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ユニリーバのサステナビリティ戦略とは何か――USLPに学ぶ消費者行動とシステム変革 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第6回その4)

【要約】

 

ユニリーバは2010年にUnilever Sustainable Living Plan(USLP)を開始し、健康とウェルビーイングへの貢献、製品の製造・使用に伴う環境フットプリントの半減、数百万人の暮らしの向上を掲げました。2021年の総括では、製造工程のエネルギー由来CO₂を2008年比で生産量1トン当たり75%削減するなど大きな成果が示されました。一方、製品ライフサイクル全体のGHG影響は2010年比で約10%削減にとどまり、消費者の使用段階を含む行動変容の難しさが明らかになりました。ユニリーバは、持続可能な行動を消費者に強いるのではなく、簡単で楽しく、自然に選べる製品設計やナッジが必要だと学びました。また、再生可能エネルギーやプラスチック包装対策では、一企業だけでなく、政策、インフラ、他企業、消費者との協働によるシステム変革が不可欠だとしています。

 

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

企業の取り組み事例① ユニリーバ――バリューチェーン全体での持続可能性戦略

■ ユニリーバとサステナビリティ

企業の進んだ取り組み事例として、今回はユニリーバ(Unilever)を取り上げてみたいと思います。ユニリーバは、英国に本拠を置き、英国とオランダにルーツを持つ世界的な消費財企業です。洗剤、シャンプー、石けん、食品、飲料、パーソナルケア製品など、私たちの生活に非常に近い商品を、日本を含めた世界各地の消費者に提供してきました。日本法人であるユニリーバ・ジャパンも、1964年に設立されて以来、日本の消費者に向けて多様な製品を展開しています。

ユニリーバが持続可能な社会と生活を考える上で興味深いのは、単に「環境に配慮した商品を売る企業」というだけではなく、自社の事業活動、原材料調達、製造、流通、消費者による使用、廃棄やリサイクルまでを含めたバリューチェーン全体を視野に入れて、サステナビリティを経営戦略の中に組み込もうとしてきた点にあります。もちろん、その取り組みには成功した部分もあれば、十分に達成できなかった部分もあります。むしろ、その両方を率直に見ることが、企業のサステナビリティ戦略を学ぶ上では大切です。

■ ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)

同社は2010年に「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(Unilever Sustainable Living Plan, USLP)」を開始しました。これは、企業の成長と環境・社会への貢献を結び付けようとした長期的な戦略です。ユニリーバはこの計画を通じて、「サステナブルな暮らしを当たり前にする(make sustainable living commonplace)」という方向性を掲げました。身近な家庭用品や食品を扱う企業だからこそ、工場の中だけで完結する環境対策ではなく、消費者の日常生活そのものと結び付いた持続可能性を考える必要があったのです。

USLPでは、取り組みの大きな柱として、①10億人以上の人々の健康とウェルビーイングの向上に貢献すること、②事業を成長させながら製品の製造と使用に伴う環境フットプリントを半減すること、③数百万人の暮らし、すなわち生計や生活向上を支援すること、が掲げられました。ここで重要なのは、目標が工場の省エネや廃棄物削減だけに限られていなかったことです。健康、衛生、栄養、女性の機会、包摂的なビジネス、人権、持続可能な調達など、社会的側面も含んだ広い計画でした。

2021年には、2010年から2020年までの10年間の進捗を総括する報告書 “Unilever Sustainable Living Plan 2010 to 2020: Summary of 10 years’ progress” が公表されました。この報告書は、単なる成功物語ではありません。目標を達成した領域、目標に届かなかった領域、そしてその理由や教訓が整理されています。その意味で、USLPは企業のサステナビリティ戦略を考える上で、非常に学びの多い事例です。

■ 消費段階にこそ大きな環境負荷がある

同社の取り組みの大きな特徴は、バリューチェーン全体を通じてサステナブルな社会に貢献しようとしたことです。企業の環境対策というと、すぐに思い浮かぶのは工場の省エネ、排水処理、廃棄物削減、再生可能エネルギーの導入などです。もちろん、これらは非常に重要です。実際、ユニリーバは製造工程について大きな成果を出しました。2020年末時点で、工場のエネルギー由来CO₂排出量は、2008年比で生産量1トン当たり75%削減されました。また、購入電力を再生可能電力に切り替える取り組みも進められました。

しかし、製品ライフサイクル全体で見ると、話はそれほど単純ではありません。ユニリーバの報告書によれば、製品ライフサイクル全体の温室効果ガス、すなわちGHG(greenhouse gases)影響については、2010年比で2020年に消費者使用1回当たり約10%の削減にとどまりました。同社は、2030年までに製品ライフサイクル全体のGHG影響を半減するという目標を掲げていましたが、その進捗は想定よりも遅かったのです。特に、美容・パーソナルケア部門では、髪、入浴、シャワー関連商品の使用時に消費者が使うお湯に由来する排出が大きな課題として説明されています。

例えば、シャンプーやコンディショナーを使う場面を考えてみましょう。製品そのものを工場で作るときにもエネルギーは使われます。しかし、家庭でその製品を使うときにも、シャワーのお湯を沸かすためのエネルギーが必要になります。使用時間が長くなれば、その分だけエネルギー使用量も増えます。したがって、企業ができることは、工場の省エネだけではありません。泡切れがよく、短時間で洗い流せる製品を開発すること、少ない量で十分に機能する製品を設計すること、低温の水でも使いやすい洗剤を開発すること、消費者に適切な使い方を分かりやすく伝えることなどが重要になります。

ここに、持続可能な消費の難しさがあります。企業がどれほど環境性能の高い製品を開発しても、消費者がその特徴を理解し、実際の使い方を変えなければ、ライフサイクル全体の環境負荷は十分には下がりません。逆に言えば、製品設計と消費者行動が結び付いたときに、初めて大きな環境負荷削減が可能になります。持続可能性は、企業だけの問題でも、消費者だけの問題でもなく、両者が接する使用段階にこそ大きな課題が現れるのです。

■ 行動変容の難しさと教訓

そこでユニリーバは、さまざまな製品において、消費者への啓発や巻き込みを進めてきました。例えば、手洗い習慣を広げる衛生キャンペーン、栄養表示の改善、節水型・省エネ型の製品設計、低温洗濯を促す取り組みなどです。同社はマーケティングの力を持つ企業ですから、広告やブランド活動を通じて、消費者の行動に働きかけることができます。

しかし、10年間のUSLPの取り組みを通じて、同社は消費者の行動変容が非常に難しかったことも率直に認めています。報告書では、持続可能性は多くの消費者にとって重要である一方、それは多くの判断要素の一つにすぎないと述べています。価格、使いやすさ、香り、品質、習慣、ブランドへの信頼、購入しやすさなど、消費者の選択には多くの要素があります。その中で、持続可能性だけを前面に出しても、必ずしも大多数の消費者の行動が変わるわけではありません。

同社は、持続可能な暮らしを実現するには、それが「簡単で、楽しい」と感じられるように製品を設計し、届ける必要があるとしています。また、多数の消費者がより持続可能な暮らし方を受け入れるよう行動を変えることの難しさを、当初は過小評価していたとも述べています。これは重要な教訓です。環境によい行動を呼びかけるだけでは、行動はなかなか変わりません。手間がかからないこと、生活の質を下げないこと、むしろ便利で心地よいこと、消費者にとって分かりやすく納得できることが必要です。

下表に掲げるように、同社が直接管理しやすい製造工程では大きな成果が出ました。一方で、消費者による使用段階を含む製品ライフサイクル全体では、目標に対して進捗が遅い部分が残りました。これは単に計画が甘かったというよりも、企業が直接管理できる領域と、消費者の生活習慣や社会インフラに左右される領域とでは、変革の難易度が大きく異なることを示しています。

 

PNG表:ユニリーバUSLPの主な目標と実績

同社は10年間の取り組みから得られた教訓として、サステナビリティは消費者にとって多くの判断要素の一つであり、持続可能な暮らしをできるだけ努力なく、しかも楽しいものとして実現できる製品や仕組みをつくる必要があると述べています。また、行動科学で言うナッジ(nudge)、つまり人を強制するのではなく、望ましい行動を自然に選びやすくするような工夫を、今後も追求していくことを示しています。ここでいうナッジとは、肘でそっとつくように、行動のきっかけを与える仕組みのことです。例えば、節水しやすい形状、適量を使いやすい容器、短時間で洗い流せる処方、低温でも汚れが落ちやすい洗剤、分かりやすい表示などは、消費者に大きな負担をかけずに行動を変えるための工夫になり得ます。

■ システム変革への能動的関与

また、ユニリーバは今後に向けて、消費者への働きかけだけでは不十分であり、社会経済システム全体を変えていく必要があるとも述べています。報告書では、企業は自社の操業方法を変えることはできるが、一企業だけで社会全体のシステムを変えることはできないと説明されています。これは非常に大事な視点です。例えば、企業が再生可能エネルギーを使いたいと考えても、地域の電力系統、法制度、価格、供給量、契約制度が整っていなければ、十分に切り替えることは難しくなります。つまり、企業努力だけでは限界があり、政策、インフラ、市場の仕組み、他企業との協働が必要になります。

同社は、再生可能エネルギーを例に、1社の努力だけでは電力システム全体を変えることはできないと述べています。ユニリーバ自身は発電会社ではありません。しかし、自社の製造拠点で再生可能エネルギーを使い、他の企業とも協力して再生可能エネルギーへの需要を示すことはできます。その需要が明確になれば、政策決定者やエネルギー事業者が再生可能エネルギーの拡大に向けて動きやすくなります。そこで同社は、民間部門の需要を高めること、再生可能電力やその他のサステナビリティ解決策に対する市場シグナルを強めること、そして政策アドボカシーの場に関わることの重要性を示しています。

これは、持続可能な社会を考える上で非常に重要です。企業のサステナビリティ戦略は、自社の排出削減や製品改善だけで完結するものではありません。消費者の行動を変えるためにも、低炭素な電力、リサイクルしやすいインフラ、分かりやすい情報表示、適切な規制、持続可能な原材料市場など、社会の仕組みそのものが必要です。したがって、企業には、自社の事業活動を変えるだけでなく、他の企業、政府、自治体、NGO、消費者団体、研究機関などと連携し、より大きなシステム変革に関わる役割があるのです。

脱炭素以外でも、例えば海洋プラスチックごみ問題は深刻化しています。ユニリーバは包装について、「less plastic, better plastic, no plastic」、つまりプラスチックを減らす、よりよいプラスチックを使う、プラスチックを使わない、という枠組みを掲げてきました。2025年目標として、バージンプラスチックの使用量を半減すること、すべてのプラスチック包装を再利用・リサイクル・堆肥化可能に設計すること、再生プラスチックの使用を増やすことなどを掲げています。2020年時点では、同社のプラスチック包装の52%が、実際に再利用・リサイクル・堆肥化可能なものとされていました。また、プラスチック包装を回収・処理するためには、同社だけでなく、各国の回収・分別・再資源化インフラ、自治体、政府、流通業者、消費者、NGOとの協力が欠かせないとされています。

つまり、ユニリーバの事例から見えてくるのは、企業のサステナビリティ戦略が、製品開発、消費者行動、サプライチェーン、政策形成、社会インフラのすべてと関わっているということです。消費者に行動変容を求めるだけでは十分ではありません。企業が環境性能の高い製品を開発し、消費者がそれを使いやすくし、行政や社会がその行動を支える仕組みを整え、さらに企業自身が政策や市場の変革にも関わっていく必要があります。USLPは、野心的な目標を掲げたからこそ、成功だけでなく限界も明らかにしました。その限界を含めて、この事例は、持続可能な社会をつくるには、個別企業の努力と社会全体のシステム変革の両方が必要であることを教えてくれます。