【要約文】
NGOは、国際協力、人道支援、人権、環境、開発、平和構築など、国境を越える課題に取り組む市民社会組織である。その歴史は国連との関係の中で大きく展開してきた。1945年の国連憲章第71条は、経済社会理事会が非政府組織と協議するための取決めを行えると定め、NGOが国連の活動に関わる制度的な入口を開いた。その後、ECOSOC決議などによって協議資格制度が整えられ、NGOは国連の会議や委員会で情報提供、意見表明、政策提言を行うようになった。冷戦終結後の1990年代には、環境、貧困、人権、開発、ジェンダーなどの地球規模課題への関心が高まり、国連会議へのNGO参加が拡大した。1992年のリオ地球サミットでは、1,400以上のNGOが参加したとされ、持続可能な開発の国際的な広がりに大きな影響を与えた。さらにUNFCCCのCOPでは、認定NGOがオブザーバーとして参加し、コンスティチュエンシーを通じて政策形成に働きかけている。ただし、NGOは政府と同じ決定権を持つわけではない。現場の知識、当事者の声、調査、提言、監視、支援活動を通じて、国際社会に影響を及ぼす存在なのである。持続可能な社会の実現には、政府や国際機関だけでなく、こうした市民社会の組織的な力が欠かせない。
ーーーー講義録始めーーーー
NGOの歴史――国連との関係と国際社会における存在感の拡大
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以上の理解を前提として、ここからは地球規模課題の解決に取り組む市民社会組織、つまりNGOに焦点を当てて、その役割を考えていきます。前回までに見たように、NPO、NGO、CSOという言葉は重なり合いながら使われていますが、この回ではとくに、国際協力、人道支援、人権、環境、開発、平和構築など、国境を越える課題に取り組む非政府・非営利の市民社会組織としてのNGOに注目します。持続可能な社会を考えるとき、NGOは単に善意の団体ではありません。国際社会の中で、現場の声を伝え、政策を提言し、ときには政府や企業の行動を監視し、そして具体的な支援活動を担う重要な主体です。
まず、NGOの歴史を見てみましょう。NGOという言葉は、国連との関係の中で広く知られるようになりました。公式文書としては、1945年の国連憲章第71条に、Non-Governmental Organizations、すなわち非政府組織に関する規定が置かれています。国連憲章第71条は、「経済社会理事会は、その権限内にある事項に関係のある非政府組織と協議するために、適当な取決めを行うことができる」という趣旨を定めています。ここで重要なのは、国際問題を政府代表だけで扱うのではなく、政府ではない組織の知見や経験を国連の活動に取り入れる余地が、国連憲章の中に設けられたという点です。【根拠1】
ただし、国連憲章第71条そのものが、現在のような詳細なNGO協議資格制度をすべて定めたわけではありません。第71条は、NGOとの協議関係を可能にする制度的な入口を開いた条文です。その後、経済社会理事会、すなわちECOSOCの決議などによって、NGOがどのような条件で協議資格を得るのか、どのような形で国連の仕事に関わるのかが具体化されていきました。現在では、ECOSOC協議資格は、一般協議資格、特別協議資格、ロスターといった区分を持ち、NGOが国連の会議や委員会の場で情報提供、意見表明、文書提出、ネットワーク形成などを行う重要な制度的基盤となっています。【根拠2】
このように、NGOは国連の外側にいる単なる傍観者ではなく、国連の活動を支える市民社会のパートナーとして位置づけられてきました。もちろん、NGOは国連機関でも政府代表でもありません。国際条約を最終的に決定する権限を持つのは、基本的には各国政府です。しかし、NGOは現場の知識、被害を受けている人々の声、専門的な調査、政策提言、国際世論の形成などを通じて、国際政治に影響を与えることができます。国連にとっては、NGOの参加によって現場に近い情報や市民社会の視点を得ることができます。一方、NGOにとっても、国連の場に関わることで、活動の可視性や信頼性を高め、各国政府や国際機関に直接働きかける機会を得ることができます。この意味では、国連とNGOの関係には相互に利点があります。ただし、その関係は常に完全に対等で調和的だというわけではなく、資金力、地域格差、専門性、政治的立場の違いによって、参加のしやすさや影響力には差があることも押さえておく必要があります。
その後、東西冷戦が終結し、1990年代に入ると、地球規模の諸課題への関心が大きく高まりました。冷戦期には、安全保障や東西対立が国際政治の中心にありましたが、冷戦後には、環境破壊、貧困、開発、人権、人口、ジェンダー、難民、感染症、平和構築といった課題が、国際社会全体で取り組むべきテーマとして前面に出てきます。この流れの中で、1990年代の国連会議では、NGOや市民社会組織の参加が目に見えて拡大していきました。「招集された」というよりも、国連会議やその準備過程において、NGOが参加し、意見を述べ、政策形成に関与する仕組みが広がっていったと考えるほうが正確です。【根拠3】
その象徴的な出来事の一つが、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議、いわゆる国連リオ地球サミットです。正式名称はUnited Nations Conference on Environment and Development、略してUNCEDです。この会議は1992年6月3日から14日まで開催され、環境と開発をどのように両立させるのか、つまり持続可能な開発を国際社会の中心課題として位置づけるうえで、きわめて大きな役割を果たしました。リオ地球サミットでは、リオ宣言、アジェンダ21、森林原則声明などが採択され、気候変動枠組条約や生物多様性条約もこの時期に開かれた署名の対象となりました。【根拠4】
このリオ地球サミットでは、NGOの参加がとくに注目されました。一般に、公式会議には1,400以上のNGOが認定・参加したとされ、会場外でも多数の市民社会団体がグローバル・フォーラムなどを通じて議論や提案を行いました。ここで重要なのは、NGOが単に会議を外から見ていたのではなく、環境と開発をめぐる国際的な合意形成の周辺で、情報を発信し、政府代表に働きかけ、市民社会の声を可視化していったことです。持続可能な開発という考え方が国際的に広がる過程で、NGOの存在は無視できないものとなっていきました。【根拠5】
やがて、国レベル、地域レベル、グローバルレベルで、NGOのネットワーク化が急速に進展していきます。かつては、それぞれの団体が個別の課題に取り組むことが中心でした。しかし、環境、人権、貧困、平和、ジェンダー、開発といった問題は相互に結びついています。そのため、NGOは国境を越えて連携し、国際会議に向けて共通の提言を作成したり、キャンペーンを展開したり、専門的な情報を共有したりするようになりました。こうしたネットワーク化によって、NGOは自国政府だけを通じるのではなく、国連や国際会議の場で、市民社会の主張をより直接的に国際政治へ届けることができるようになっていきました。
ただし、ここでも注意が必要です。NGOが国連の場で発言できる、あるいは会議に参加できるということは、各国政府とまったく同じ権限を持つという意味ではありません。条約交渉や最終的な意思決定の主体は、基本的には国家です。NGOは、オブザーバー、政策提言者、専門知識の提供者、監視者、キャンペーンの担い手、現場実践の担い手として、国際政治に影響を与える存在です。したがって、「政府と対等に渡り合う」と言うよりも、「政府や国際機関に働きかけ、国際的な政策形成に影響を及ぼす」と表現するほうが正確です。
【写真:コペンハーゲンで開催された気候変動COP15(第15回締約国会議)の会場の様子】
(説明)この写真は、2009年にコペンハーゲンで開催された気候変動COP15の会場の様子を示すものとして扱う。UNFCCC、すなわち国連気候変動枠組条約の締約国会議では、認定されたNGOがオブザーバー組織として参加する仕組みがある。また、UNFCCCのもとでは、認定されたNGOが、環境団体、若者団体、女性・ジェンダー団体、先住民族団体、労働組合、研究機関、産業界団体、自治体関係団体、農業関係団体など、関心領域ごとのコンスティチュエンシーに分かれて活動している。したがって、写真中の「Civil Society」などの表示は、NGOや市民社会組織が、国際交渉の場において単なる一般傍聴者ではなく、公式に認められたオブザーバーとして位置づけられていることを象徴的に示すものとして理解できる。ただし、写真そのものの出典、撮影位置、席配置の詳細が示されていないため、「各国代表と同じ参加者用エリアに席があり、同じ発言権を持っていた」とまでは断定しないほうがよい。【根拠6】
この点は、NGOの国際社会における位置づけを考えるうえで非常に重要です。NGOは、もはや国際会議の外側で抗議活動を行うだけの存在ではありません。多くの場合、会議の内側で情報を収集し、政府代表に働きかけ、サイドイベントを開き、声明を出し、メディアや市民に向けて交渉の動向を伝えています。その一方で、交渉へのアクセスが制限される場面もあり、特に重要な局面では政府間交渉が閉じられた形で進むこともあります。だからこそ、NGOの役割は、公式参加と外部からの監視、協力と批判、専門性と市民性の間を行き来するものだと言えます。
こうした歴史的経緯を経て、今日のNGOは国際社会において欠かせない存在となっています。NGOは、国際機関や各国政府とまったく同じ権限を持つわけではありません。しかし、地球規模課題の現場に近い知識を持ち、当事者の声を伝え、政策を提言し、合意の履行を監視し、必要な支援を実施することで、国際社会の中で大きな存在感を持つようになりました。気候変動、貧困、人権、ジェンダー、難民、紛争、災害、感染症といった課題は、政府だけで解決できるものではありません。そこに、市民社会の組織的な力が必要になります。
次回は、そのNGOの活動の類型について、具体的に見ていきましょう。NGOには、現場で支援を行う団体、政策提言を行う団体、調査研究を行う団体、緊急援助を行う団体、政府や企業の活動を監視する団体、国際的なキャンペーンを展開する団体など、さまざまな形があります。これらの活動を整理していくことで、持続可能な社会の実現に向けて、NGOがどのような役割を果たしているのかが、より立体的に見えてくるはずです。
【キーワード】
国連憲章第71条/ECOSOC協議資格/NGO協議制度/東西冷戦終結/国連リオ地球サミット(1992年)/UNCED/Agenda 21/COP15(コペンハーゲン)/UNFCCC/オブザーバー組織/コンスティチュエンシー/Civil Society
【根拠1】国連憲章第71条は、ECOSOCが権限内の事項に関係するNGOと協議するための適切な取決めを行えると定めています。
【根拠2】ECOSOCは、国連憲章第71条がNGOとの協議への扉を開いたと説明しており、現在の協議資格制度はECOSOC決議1996/31などに基づいて運用されています。
【根拠3】ECOSOC決議1996/31には、国連が開催する国際会議および準備過程へのNGO参加に関する規定が含まれています。
【根拠4】国連公式ページは、国連環境開発会議、すなわちEarth Summitが1992年6月3日から14日までリオデジャネイロで開催されたことを示しています。
【根拠5】1992年リオ地球サミットでは、1,400以上のNGOが公式会議に参加・認定されたとする資料があります。ただし、この数値は国連公式ページではなく、SAGE百科事典項目や環境政策分野の文献に基づくものです。
【根拠6】UNFCCC公式ページは、COP15が2009年にコペンハーゲンで開催されたこと、認定NGOがオブザーバーとして参加する制度があること、UNFCCCのNGOコンスティチュエンシーが存在することを示しています。
