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SDGsの基本理念とは|トランスフォーメーションと誰一人取り残さないをわかりやすく解説 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第2回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

生成された画像:SDGsの基本理念:変革と包摂

 

SDGsの基本理念――トランスフォーメーションと誰一人取り残さない

次に、SDGsを理解するうえで、そしてSDGs達成のために有効な取り組みを行うためにとても重要な、SDGsの基本的な理念を見てみることにしましょう。この点に関しては、「トランスフォーメーション」と「誰一人取り残さない」の2つのキーワードが重要です。

SDGsの採択文書の正式名称が “Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development”、日本語では「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」となっていることからもわかるように、トランスフォーメーションはSDGsを理解するうえで最も重要なキーワードの一つです。国連の2030アジェンダは、2030年までに貧困と飢餓を終わらせ、不平等と闘い、平和で公正で包摂的な社会を築き、人権とジェンダー平等を促進し、地球とその天然資源を永続的に守ることを決意すると述べています。

「トランスフォーム(transform)」とは、変容する、姿形が大きく変わるという意味です。したがって、SDGsにおけるトランスフォーメーションは、単なる小さな改善や部分的な修正ではなく、大変革、あるいは非連続的な変化といってよいでしょう。2030年までに世界のあり方を作り替えるというほどの強い意気込みを示した言葉です。パッチワーク的な解決策や、少しずつ改善を積み重ねるだけの手法ではなく、長期ビジョンを描き、問題の根本原因のレベルまで掘り下げて、社会経済システムを抜本的に変革することを意味します。

わかりやすい例は気候変動でしょう。脱炭素社会の実現は非常に高い目標であり、従来型のエネルギー利用や産業構造、交通、都市、消費行動をそのままにして、少し効率を上げるだけでは到底実現できません。再生可能エネルギーの導入、省エネルギー、産業構造の転換、住宅や交通の見直し、企業の投資判断、私たちの日々の消費行動まで含めて、社会全体の仕組みを変えていく必要があります。SDGsの他の目標の多くも、達成が容易ではない目標です。従来の枠組みの中で努力を積み重ねるだけでは不十分で、システム全体の根本的な変化を起こすことが求められています。

ただし、ここで誤解してはいけないのは、トランスフォーメーションとは「何もかも一気に壊して作り直す」という意味ではないということです。むしろ、何を残し、何を変え、どこに資源を集中し、誰の声を中心に据えるのかを考えながら、社会を持続可能な方向へ転換していくことです。たとえば、気候変動対策であれば、単に化石燃料を減らすだけでなく、その移行の過程で雇用や地域社会が不安定にならないようにすることも重要です。環境のために社会的弱者がさらに苦しくなるようでは、SDGsの理念に反してしまいます。変革は必要ですが、その変革は包摂的でなければならないのです。

SDGsが強調しているもう一つの理念は、「誰一人取り残さない」です。これは、SDGsの原文である “leave no one behind” に対応する考え方です。国連システムの説明では、2030アジェンダは “leave no one behind” と “reach the furthest behind first”、つまり「誰一人取り残さない」だけでなく、「最も取り残されている人々にまず届く」ことを中心に据えていると説明されています。

前身のMDGsでは、極度の貧困人口の割合を半減させることが大きな目標の一つでした。この目標は世界全体としては達成されましたが、その背景には、東アジア、とりわけ中国の急速な経済成長による貧困削減が大きく寄与していました。国連のMDGs報告書も、東アジアの貧困率が劇的に低下したことについて、中国の急速な経済成長が大きな役割を果たしたと説明しています。 また、中国自身のMDGs実施報告でも、中国は貧困人口を1990年の6億8900万人から2011年の2億5000万人へ減らし、世界の貧困削減に大きく貢献したとされています。

しかし、世界全体の平均値が改善したからといって、すべての人々の生活が同じように改善されたわけではありません。発展に取り残されたままの国や地域、人々は依然として多く存在します。飢餓、疾病、水と衛生、教育、住まい、雇用、暴力、差別などの問題は、最も貧しい国や地域、また社会の中で不利な立場に置かれた人々の間で、今なお深刻な課題として残っています。だからこそSDGsでは、各目標において繰り返し「すべての」「あらゆる」「包摂的な」といった表現を用い、この点を強調しているのです。

「誰一人取り残さない」という理念は、単にやさしいスローガンではありません。平均値だけを見て政策の成功を判断してはいけない、という強い警告でもあります。たとえば、国全体の所得が上がっても、地域によっては貧困が残っているかもしれません。学校に通う子どもの割合が上がっても、障害のある子ども、紛争地の子ども、移民や難民の子ども、貧困家庭の子どもは、まだ教育から取り残されているかもしれません。医療制度が整っている国でも、経済的理由や地域格差によって、必要な医療につながれない人がいるかもしれません。SDGsは、そうした見えにくい取り残され方に目を向けることを求めているのです。

また貧困問題は、途上国に限りません。先進国でも国内での経済格差が拡大し、相対的貧困や社会的排除が大きな関心事項になっています。たとえば日本国内においても、子どもの貧困問題は重要な社会課題です。厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、2021年の子どもの貧困率、つまり17歳以下の子どもの相対的貧困率は11.5%でした。これは、約8.7人に1人、一般的には約9人に1人の子どもが相対的貧困の状態にあることを意味します。

さらに、こども家庭庁の資料でも、相対的に貧困の状態にあるこどもの割合は11.5%であり、特にひとり親世帯の貧困率は44.5%と高いことが示されています。 したがって、以前よく言われていた「6人に1人」という表現は、過去の統計を説明する場合には使われることがありますが、現在の公的統計に基づいて講義するのであれば、「子どもの約9人に1人」とする方が正確です。数字だけを見ると改善したように見える部分もありますが、ひとり親世帯など、依然として厳しい状況に置かれている人々がいることを忘れてはいけません。

このように考えると、「トランスフォーメーション」と「誰一人取り残さない」は、別々の理念ではありません。社会を大きく変えるときほど、誰がその変化から取り残されるのか、誰に負担が集中するのか、誰の声が政策や企業活動に反映されていないのかを見なければなりません。逆に、「誰一人取り残さない」ことを本気で実現しようとすれば、既存の制度や経済の仕組みを少し手直しするだけでは足りない場合があります。貧困、格差、気候変動、ジェンダー不平等、教育格差、地域格差といった問題は、社会の仕組みそのものに関わっているからです。

つまり、SDGsの基本理念は、単に「よいことをしましょう」という呼びかけではありません。世界のあり方を変えること、そしてその変化の過程で最も弱い立場にある人々を取り残さないこと。この二つを同時に実現しようとする点に、SDGsの難しさと意義があります。私たちがSDGsについて考えるときにも、身近な行動から始めることは大切ですが、それだけで終わらせてはいけません。その行動がどのような社会の仕組みにつながっているのか、誰の暮らしを支えているのか、誰がまだ届いていないのかを問い続けることが必要です。