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気候変動への適応と生物多様性保全を一体で考える:SDGs達成への実践的アプローチ #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第3回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

気候変動への適応と生物多様性保全の一体的取り組み
——SDGs全体の達成に向けた広い視野

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【気候変動への「適応」——社会全体で取り組むべき課題】
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そして特に「適応」に関しては、気候変動の影響分野は多岐にわたり、地域性も非常に高いため、一律の対策だけでは済みません。気温上昇、豪雨、干ばつ、熱波、海面上昇、農業への影響、健康被害、生態系への影響などは、地域によって現れ方が大きく異なります。したがって、それぞれの地域における気候変動の長期的・短期的影響をよく分析し、地域の実情に合った計画を立案し、対策を実施していく必要があります。

 

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この表に掲げた5つの提言のように、適応については、これまで説明してきた予防的アプローチや、マルチステークホルダーによる取り組みが重要になります。また、政府や自治体によるトップダウンの計画策定と、地域住民の経験や知恵を生かしたボトムアップの取り組みの両方が必要です。そして何よりも、あらゆる主体が適応の重要性を理解し、自らの行動や計画に組み込む「適応の主流化」が求められます。

5番目の「柔軟性の確保」については、気候変動の影響予測には不確実性があり、最初から完璧な計画を立案するのは難しいという事情があります。したがって、まずは暫定的な計画で対策を始め、観測データや被害状況、新しい科学的知見を踏まえながら、状況に応じて計画を変更したり、対策を積み上げたりしていく柔軟な取り組みが望ましいのです。これは、気候変動への適応において非常に大切な考え方です。

また、この適応に関しても、緩和と同じく企業の役割が期待されています。企業の立場からすると、適応策は自らの経営を守り、サプライチェーンや施設、従業員、顧客を守り、事業継続を確保する「守り」の対策です。しかしそれだけではありません。防災、暑熱対策、水管理、農業技術、保険、都市インフラ、健康管理、情報サービスなど、社会のレジリエンス向上に資する商品・サービスを開発し、ビジネスソリューションとして提供することは、企業にとって「攻め」の対策にもなります。この2つはどちらも重要な点です。

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【生物多様性保全——愛知目標の教訓と今後の課題】
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気候変動枠組条約と並んで重要なのが、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity, CBD)です。この条約の締約国会議、いわゆるCBD COPも、これまで継続的に行われてきました。2010年に愛知県名古屋市で開催されたCBD COP10では、2020年までに達成すべき20の個別目標、いわゆる「愛知目標(Aichi Biodiversity Targets)」が採択されました。

しかし、CBD事務局が公表したGlobal Biodiversity Outlook 5によれば、10年間で一定の進捗は見られたものの、20の愛知目標のうち完全に達成されたものはありませんでした。6つの目標については部分的な達成があったと評価されていますが、全体としては、世界の生物多様性の損失を止めるには不十分だったのです。ここから得られる教訓は、目標を掲げるだけでは足りず、実効性のある政策、資金、モニタリング、企業や社会全体の行動変容が必要だということです。

今後の取り組みに関しては、急激に進んできた生態系の劣化を何とか食い止め、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させ、自然を回復軌道に乗せることが大きな課題となっています。2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)も、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させることを目指しています。ここでは、保護地域の拡大だけでなく、劣化した生態系の回復、有害な補助金の見直し、持続可能な生産と消費、企業活動における自然関連リスクの把握など、社会経済システム全体に関わる取り組みが求められています。

また、生態系の健全性を確保し、同時に環境や社会の課題解決にもつなげる「自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions)」の考え方を広めることも重要です。例えば、森林や湿地、河川、海岸、農地の生態系を保全・回復することは、生物多様性を守るだけでなく、洪水対策、暑熱対策、水質改善、炭素吸収、地域の暮らしの安定にもつながります。気候変動と同様に、生態系の保全・回復を社会経済システムの中に組み込むこと、そして取り組みにおいてより明確で測定可能な目標を設定することが必要です。

環境NGOのWWF(World Wide Fund for Nature、世界自然保護基金)によれば、Living Planet Report 2020では、1970年から2016年までの46年間で、監視対象となった哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類の野生生物個体群が平均68%減少したと報告されています。ここで注意すべきなのは、これは「地球上のすべての生物の個体数が68%減った」という意味ではなく、Living Planet Indexが対象とする監視個体群の平均変化を示す指標だという点です。ただし、それでも生物多様性の危機が深刻であることを示す重要なデータです。さらに、WWFのLiving Planet Report 2024では、1970年から2020年までの監視対象野生生物個体群の平均減少率は73%とされており、危機的な状況はなお続いています。

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生物多様性の劣化を食い止め、2030年までに回復軌道に乗せるという野心的な目標を達成するためには、予測シナリオのうち、自然保護と社会経済システムの変革を組み合わせた統合的な対策シナリオを目指さなければなりません。それには、例えば保護地域の拡大や土地利用対策を講じるだけでは不十分です。農業、食料システム、森林利用、漁業、都市開発、消費行動、貿易、金融など、経済活動のあり方そのものを変えていく必要があります。WWFなどが強調しているのも、まさにこの点です。持続可能な生産と持続可能な消費へ移行しなければ、生物多様性の損失を止めることはできないのです。

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【気候変動と生物多様性——本来一体として取り組むべき課題】
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生物多様性の劣化を食い止めるためにも重要なのは、気候変動と生物多様性を一体として捉えて取り組むことです。気候変動と生物多様性は別々の問題ではなく、実は深くつながっています。気候変動は、生息地の変化、海水温の上昇、海洋酸性化、干ばつ、森林火災、サンゴ礁の白化、種の分布変化などを通じて、生物多様性に大きな影響を与えます。一方で、森林、湿地、草原、海洋などの生態系は、炭素を蓄え、気候を安定させる役割も果たしています。

例えば、森林は重要なCO₂の吸収源であり、アマゾンの熱帯雨林はしばしば「地球の肺」と呼ばれてきました。ただし、この表現はあくまで比喩であり、科学的には、アマゾンを単純に地球の酸素供給源として説明するよりも、巨大な炭素貯蔵庫であり、重要な炭素吸収源として説明する方が正確です。アマゾンの森林は、大量の炭素を樹木や土壌に蓄え、大気中のCO₂を吸収することで、気候変動の緩和に大きな役割を果たしてきました。

リーズ大学などの研究によれば、アマゾンの森林は1990年代には年間約20億トンのCO₂を吸収していたとされますが、その吸収量はその後およそ半減したと報告されています。背景には、森林減少だけでなく、樹木の死亡率上昇、乾燥、気温上昇、森林劣化など、複数の要因があります。また、近年の研究では、アマゾンの一部地域がCO₂の吸収源ではなく排出源に転じている可能性も指摘されています。したがって、森林劣化を食い止めることは、CO₂の吸収源を確保する気候変動対策として極めて重要です。同時に、気候変動対策は、森林やサンゴ礁、湿地、海洋などの生態系の劣化を防ぐうえでも重要です。

気候変動と生物多様性は、その取り組みも、国連の条約も、専門家のコミュニティも、これまで別々に存在してきました。気候変動には気候変動枠組条約、生物多様性には生物多様性条約があり、科学的評価もIPCCとIPBESという別の仕組みで進められてきました。しかし、現実の自然と社会の中では、両者は切り離せません。気候変動対策として植林を行う場合でも、単一樹種の大規模植林が地域の生態系や水資源に悪影響を与えることがあります。逆に、生物多様性に配慮した森林・湿地・草地の保全や回復は、気候変動の緩和と適応の両方に役立ちます。だからこそ、気候変動と生物多様性は、本来不可分の課題として一体的に取り組む必要があるのです。

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【SDGs全体の達成を目指して——より広い視野で】
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IPCCの報告書でも指摘されているように、社会への移行プロセスでは、気候変動対策以外の目標との相乗効果を最大化し、逆に悪影響や不公平をできるだけ避けることが重要です。例えば、再生可能エネルギーの導入は気候変動対策として重要ですが、立地や資源利用のあり方によっては、生態系や地域社会に負担をかけることもあります。バイオ燃料や植林も、食料生産や土地利用、生物多様性との関係を考えずに進めれば、別の問題を生む可能性があります。

だからこそ、生態系の回復も含め、貧困撲滅、健康と福祉、雇用の確保、食料安全保障、ジェンダー平等、地域社会の参加、倫理や社会的公平性を考慮し、より広い視野を持って持続可能な開発目標(SDGs)全体の達成を目指す取り組みが求められます。気候変動対策は、単に温室効果ガスを減らすだけではありません。誰が負担を負うのか、誰が利益を得るのか、地域社会の暮らしは守られるのか、将来世代にどのような社会を残すのかという問いと結びついています。

そのことが結果として、脱炭素社会のより良い実現につながります。気候変動への適応、生物多様性の保全、自然を基盤とした解決策、持続可能な生産と消費、そしてSDGs全体の達成は、別々の課題ではありません。むしろ、同じ方向を向いた取り組みとして組み合わせていくことで、社会のレジリエンスを高め、人々の暮らしを守り、自然と共に生きる持続可能な社会へ近づいていくことができるのです。

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【講義全体のキーワード・まとめ】
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◆ 気候非常事態
世界では、民間集計によれば2,000を超える自治体・管轄区域が気候非常事態を宣言しています。これは、気候変動を通常の政策課題ではなく、今すぐ行動しなければならない緊急課題として捉える強い危機感を込めた言葉です。日本では、政府が単独で宣言したというより、国会の衆参両院が2020年11月に「気候非常事態宣言決議」を可決しました。

◆ 予防原則(リオ宣言原則15、ISO 26000)
科学的確実性が完全にはない場合でも、深刻または不可逆的なリスクがあるなら、科学的不確実性だけを理由に予防的措置を遅らせてはならないという行動原則です。リオ宣言原則15では主に国家の政策原則として示されましたが、ISO 26000などを通じて、企業を含む組織の社会的責任や、人間の健康を含む分野にも広がって理解されるようになりました。

◆ IPCC評価報告書
IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)は、WMOとUNEPによって1988年に設立された政府間組織です。世界中の気候科学の研究成果を評価し、政策決定に資する評価報告書を作成しています。2021年の第6次評価報告書第1作業部会報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記されました。

◆ パリ協定(COP21、2015年)
パリ協定は、産業革命前と比べた世界平均気温の上昇を2°Cを十分下回る水準に抑え、さらに1.5°Cに抑える努力を追求する国際枠組みです。すべての国がNDC(Nationally Determined Contribution)を提出し、5年ごとに前進した内容へ更新することが求められています。ただし、現状の政策やNDCでは1.5°C目標には届かず、排出ギャップが残っています。IPCCの1.5°C特別報告書によれば、1.5°C目標の代表的な経路では、世界全体のCO₂排出量を2030年までに2010年比で約45%削減し、2050年前後に実質ゼロにする必要があります。

◆ 緩和と適応
緩和(Mitigation)とは、温室効果ガスの排出を削減し、吸収源を増やすことで、気候変動そのものを抑える取り組みです。適応(Adaptation)とは、すでに起きている、または今後避けられない気候変動の影響に備え、社会や地域のレジリエンスを高める取り組みです。気候変動対策では、緩和と適応の両方を組み合わせた総合的な取り組みが必要です。

◆ 生物多様性
WWFのLiving Planet Report 2020では、1970年から2016年までに、監視対象の脊椎動物個体群が平均68%減少したと報告されました。これは生物多様性全体がそのまま68%減ったという意味ではありませんが、自然の危機を示す重要な指標です。愛知目標は20目標のうち完全達成項目がなく、その教訓を踏まえて、2022年には昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されました。気候変動と生物多様性は深く結びついており、一体として対応すべき課題です。