【要約文】
NGOの活動は多様であり、講義上は「事業型NGO」「アドボカシー型NGO」「ネットワーク型NGO」の三つに整理できる。事業型NGOは、途上国、被災地、難民支援の現場などで、医療、教育、農業、保健衛生、緊急人道支援、復興支援などを直接行う団体である。草の根団体も含まれるが、大規模な国際NGOが事業を展開する場合もある。アドボカシー型NGOは、調査、現場知、当事者の声をもとに、政府、国際機関、企業、市民社会へ働きかけ、政策や制度、国際ルール、企業行動を変えようとする団体である。キャンペーン、報告書、声明、情報公開要求、市民啓発なども重要な活動となる。ネットワーク型NGOは、複数のNGOやNPOをつなぎ、情報、人材、資金、専門知識を共有し、共同声明や政策提言、会員団体の支援を行う。日本NPOセンターやJANICは、このような中間支援・ネットワーク型の役割を持つ。もっとも、実際のNGOは一つの類型だけに収まるわけではなく、事業、政策提言、ネットワーク形成を組み合わせて活動することが多い。三分類は、NGOの活動を固定するためではなく、社会課題にどのような方法で取り組んでいるのかを理解するための見取り図である。
ーーーー講義録始めーーーー
NGOの活動類型――事業型・アドボカシー型・ネットワーク型
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次に、NGOの活動の類型を見てみましょう。NGOと一口に言っても、その活動は非常に多様です。災害や紛争の現場で緊急支援を行う団体もあれば、教育、保健、農業、地域開発などに長期的に取り組む団体もあります。また、政府や国際機関に政策提言を行う団体、企業に対して情報公開や行動改善を求める団体、複数のNGOをつないで市民社会全体の力を高めようとする団体もあります。したがって、NGOの役割を理解するためには、活動の類型を整理しておくことが役に立ちます。ただし、ここで示す分類は、法律上の固定された分類ではありません。実際のNGOは複数の機能を併せ持つことが多く、活動分野や地域、組織規模によって姿も変わります。この講義では、理解しやすくするために、「事業型NGO」「アドボカシー型NGO」「ネットワーク型NGO」という三つの類型に整理して考えていきます。【根拠1】
▼ 事業型NGO
事業型NGOとは、支援を必要とする人々や地域に対して、現場で具体的な事業を実施するNGOのことです。途上国、紛争地、災害被災地、難民キャンプ、貧困地域、医療や教育が不足している地域などで活動する団体が、その典型です。活動内容としては、被災者や難民への緊急人道支援、医療支援、保健衛生の改善、学校建設や教育支援、農業技術の普及、職業訓練、水・衛生環境の整備、地雷・不発弾対策、復興支援などがあります。
この類型は、「草の根NGO」と呼ばれる地域密着型の団体と重なる部分があります。現地の人々の生活に寄り添い、地域のニーズを丁寧に把握しながら活動するという意味では、草の根性はとても重要です。ただし、事業型NGOのすべてが小規模な草の根団体というわけではありません。国際的に大きな組織規模を持ち、複数の国や地域で専門的な事業を展開するNGOもあります。大切なのは、事業型NGOが、理念や主張を掲げるだけでなく、現場で具体的な支援や開発事業を実施する点に特徴を持つということです。
事業型NGOは、政府開発援助、すなわちODAや、国際機関、各国政府、民間財団、企業、市民からの寄付などと連携しながら活動することもあります。日本でも、外務省は日本のNGOが途上国で事業を行う際に資金面から協力を行っており、JICAも開発途上国の現場で活動するNGO/CSO等との連携や支援を行っています。ここから分かるように、NGOは政府から独立した市民社会組織でありながら、必要に応じて政府機関や国際協力機関と協働することがあります。非政府性とは、政府と一切関わらないという意味ではなく、組織の主体性や目的が政府機関そのものとは異なるという意味で理解する必要があります。【根拠2】
▼ アドボカシー型NGO
次に、アドボカシー型NGOです。アドボカシーとは、社会的課題について、調査、現場で得た知見、当事者の声、専門的な分析などをもとに、政府、国際機関、企業、市民社会に働きかけ、制度や政策、国際ルール、企業行動、世論を変えていこうとする活動のことです。日本語では「政策提言」「権利擁護」「社会的な働きかけ」と訳されることがあります。単に自分たちの主張を強く訴えるというだけではなく、問題の構造を明らかにし、必要な制度改革や行動変容を提案し、社会的な合意形成を促す活動だと考えるとよいでしょう。【根拠3】
アドボカシー型NGOは、各国政府や国際機関に対して政策提言を行ったり、国際会議に参加して声明を出したり、企業に対して情報公開や人権・環境配慮を求めたりします。また、キャンペーン活動を通じて市民の関心を高め、署名、公開質問状、報告書、公聴会、メディア発信、SNS、シンポジウムなどを用いて世論を形成することもあります。国際的な人権NGO、環境NGO、開発NGO、反貧困キャンペーン団体、気候変動対策を求める団体などは、このアドボカシー機能を重視することが多いです。
アドボカシー型NGOの特徴は、現場で直接サービスを提供するだけでは解決できない問題に取り組む点にあります。例えば、貧困地域で食料支援を行うことは重要ですが、なぜその地域で貧困が続いているのか、国際貿易、債務、紛争、土地制度、教育格差、ジェンダー不平等、気候変動などの構造的要因を問い直すことも必要です。アドボカシー型NGOは、そうした構造に働きかけることで、問題の根本的な改善を目指します。
欧米に本部を置く大規模な国際NGOの中には、専門性の高いスタッフを抱え、調査報告書を発行し、国際会議で政策提言を行い、政府や企業に対して大きな影響力を持つ団体もあります。ただし、資金や人材の豊かさは団体によって大きく異なります。大規模な国際NGOだけでなく、小さな当事者団体や地域団体が、切実な声を社会に届けるアドボカシーを担うこともあります。むしろ、現場や当事者に近いからこそ、社会を動かす力を持つ場合もあるのです。
▼ ネットワーク型NGO
三つ目は、ネットワーク型NGOです。ネットワーク型NGOとは、複数のNGOやNPO、市民団体、専門家、支援者などをつなぎ、情報、人材、資金、専門知識、活動経験を共有しながら、より大きな影響力を生み出そうとする組織や活動形態です。一つの団体だけでは十分な力を持てない場合でも、複数の団体が連携すれば、政策提言の説得力を高めたり、広域的な支援体制を整えたり、社会に向けて共同メッセージを発信したりすることができます。
ネットワーク型NGOの役割は、単に団体を並べてつなぐことではありません。会員団体の活動を支援し、情報共有の場をつくり、研修や相談を行い、政策提言を取りまとめ、必要に応じて政府、国際機関、企業、メディアとの対話の窓口になることがあります。こうした役割を担う団体は、「中間支援団体」と呼ばれることもあります。中間支援団体は、現場で直接支援事業を行う団体とは異なり、NPOやNGOが活動しやすい環境を整えたり、団体同士や行政・企業・市民をつないだりする役割を果たします。
日本では、日本NPOセンターや国際協力NGOセンター、すなわちJANIC(Japan NGO Center for International Cooperation)などが、このようなネットワーク型・中間支援型の役割を持つ団体として挙げられます。日本NPOセンターは、NPOの組織支援や全国のNPO支援センターとのネットワーク形成などに関わっています。JANICは、地球規模課題の解決を目指す市民社会組織のネットワークとして、国際協力NGOの連携、情報発信、政策提言、マルチステークホルダー対話などに取り組んでいます。【根拠4】
▼ 複数の類型を持つNGO
ただし、個々のNGOは、この三つの類型のうち一つだけにきれいに当てはまるわけではありません。むしろ、実際には複数の機能を併せ持つことが多いです。例えば、あるNGOが途上国で教育支援事業を行いながら、同時に教育予算の拡充を政府に求め、さらに他団体と連携して国際キャンペーンを展開することがあります。この場合、その団体は事業型であると同時に、アドボカシー型であり、ネットワーク型の活動にも関わっていると言えます。
WWFやSave the Childrenのような大規模な国際NGOは、その典型です。WWFは自然保護を目的とし、森林、淡水、海洋、生物多様性、気候変動などに関わる活動を行うとともに、企業との連携や政策的な働きかけも行っています。Save the Childrenは、子どもの生存、学習、保護を掲げ、世界各地で支援活動を行うとともに、子どもの権利を守るためのアドボカシーも重視しています。つまり、大規模な国際NGOは、現場での事業、政策提言、キャンペーン、調査研究、ネットワーク形成を組み合わせながら活動しているのです。【根拠5】
また、ネットワーク型NGOも、単に会員団体をつなぐだけではありません。会員団体の意見を取りまとめて政策提言を行ったり、国際会議に向けて共同声明を出したり、社会に向けてキャンペーンを展開したりすることがあります。その意味では、ネットワーク型NGOはアドボカシー型の機能を持つことも多いのです。反対に、事業型NGOが、現場で見た課題をもとに政策提言を行うこともあります。例えば、難民支援の現場で活動するNGOが、難民認定制度や人道支援予算の改善を求める場合、その活動は事業型であると同時にアドボカシー型でもあります。
このように、事業型、アドボカシー型、ネットワーク型という分類は、NGOを箱に入れて固定するためのものではありません。むしろ、NGOがどのような方法で社会課題に取り組んでいるのかを理解するための見取り図です。現場で支えるのか、制度を変えるのか、団体同士をつなぐのか。あるいは、そのすべてを組み合わせるのか。こうした視点を持つことで、NGOの活動をより立体的に理解することができます。
それでは、次回からは、それぞれの類型を代表するNGOの事例を取り上げながら、実際の活動を具体的に見ていきましょう。活動類型を知ったうえで個別の団体を見ると、その団体が何を目指し、どのような方法で社会を変えようとしているのかが、よりはっきりと見えてくるはずです。
【キーワード】
事業型NGO/現場事業型NGO/アドボカシー型NGO/ネットワーク型NGO/アドボカシー/政策提言/中間支援団体/日本NPOセンター/JANIC(Japan NGO Center for International Cooperation)

