ブルントラント委員長は、もしこの委員会が環境だけを扱うものになっていたなら、それは大きな誤りであっただろうという趣旨のことを述べています。また、開発についても、限られた専門家だけが扱う問題、あるいは「貧しい国をいかに豊かにするか」という狭い問題として理解されてしまうなら、それもまた不十分であるという問題意識を示しています。報告書が強調しているのは、環境とは私たちが生きている場所そのものであり、開発とはその場所の中で私たちの生活をより良くしようとする営みである、ということです。だからこそ、「環境」と「開発」は本来、切っても切り離せない深い関係にあるのです。
この相互依存性を認識して、しかもすべての人々と国々に関わる共通の課題として提示されたものが、「持続可能な発展」という定義です。環境を守ることは、経済や生活を止めることではありません。反対に、開発を進めることは、自然環境を壊してもよいということでもありません。環境と開発のどちらか一方を選ぶのではなく、両方を同時に考え、両方を成り立たせる道を探ること。ここに、持続可能な発展という考え方の出発点があります。
以上から、「持続可能な発展」とは、2つの公平、つまり定義の前半で言う「将来世代と現在の世代との間での世代間の公平」と、後半で言う「現在の世代内での富裕層と貧困層との間における公平」という概念を含むものであるということもできます。世代間の公平とは、いまを生きる私たちが、将来世代の生きる条件を奪わないということです。世代内の公平とは、同じ時代を生きている人々の間で、貧困や格差、不平等を放置しないということです。
したがって、「持続可能な発展」とは、2つの公平が満たされた、社会的に公正な発展という考え方なのです。つまり、その根底には、倫理的な公正性や社会正義、そして人間尊重の考え方があります。これは、持続可能性を単なる環境保護の標語として理解するのではなく、「誰が負担を負い、誰が利益を受け、誰の生活が守られ、誰の声が届いていないのか」を問い直す考え方として理解する、ということでもあります。この点は本科目を学ぶ上で鍵となる重要な点なので、よく理解していただきたいと思います。
また、1987年の定義から長い年月が経ちましたが、今でもこの言葉がよく用いられているのは、そのような発展の実現が決して容易ではなかったことを示しています。経済成長は、仕事や所得を生み出し、生活を豊かにし、貧困問題の解決につながることがあります。しかしその一方で、成長の進め方によっては、地球温暖化、生態系の破壊、資源の過剰利用、廃棄物の増加などをもたらすことがあります。また、グローバリゼーションの進展とともに、世界全体として富が増えても、その富が一部に集中し、格差や不平等が拡大する場合もあります。
つまり、成長そのものが常に悪いというわけではありません。問題は、どのような成長なのか、誰のための成長なのか、その成長が環境や将来世代にどのような負担を残すのか、そしてその利益が社会の中でどのように分配されるのかという点にあります。環境と開発の両立は、これまでの努力にもかかわらず、なお十分には実現していません。だからこそ、持続可能な発展は、いまなお目指すべき発展のあり方として、人類共通の課題であり続けているのです。
また時の経過とともに、「持続可能な発展」の概念は、人権、社会的包摂、人々の健康、教育、ジェンダー平等、働きがいのある人間らしい仕事、平和で包摂的な社会、責任ある消費と生産、パートナーシップなど、幅広いテーマを構成要素として含むようになり、概念が広がってきました。この広がりは、「持続可能な発展」という考え方が有用なものとして多くの人々に受け入れられ、国際社会の共通言語として発展してきたからだと言ってよいでしょう。
特に、2015年に国連加盟国によって採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、持続可能な開発は、経済・社会・環境の三側面を統合的に捉えるものとして位置づけられました。そこでは、貧困の撲滅が持続可能な開発にとって不可欠な課題であること、人権、ジェンダー平等、女性と女児のエンパワーメントが重要であること、そして17の持続可能な開発目標、いわゆるSDGsが、相互に関連し合い、切り離せない目標群であることが示されています。
しかし、その中核的命題は変わっていません。すなわち、環境と貧困、そしてより広く言えば、環境の持続可能性と人間の尊厳ある生活を、別々の問題としてではなく、統合的に解決していくことです。環境を守ることと、人々の生活を良くすること。将来世代への責任と、現在世代の中の不平等を正すこと。この両方を同時に考えるところに、「持続可能な発展」という考え方の核心があります。
図表:持続可能な発展に含まれる「2つの公平」
| 公平の種類 | 誰と誰の公平か | 中心となる問い | 具体的な課題 |
|---|---|---|---|
| 世代間の公平 | 現在世代と将来世代 | いまの私たちは、未来の人々の生きる条件を奪っていないか | 気候変動、資源枯渇、生物多様性の損失、環境汚染 |
| 世代内の公平 | 現在世代の中の富裕層と貧困層、先進国と途上国、社会の中で力を持つ人々と取り残されやすい人々 | 同じ時代を生きる人々の間で、貧困・格差・不平等を放置していないか | 貧困、教育格差、健康格差、ジェンダー不平等、雇用、住居、水・衛生 |
| 統合的な視点 | 環境と開発 | 環境保全と生活改善を二者択一にしていないか | 経済・社会・環境の統合、包摂的成長、責任ある消費と生産 |
| 社会的公正 | 社会全体 | 誰が負担し、誰が利益を受け、誰の声が届いていないのか | 参加、ガバナンス、パートナーシップ、人権、社会的包摂 |
