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SDGsを正しく理解する4つのポイント|バックキャスティング・人権・相互関連性を解説 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第2回その6)

ーーーー講義録始めーーーー

 

SDGsを正しく理解するための4つのポイント

SDGsを本質的に理解して行動するうえでのポイントとして、前回紹介した2つの基本理念に加えて、4点の理解が特に重要です。前回見たように、SDGsには「トランスフォーメーション」、つまり世界のあり方を変革するという考え方と、「誰一人取り残さない」という理念があります。しかし、それだけを言葉として覚えても、実際の行動にはなかなかつながりません。そこで今回は、SDGsを具体的に読み解き、行動へ移していくための4つのポイントを確認していきます。

■ ポイント1:バックキャスティング・アプローチ

SDGsは高い目標を掲げていますが、すべての国やすべての主体について、具体的な取り組み方法や役割分担を細かく決めているわけではありません。むしろ、17の目標と169のターゲットを提示し、それぞれの国、自治体、企業、市民社会、学校、地域、個人が、自分たちの状況に応じて創意工夫しながら取り組むことを期待していると考えるべきです。2030アジェンダも、SDGsがすべての国に適用される普遍的な目標であり、それぞれの国の現実、能力、発展段階、政策や優先課題を考慮するものだと述べています。

ここで必要なのは、まず将来達成すべき目標やビジョンを描き、そこを起点として現在を振り返り、逆算して「実現のためには何が必要か、何が有効か」を考え、解決策とその優先順位を決めるというバックキャスティング・アプローチです。これは、現在の延長線上で「どこまで行けそうか」を考えるのではなく、望ましい未来から現在を見直す考え方です。The Natural Step Canadaは、バックキャスティングを、成功した未来の状態を思い描いたうえで、「その成功に到達するために、今日何をする必要があるのか」と問い直す計画手法として説明しています。

バックキャスティングは、持続可能な発展を政策的・実践的に推進するうえで、非常に重要なアプローチだと考えられています。The Natural Stepは、持続可能性原則からバックキャスティングする手法を実践してきた代表的な組織の一つです。ただし、バックキャスティングそのものはThe Natural Stepだけに由来するものではなく、John B. Robinsonらによる未来研究や環境政策研究の中でも展開されてきました。Robinsonは、20年から100年という長期の変化を考えるシナリオ分析の方法としてバックキャスティングを提示しています。

バックキャスティングの反対にあるのが、現在を起点にして「何ができるか」「どこまで行けそうか」を考えるフォアキャスティングの発想です。もちろん、現状分析や予測は大切です。しかし、フォアキャスティングだけに頼ると、現在の制約やしがらみに囚われ、現状のやり方を少し改善するだけにとどまりやすくなります。その結果、必要なイノベーションが生まれにくく、大きな目標の達成には不足するという結果に終わりがちです。気候変動対策、貧困削減、ジェンダー平等、持続可能な消費と生産など、SDGsが扱う課題の多くは、現状の延長では解決できません。

将来の到達地点から逆算し、英語の “Think outside the box” という慣用表現にあるように、まず「箱の外」に出て考えることが必要です。つまり、既存の制度、慣習、産業構造、働き方、消費の仕方を当然のものとせず、そもそも何を変えなければならないのかを問い直すのです。そうすることで、従来の発想にとらわれず、抜本的な改革を伴う取り組みが可能となります。

■ ポイント2:人間の尊厳と人権の尊重

注意深く読むとわかりますが、17の目標名そのものを見ても、「人権」という言葉は直接には出てきません。では、人権はSDGsにおいて重要ではないのかというと、まったく逆です。2030アジェンダは、SDGsが「すべての人の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性・女児のエンパワーメントを達成することを目指す」と明記しています。 つまり、17の目標名に「人権」という言葉が見えなくても、SDGsの根底には人間の尊厳と人権の尊重という理念が明確に置かれているのです。

MDGsと同様にSDGsが掲げている貧困、飢餓、健康、教育、水と衛生などの諸問題の解決は、人権に関する基本文書である国際人権規約、とりわけ経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、いわゆる社会権規約の実現と深く関わります。十分な食料、健康、教育、労働、社会保障、適切な生活水準などは、人間が尊厳をもって生きるために不可欠な権利です。したがって、これらの課題は単なる福祉政策や開発政策の問題にとどまらず、人権問題そのものでもあります。

また、ディーセント・ワーク(Decent Work)という概念は目標8にも記載されており、SDGsにおける重要な概念の一つです。ディーセント・ワークとは、単に仕事があるというだけではなく、安全で、公正で、尊厳をもって働くことができ、生活を支えるに足る仕事を意味します。労働問題は、賃金や雇用の問題であると同時に、差別、搾取、強制労働、児童労働、職場の安全、結社の自由などとも関わる重要な人権問題です。

そして、人権とは別問題とされがちな環境問題についても、もし解決できなければ、人類の生存そのものを脅かし、人権の実現に大きく影響します。その意味で、環境問題も人権問題であるという考え方が、国際社会の中で強く支持されるようになってきました。実際、国連総会は2022年7月28日、「清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利」を人権として承認する決議を採択しています。

環境汚染や気候変動などの影響を最も強く受けるのは、SDGsが特に注意を払うべきとしている社会的・経済的に最も脆弱な層です。たとえば、同じ猛暑や豪雨であっても、住まいが脆弱な人、十分な収入がない人、医療や福祉へのアクセスが弱い人、避難の手段を持たない人ほど、大きな被害を受けやすくなります。環境問題は自然だけの問題ではなく、人間の生活、健康、住まい、労働、教育、移動、地域社会に直結しています。その意味においても、環境問題は優れて人権問題であるということができます。

こうして見ていくと、全体として17の目標はいずれも根底において人権の実現と深く関係していることがわかります。つまり、SDGsが目指す持続可能な発展とは、突き詰めて考えれば、「すべての人が人間らしく尊厳を持って生きることができる社会を実現すること」に他なりません。したがって、SDGsの究極の理念は、人間の尊厳と人権の尊重にあると言ってよいのです。

■ ポイント3:目標間の相互関連性

SDGsは、独立したバラバラの17個の目標を寄せ集めたものではありません。目標は相互に関連しています。このことは採択文書でも繰り返し強調されています。2030アジェンダは、SDGsの目標とターゲットについて、「統合され不可分」であり、持続可能な開発の経済、社会、環境の3側面のバランスを取るものだと述べています。 したがって、目標ごとに担当を分けて、別々に取り組めばよいというものではありません。

例えば既にお話ししたように、環境問題は貧困問題の原因となると同時に、環境問題の解決は貧困問題の解決にも役立ちます。気候変動によって洪水や干ばつが増えれば、農業、食料、水、住まい、健康、雇用に影響し、貧困層ほど大きな打撃を受けやすくなります。一方で、再生可能エネルギーの普及、省エネルギー住宅、地域の防災、持続可能な農業などは、環境負荷を減らすだけでなく、雇用や健康、生活の安定にもつながる可能性があります。

しかし、相互関連性は良い効果だけを意味するわけではありません。ある目標を進める取り組みが、別の目標に悪影響を与えることもあります。これがトレードオフです。たとえば、経済成長を急ぐあまり環境破壊が進めば、気候変動や生物多様性の損失を悪化させるかもしれません。再生可能エネルギー施設の建設であっても、地域住民の合意形成や自然環境への配慮を欠けば、別の問題を生むことがあります。だからこそ、プラスの相乗効果だけでなく、両者間のトレードオフも見なければなりません。

このように、SDGsに取り組む際には、さまざまな課題の相互関係や影響度合いを考慮しながら、よりよい解決策を探す必要があります。一つの目標だけを達成すればよいのではなく、できるだけ複数の目標に良い効果をもたらし、同時に負の影響を小さくする方法を考えることが大切です。SDGsは、個別の問題解決のリストではなく、社会全体を統合的に見直すための枠組みなのです。

■ ポイント4:目標体系の構造とその意味

SDGsの17の目標の下には、より具体的な取り組み項目を定めた169のターゲットがあります。漠然と17の目標を眺めて「何をすべきか」を考えるだけでは、どうしても抽象的になりがちです。しかし、169のターゲットと指標をよく見ると、何に力を入れ、どう取り組むべきかのヒントが得られます。目標は大きな方向性を示し、ターゲットはその方向性を具体的な到達点や行動課題として示し、指標は進捗を測るための手がかりになります。

例えば目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」の下には、複数のターゲットがあります。その中には、ターゲット3.1として「2030年までに世界の妊産婦死亡率を出生10万人当たり70未満に削減する」、ターゲット3.6として「2020年までに世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」などが書かれています。WHO欧州地域事務所も、ターゲット3.1について「2030年までに世界の妊産婦死亡率を出生10万人当たり70未満に削減する」と示しています。 また、EUのKnowSDGsでも、ターゲット3.6は「2020年までに世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」と説明されています。

ここで注意が必要なのは、SDGsのターゲットの中には2030年以外の期限を持つものがあるということです。ターゲット3.6はその一例で、すでに2020年という期限を過ぎています。したがって、現在の講義で扱う場合には、「採択文書上は2020年までとされていたターゲットであり、現在は達成状況やその後の取り組みを確認する必要がある」と補足するのが正確です。SDGsは2030年を全体の期限としていますが、すべてのターゲットが2030年期限というわけではありません。

ここまで具体化されると、そのために何ができるかを検討しやすくなります。たとえば妊産婦死亡率の削減であれば、医療体制、助産師や医師へのアクセス、緊急搬送、栄養、教育、ジェンダー不平等、貧困などが関係します。道路交通事故による死傷者の削減であれば、道路設計、速度規制、交通教育、飲酒運転対策、歩行者や自転車利用者の安全、救急医療などが関係します。このように、ターゲットを見ることで、目標が一気に具体的な政策課題や実践課題として見えてくるのです。そして、自らの強みを生かすことのできるターゲットが見つかるはずです。

また169のターゲットは、世界中の課題をすべて網羅したものではありません。2030アジェンダも、各国の現実、能力、発展段階を考慮し、各国の政策や優先課題を尊重すると述べています。 つまり、169のターゲットは国際社会が合意した共通の重要課題ですが、それだけですべての国や地域の課題が尽くされるわけではありません。各国や各地域は、SDGsの枠組みを踏まえながら、自国や地域の実情に応じた重点課題や追加的な目標を設定していく必要があります。

例えば目標3は、あらゆる年齢のすべての人々の健康と福祉の増進を目指しています。しかしターゲットを見ると、高齢化社会に固有の問題意識は、必ずしも十分に前面に出ているわけではありません。高齢者の介護、健康寿命を伸ばすこと、認知症への支援、孤立の防止、地域包括ケア、生きがいや人間としての尊厳を守ること――これらは言うまでもなく大きな、そして重要な社会的課題です。たとえSDGsのターゲットに明示されていなくても、日本としては、世界に先駆けてソリューションを開発する必要がありますし、またそれはこれから高齢化が進む世界に貢献することにもつながります。

以上、SDGsの根底をなす理念、策定の経緯、書かれている内容の重要な視点などを解説してきました。これらのことを理解したうえでアクションを起こすことが必要です。そのためには、繰り返しになりますが、17の目標のアイコンだけを見るのではなく、SDGsの採択文書全体を熟読することを強くお勧めします。採択文書を読むことで、SDGsが単なる行動リストではなく、人間の尊厳、社会の変革、環境と経済の関係、そして未来の社会像をめぐる国際社会の約束であることが見えてくるはずです。

 

SDGsを理解する4つのポイント