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地球規模の環境問題と貧困問題――気候変動・生物多様性・格差を読み解く #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第1回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

地球規模の課題を直視する――環境問題と貧困問題の実態
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次に、もう少し具体的に、私たちが生きている世界が抱えている問題を見ていきましょう。長い時間軸で、しかも地球全体のことを考えてみると、いろいろなことが見えてきます。ふだんの生活の中では、どうしても自分の身近な範囲に関心が向きます。しかし、持続可能な社会を考えるためには、遠い地域で起きていること、将来世代に影響すること、そして環境と貧困が互いに結びついていることを、できるだけ具体的に見ていく必要があります。

例えば、皆さんも高い関心を持っておられると思いますが、気候変動の問題があります。近年、世界各地で熱波、豪雨、干ばつ、森林火災、洪水などの極端な気象・気候現象が深刻な被害をもたらしています。地球温暖化の主な原因は、人間の活動による温室効果ガス排出量の増加です。IPCC、すなわち気候変動に関する政府間パネルは、人間活動、とくに温室効果ガスの排出が地球温暖化を引き起こしていることは疑う余地がないと評価しています。産業革命以降、人間活動に伴う温室効果ガス濃度は上昇し、2011年から2020年の世界平均気温は1850年から1900年と比べて約1.1℃高くなりました。

温室効果ガスの排出は、18世紀後半の産業革命以降に大きく増加してきました。ただし、「この数十年でほぼ倍増」と言うと少し強すぎます。IPCC第6次評価報告書によれば、2019年の世界の人為起源温室効果ガス排出量は、1990年と比べて約54%増加し、2010年と比べて約12%増加しています。つまり、正確には「近年も増加が続き、1990年比で5割強増えている」と理解するのが適切です。 私たちの社会に与えるその影響は、食料不足や水不足、健康被害、生態系の損失、災害リスクの増大、住まいや暮らしの不安定化など、今後ますます範囲が拡大し深刻化すると予想されています。IPCCは、気候変動がすでに食料安全保障と水安全保障を低下させ、極端な暑さによる死亡や健康被害、感染症リスクの増加にもつながっていると評価しています。

気候変動以外の環境問題も、グローバル規模で、また長期的な問題として捉える必要があります。例えば、資源の持続可能な利用や循環型社会の構築も差し迫った問題です。現在、世界では、人間が消費するために生産された食料のおよそ3分の1、約13億トンが毎年失われるか廃棄されているという、食品ロス・食品廃棄の問題があります。これは、単に「もったいない」というだけではありません。食料の生産には、水、土地、エネルギー、労働、輸送、包装など多くの資源が使われており、廃棄される食料は、それらの資源を無駄にすることにもつながります。FAOは、世界で人間の消費向けに生産された食料のおよそ3分の1、約13億トンが失われるか廃棄されていると推計しています。

また、プラスチックごみの問題も、地球規模に拡大しています。プラスチックは軽く、安く、丈夫で、私たちの生活を支えてきた便利な素材です。しかし、大量に生産され、短期間で使い捨てられ、適切に回収・処理されない場合、河川や海へ流出し、海洋生態系や人間社会に深刻な影響を与えます。世界経済フォーラムとエレン・マッカーサー財団が2016年に公表した報告では、現在の傾向が続けば、2050年には海の中のプラスチックの重量が魚の重量を上回る可能性があると警告されました。これは確定した未来ではなく、「このままの傾向が続けば」という条件付きの予測ですが、私たちの大量生産・大量消費・大量廃棄のあり方を見直す必要を強く示しています。

また、目には見えにくいため気づきにくい現象ですが、生物多様性の損失も非常に深刻です。WWF、すなわち世界自然保護基金の『生きている地球レポート(Living Planet Report)』は、世界の野生生物個体群の変化を示す代表的な報告書です。2020年版では1970年以降の生きている地球指数が平均68%低下、2022年版では1970年から2018年までに平均69%低下、そして2024年版では1970年から2020年までにモニター対象の野生脊椎動物個体群が平均73%減少したと報告されています。したがって、講義で最新版に合わせるなら「1970年以降、モニター対象の野生脊椎動物個体群が平均73%減少している」と説明するのが適切です。

この数字は、地球上のすべての生物が73%消えたという意味ではありません。ここは誤解しやすいところです。正確には、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類など、モニターされている野生脊椎動物の個体群について、その平均的な個体数の変化を示す指標です。それでも、この指標は、生態系が急速に劣化し、人類が享受してきた生態系サービス、たとえば食料、水、気候調整、災害緩和、受粉、土壌形成などが危機にさらされていることを示す重要な警告です。WWFの『生きている地球レポート』は、このような地球の現状をわかりやすく伝えています。また、人類の資源消費や廃棄物排出が、地球の生態系が再生・吸収できる範囲を超えているという「エコロジカル・フットプリント」の考え方では、人類は計算上、地球約1.7個分に相当する負荷をかけていると説明されることがあります。ただし、この数値は推計年や計算方法によって変わるため、講義では「約1.6個分から1.8個分程度」と幅をもって理解しておくとよいでしょう。

環境問題と並ぶもう一つの地球規模の大きな問題は、貧困問題です。世界銀行は、国際的に比較可能な「国際貧困ライン(International Poverty Line)」という概念を用いて、極度の貧困の規模を推計しています。かつては「1日1.90米ドル未満」で生活する人々が極度の貧困として広く説明されていましたが、この基準は古くなっています。世界銀行は2022年に国際貧困ラインを1日2.15米ドルへ更新し、さらに2025年6月には、2021年購買力平価に基づく新しい国際貧困ラインとして1日3.00米ドルへ更新しました。 したがって、現在の講義では「1日1.90米ドル以下」と断定するのではなく、「旧基準では1日1.90米ドル、近年は2.15米ドル、2025年更新後は3.00米ドルが国際貧困ラインとして用いられる」と説明するのが正確です。

貧困人口の規模についても、どの年の、どの貧困ラインを使うかによって数値が変わります。世界銀行の2024年報告では、1日2.15米ドル未満で暮らす極度の貧困層は、世界でほぼ7億人、世界人口の約8.5%と説明されています。 一方、2025年に国際貧困ラインが1日3.00米ドルへ更新されたことにより、同じ「極度の貧困」という言葉でも推計人数は上方修正されます。世界銀行の2026年3月時点の更新では、2024年時点で8億4,700万人が極度の貧困状態にあると推計されています。 そのため、講義で「約7億人」と述べる場合には、「2.15ドル基準では」と条件を付ける必要があります。

また、貧困人口の国別内訳についても、注意が必要です。かつて世界銀行は、2015年時点の包括的データとして、世界の極度の貧困層の約半数が、インド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、バングラデシュの5カ国に集中していたと説明していました。ここで重要なのは、「コンゴ共和国」ではなく「コンゴ民主共和国」であることです。両者は別の国です。また、この上位5カ国の説明は2015年データに基づくものであり、現在の最新順位としてそのまま示すのは適切ではありません。世界銀行は同じ資料で、極度の貧困層の85%が南アジアとサブサハラ・アフリカに暮らしていたとも説明しています。

現在の状況としては、極度の貧困はサブサハラ・アフリカと、紛争や脆弱性の影響を受ける国々により強く集中していると理解する必要があります。世界銀行の2024年報告によれば、2024年時点でサブサハラ・アフリカは世界人口の16%を占める一方、極度の貧困層の67%を占めています。 さらに2025年の世界銀行の更新でも、極度の貧困はサブサハラ・アフリカ、とくに東部・南部アフリカで高く、脆弱・紛争影響国への集中が続いていると説明されています。

図:世界の極度の貧困をめぐる見方の更新

観点 旧来の説明 修正後に押さえるべき説明
国際貧困ライン 1日1.90米ドル未満 2022年に2.15米ドル、2025年に3.00米ドルへ更新
貧困人口 約7億人 2.15米ドル基準では約7億人。3.00米ドル基準では推計人数が増える
国別集中 インド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、バングラデシュなど 2015年データとしては妥当。ただし最新順位としては扱わない
地域的集中 南アジア・サブサハラ・アフリカに集中 近年はサブサハラ・アフリカと脆弱・紛争影響国への集中がより強い
貧困の意味 所得が少ないこと 所得だけでなく、食料、水、衛生、医療、教育、電力、住居、安全、社会参加の欠如を含む

 

また、貧困問題は経済的な貧しさ、つまり金銭的収入の少なさだけを意味するものではありません。様々な欠乏の状態、その状態が人間に与える脅威が問題なのです。例えば、国連のSDGs報告2024によれば、2022年時点で世界の電力アクセス率は91%でしたが、それでもなお6億8,500万人が電力を利用できない状況にありました。 また、SOFI、すなわち『世界の食料安全保障と栄養の現状』2024年版によれば、2023年には約7億3,300万人が飢餓に直面していました。

安全な水と衛生の問題も深刻です。WHOとUNICEFの共同モニタリングによれば、2022年時点で22億人が安全に管理された飲み水を利用できず、35億人が安全に管理された衛生設備を利用できない状況にありました。 さらにUNICEFは、安全でない水、衛生、衛生習慣に関連する病気によって、5歳未満の子どもが毎日1,000人以上亡くなっていると警告しています。

そして、紛争や迫害、暴力、人権侵害などによって住む場所を追われる人々も増えています。本文では「難民・避難民は8,200万人」とされていますが、この数字は古いものです。UNHCRのGlobal Trends Report 2024によれば、2024年末時点で、強制的に移動を余儀なくされた人々は世界で1億2,320万人に達しています。 こうした数字を見ると、貧困とは単に「お金がない」ということではなく、安全な水がない、電気がない、食べ物が足りない、医療に届かない、教育を受けられない、住む場所を追われる、安心して暮らせない、という複合的な欠乏の問題であることがわかります。

したがって、環境問題と貧困問題は、別々の問題として切り離して考えることはできません。気候変動は食料や水の不安定化を通じて貧困を悪化させます。貧困は、人々が災害や環境変化に対応する力を弱めます。環境破壊は、農業、漁業、森林、地域の暮らしを支えてきた自然の基盤を損ないます。そして、貧困や格差が深い社会では、環境対策の負担も不公平にのしかかりやすくなります。だからこそ、持続可能な社会を考えるときには、気候変動、資源循環、生物多様性、貧困、食料、水、衛生、エネルギー、避難といった問題を、互いに結びついたものとして捉える必要があります。

図表:環境問題と貧困問題の実態

分野 代表的な現状 持続可能な社会との関係
気候変動 人間活動による温室効果ガス排出が地球温暖化を引き起こしている 食料、水、健康、災害、移住、格差に影響する
食品ロス・食品廃棄 世界で人間の消費向け食料のおよそ3分の1、約13億トンが失われるか廃棄される 資源浪費、温室効果ガス排出、食料不安と関係する
プラスチックごみ 現在の傾向が続けば、2050年に海洋プラスチック重量が魚を上回る可能性がある 循環型社会、消費行動、企業責任、海洋生態系と関係する
生物多様性 WWF 2024年版では、1970年以降、モニター対象の野生脊椎動物個体群が平均73%減少 生態系サービス、食料、水、災害緩和、地域の暮らしに関係する
極度の貧困 2.15ドル基準では約7億人、2025年更新後の3.00ドル基準では推計が増える 所得だけでなく、教育、医療、住居、安全、社会参加の欠如と関係する
電力アクセス 2022年時点で6億8,500万人が電力を利用できない 教育、医療、産業、生活の安全、情報アクセスに関係する
飢餓 2023年に約7億3,300万人が飢餓に直面 食料安全保障、貧困、紛争、気候変動と関係する
水・衛生 2022年時点で22億人が安全に管理された飲み水を利用できない 健康、子どもの死亡、教育、ジェンダー、地域開発に関係する
強制移動 2024年末時点で1億2,320万人が強制移動状態 紛争、迫害、気候リスク、人権、安全保障と関係する