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SDGs採択文書の読み方|2030アジェンダ・5つのP・目標とターゲットの構造を解説 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第2回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

SDGs採択文書を読む――目標・ターゲット・指標の構造

SDGs採択文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、91段落からなる文書で、外務省仮訳では約36ページに及びます。この文書では、17の目標が出てくる前に、前文に引き続いて、基本的な価値、ビジョン、原則、「あるべき世界」など、SDGsを理解するうえで欠かすことのできない重要な点が述べられています。文書全体の構成としては、前文、宣言、持続可能な開発目標とターゲット、実施手段とグローバル・パートナーシップ、そしてフォローアップとレビューという流れになっています。環境省も、2030アジェンダは「前文、宣言、持続可能な開発目標(SDGs)とターゲット、実施手段とグローバル・パートナーシップ、フォローアップとレビュー」で構成されると説明しています。

SDGsを正しく理解するためには、17の目標だけを見るのではなく、この採択文書全体をしっかりと読むことがどうしても必要です。外務省のホームページには日本語の仮訳が掲載されていますので、皆さんにはぜひ一度、目標の一覧だけではなく、前文や宣言部分も含めて手に取って読んでいただきたいと思います。国連公式ページでも、「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」として2030アジェンダの全文が公開されています。

SDGsに関しては、国連の優れたコミュニケーション戦略によって、カラフルに美しくデザインされた17のロゴをよく目にするようになりました。学校、企業、自治体、商品パッケージ、イベントのポスターなど、さまざまな場所であの17色の目標アイコンを見かけるようになっています。そのため、SDGsといえば「あの17の目標のことだ」と理解している人々も多いと思います。もちろん、それは間違いではありません。しかし、17の目標だけを切り出して理解してしまうと、SDGsの本来の射程はかなり狭くなってしまいます。17の目標は、2030アジェンダ全体の中に置かれているものであり、その背景や原則、取り組むうえでの考慮点、実施の仕組み、進捗を確認する方法まで含めて読むことで、初めてSDGsの意味が見えてくるのです。

ただ、91もある多くの段落にはさまざまなことが書いてありますので、一体どんな点に注目して採択文書を読めばよいのか、最初は戸惑うかもしれません。そこでここでは、SDGs採択文書を読む際の重要なポイントを、いくつか紹介していきたいと思います。

では、実際に採択文書を読んでみましょう。まず冒頭の前文に、人間(People)・地球(Planet)・繁栄(Prosperity)・平和(Peace)・パートナーシップ(Partnership)という5つの柱、いわゆる「5つのP」が示されています。国連原文は、このアジェンダを「人間、地球及び繁栄のための行動計画」とし、さらに「より大きな自由における普遍的な平和」を強化しようとするものだと述べています。

この5つのPは、SDGsが全体として何を目指しているのかを端的に表しています。人間の尊厳を守ること、地球環境を保全すること、すべての人が豊かに生きられる繁栄を目指すこと、平和な社会を築くこと、そしてそれらを各国や多様な主体のパートナーシップによって実現すること。これらは、SDGsを単なる環境目標や開発援助の目標としてではなく、社会全体のあり方を問い直す包括的な目標群として理解するうえで、非常に大切な入口になります。

その後には、SDGsのビジョン、目指す世界像、原則などが書かれています。採択文書にはパラグラフ番号、つまり段落の通し番号が振ってありますので、中でも重要なパラグラフを拾いながら読んでいくと、文書全体の構造が見えやすくなります。まず、SDGsの前身であるMDGs、つまり2000年に策定され、2015年までの目標を定めた国連ミレニアム開発目標の成果と、そこに残された課題が確認されています。日本の国連広報センターも、2030アジェンダに掲げられたSDGsがMDGsの後継であり、17の目標と169のターゲットからなるものであると説明しています。

MDGsは、極度の貧困や初等教育、乳幼児死亡率、妊産婦の健康、感染症対策などに大きな焦点を当て、国際社会の開発目標として重要な役割を果たしました。しかし、すべての課題が解決されたわけではありませんでした。2030アジェンダは、MDGsによって得られた成果を踏まえつつ、未達成の課題を引き継ぎ、さらに環境、格差、都市、消費と生産、平和、制度、パートナーシップなど、より広い課題へと射程を広げています。この点で、SDGsはMDGsの単純な延長ではなく、より包括的で普遍的な国際目標として位置づけられています。

そして採択文書では、目指すべき包摂的で持続可能な経済成長と、働きがいのある人間らしい仕事を享受できる世界像が描かれています。ここでいう「働きがいのある人間らしい仕事」は、一般にディーセント・ワークと呼ばれる考え方と深く関わります。単に雇用があればよいということではなく、安全で、公正で、尊厳をもって働くことができ、生活を支えるに足る仕事であることが重視されているのです。

しかし採択文書は、理想的な未来像だけを語っているわけではありません。現状として、機会、富、権力の不均衡が甚だしいことも指摘されています。つまり、世界には豊かさが増している一方で、その豊かさがすべての人に公平に行き渡っているわけではなく、社会の中にも国際社会の中にも深刻な格差が存在しているという認識が示されているのです。だからこそ、2030アジェンダでは「誰一人取り残さない」という視点が強調され、脆弱な国々や脆弱な状況にある人々に特別の注意を払うことが重要だとされています。ユニセフも、SDGsは2015年の国連総会で全会一致で採択された2030アジェンダの一部であり、この文書が「どんな未来を望むのか」「その未来はどうしたらやってくるのか」を世界中で考え、話し合ってまとめたものだと説明しています。

さらに、人権尊重は取り組みの基礎となる原則であること、気候変動はそれ自体が現代の最大の課題の一つであると同時に、人類が直面する他の課題を増加させ、悪化させるものであることも述べられています。気候変動は、単に気温が上がるという問題にとどまりません。食料生産、水資源、災害、健康、住まい、貧困、移住、紛争のリスクなど、さまざまな課題と結びついています。だからこそ、SDGsでは目標13として気候変動への対策を掲げるだけでなく、貧困、飢餓、水、エネルギー、都市、消費と生産など、他の目標とも関係づけながら考えることが求められています。

また採択文書には、「我々の世代が貧困を終わらせることに成功する最初の世代になり得るとともに、地球を救う機会を持つ最後の世代になるかもしれない」という、非常に強い表現も出てきます。これは、SDGsが単なる理想論ではなく、時間的な切迫感を持った国際社会の約束であることを示しています。つまり、2030年という期限は、何となく設定された遠い未来ではありません。貧困を終わらせ、地球環境の破壊を食い止め、持続可能な社会へ転換するための、具体的な行動期限として位置づけられているのです。

この後に、ようやく17の目標と169のターゲットが記載されます。したがって、17の目標は突然出てくる一覧表ではありません。前文や宣言部分で示された価値、問題認識、原則、未来像を受けて、その実現のために整理されたものが17の目標と169のターゲットなのです。さらに、採択文書そのものにはグローバル指標の詳細リストがすべて含まれているわけではありません。進捗を測るための指標枠組みは、国連統計部などを通じて整備・公表され、各目標やターゲットがどれだけ進んでいるかを確認するために用いられています。つまり、SDGsは「目標」だけでなく、「ターゲット」によって具体化され、「指標」によって進捗を測定される構造を持っているのです。

ここで大切なのは、目標、ターゲット、指標をばらばらに見るのではなく、それぞれの役割を理解することです。目標は、大きな方向性を示します。ターゲットは、その方向性をより具体的な到達点や行動課題として示します。指標は、その到達点にどれだけ近づいているのかを測るためのものです。たとえば「貧困をなくそう」という目標だけでは、どのような状態になれば改善したと言えるのかが曖昧です。そこで、極度の貧困、各国の定義による貧困、社会保護、基礎的サービスへのアクセス、災害への脆弱性など、より具体的なターゲットや指標が必要になります。

つまり、ここまで紹介したように、採択文書には「地球社会はどういう状況にあり、私たちは未来のために何をしなければならないのか」「解決のための基本原則と考慮事項は何か」といった、SDGsの正しい理解のために前提として大変重要な点が述べられています。したがって、そうした重要な事柄の理解なしに、「水を大切にしよう」「食品ロスをなくそう」など、目標達成に役立つ何らかのアクションをしていればそれで充分だと考えてしまうのは危ういことです。もちろん、水を大切にすることも、食品ロスを減らすことも、とても大切な行動です。しかし、それだけでSDGsを理解したことにはなりません。

SDGsは、個人の善意ある行動を否定するものではありません。むしろ、日々の生活の中でできる行動は、持続可能な社会への入口として大切です。ただし、その行動がどのような社会構造や国際的課題と結びついているのか、誰が取り残されているのか、どのような制度や経済の仕組みを変える必要があるのか、そこまで考えることが必要です。SDGsを「つまみ食い」して自己満足するのではなく、採択文書全体を読み、背景にある理念や問題意識を理解したうえで、自分たちの生活や社会のあり方を問い直していくことが大切なのです。