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消費者市民に求められる新しい行動――Good Life Goalsとシステム変革のすすめ #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第7回その7)

【要約】

 

 
持続可能な社会を実現するには、消費者の行動が政策、企業、NPO・NGO、教育、情報提供と連動する必要がある。消費者市民には、自分の消費がグローバル社会や地球環境、人権、労働、社会的公正とつながっていることを理解し、根本原因やシステム全体を考える姿勢が求められる。SDGsは現在の社会の延長線上に自然に実現するものではなく、社会の仕組みの変革が必要である。Good Life Goalsは、17のSDGsごとに5つ、合計85の個人向けアクションを示し、身近な行動だけでなく、政府や企業などのリーダーに大胆な行動を求めることも含んでいる。これからの消費者市民は、賢い買い手にとどまらず、学び、選び、問い、発信し、政策や企業の変化を求める生活者として行動することが重要である。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

消費者市民に求められる行動とシステム変革――「グッドライフ目標」が示す新しい役割

■ 消費者市民として求められる姿勢

以上、さまざまな角度から、持続可能な消費や消費者市民社会をめぐる動きを見てきました。持続可能な社会を目指す上で、消費者の役割はとても重要です。ただし、消費者だけが頑張れば社会が変わる、という単純な話ではありません。今回見てきたように、消費者の行動が、政策、企業の取り組み、NPO・NGOの活動、教育、情報提供、認証制度、公共調達などとうまく連動し、いわば歯車が噛み合って初めて、その役割は十分に発揮されます。

その点も踏まえて、消費者市民として求められる行動や、備えるべき姿勢とは何かについて考えてみたいと思います。

まず、問題の理解に関しては、次のようなことが求められます。

・消費行動がグローバル社会や地球環境とつながっていることを理解すること
・環境だけではなく、人権、労働、社会的公正、貧困、地域社会など、幅広いテーマに関心を持つこと
・問題を表面的な現象だけでなく、その背景や根本原因にまで掘り下げて理解すること
・部分最適ではなく全体最適の視点を持ち、システム思考で考えること

例えば、安いチョコレートを買うこと自体は、日常の小さな消費行動に見えます。しかし、その背景には、カカオ生産地の農家の所得、児童労働、国際価格、企業の調達方針、認証制度、消費者の価格意識など、複数の要素が絡み合っています。パーム油を含む商品を買うことも同じです。便利で安価な商品を支えている原材料が、熱帯林、泥炭地、生物多様性、先住民族の権利、労働環境とつながっている場合があります。消費者市民に求められるのは、「買う」「買わない」という単純な二択だけではなく、その背後の仕組みを知ろうとする姿勢です。

行動における姿勢としては、次のようなことが求められます。

・謙虚な精神を持ちつつ、多様性を受け入れ、他者の異なる意見にも耳を傾けること
・自分の意見を発信し、仲間づくりをすること
・自ら動くだけではなく、誰に動いてもらうことが効果的なのかを見極めること
・現状に悲観しすぎず、粘り強く行動を続けること

ここで大切なのは、消費者市民の行動は「正しい人が、間違っている人を責める」ためのものではないということです。持続可能な消費をめぐる問題は、個人の善意だけでは解けない構造的な問題を多く含んでいます。だからこそ、批判する力と同時に、対話する力が必要です。企業に改善を求めることも大事ですが、その企業がどのような制約の中で動いているのかを理解し、制度や市場の条件も含めて考える必要があります。政府に政策を求めることも大事ですが、政策を実行するには財源、制度設計、事業者の対応、消費者の理解が必要になります。消費者市民とは、単に「意識の高い買い物をする人」ではなく、社会の仕組みを理解しながら、他の主体と関わっていく生活者でもあるのです。

■ SDGs達成に向けて:システム変革を求める意思表示

中でも、SDGsの達成という観点から、今後ますます消費者市民に求められる行動があります。これまでは、消費者が身の回りのできることから行動を始めることが推奨されてきました。マイバッグを持つ、食品ロスを減らす、省エネを心がける、フェアトレード商品を選ぶ、地産地消を意識する。こうした行動はもちろん大切です。身近な行動は、問題を自分ごととして捉える入口になりますし、積み重なれば市場や企業の行動にも影響を与えます。

しかし、SDGsの基本理念からも分かるように、持続可能な社会は、現在の社会の延長線上に自然に到達するものではありません。国連の2030アジェンダは “Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development” という表題を持ち、貧困、格差、気候変動、環境劣化、平和、正義などをめぐる課題に対して、すべての国とすべてのステークホルダーが協働して取り組むことを求めています。つまり、必要なのは、暮らしの中の小さな改善だけではなく、社会の仕組みそのものを変えていくことです。

そのためには、バックキャスティングの考え方が重要になります。バックキャスティングとは、望ましい未来の姿を先に描き、そこから逆算して、現在何を変える必要があるのかを考える方法です。例えば、2050年に脱炭素社会を実現する、2030年までに貧困や格差を大きく減らす、すべての人が尊厳ある働き方をできる社会にする、といった目標を掲げたとき、今の延長線上で少しずつ改善するだけでは足りない場合があります。エネルギー、交通、住宅、食料、金融、教育、公共調達、企業の調達、廃棄物処理など、社会の基盤となる制度やインフラの変化が必要になります。

したがって、そこで必要な行動は、「システム変革を求める意思表示をすること」です。これは、選挙で投票することだけを意味しているわけではありません。企業に情報開示や責任ある調達を求めること。自治体に再生可能エネルギー、公共交通、食品ロス削減、学校給食、公共調達の改善を求めること。国に気候政策、人権デュー・ディリジェンス、消費者教育、循環経済政策を求めること。学校や職場や地域で意見を共有し、仲間をつくること。商品を選ぶだけでなく、「なぜその商品が選べるのか」「なぜ選べないのか」を問い、選択肢そのものを広げるように働きかけること。こうした意思表示が、消費者市民としての重要な行動になります。

■ グッドライフ目標(Good Life Goals)

この考え方に基づいて、市民一人ひとりがとるべき行動を分かりやすくまとめた資料が、「グッドライフ目標(Good Life Goals)」というツールです。Good Life Goalsは、SDGsを個人の日常生活や行動に結び付けるために作られたコミュニケーション・教育ツールです。Good Life Goals Manualでは、この取り組みはUN 10YFPとFuterraが主導し、日本政府とスウェーデン政府、IGES、SEI、UNESCO、UNEP、WBCSDなどの支援を受けて作成されたと説明されています。したがって、単にUNESCOやWBCSDだけの取り組みというより、持続可能なライフスタイルや教育に関わる国際的な主体が協力して作ったものと理解するとよいでしょう。

Good Life Goalsには、SDGsの17の目標ごとに、それぞれ5つの推奨アクションが書かれています。つまり、合計で85の個人向けアクションが示されていることになります。SDGsは非常に包括的で、政府や企業、国際機関のための目標に見えがちです。しかしGood Life Goalsは、それを一人ひとりの生活に引き寄せ、「自分は何を知り、何を選び、誰に働きかけることができるのか」を考える入口にしています。

その推奨アクションのうち、前半のアクションは、まず問題を認識し、身の回りのできる行動から始めることを促すものが多くなっています。例えばSDG1「貧困をなくそう」では、国内外の貧困の原因を学ぶこと、できる範囲で分かち合い、寄付すること、公正に人々へ支払う企業から買うことなどが示されています。SDG13「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動の解決策について学ぶこと、自分の生活の中で温室効果ガス排出を減らすことなどが、入口として重要になります。

しかし、Good Life Goalsの重要性は、個人の身近な行動だけを並べている点にあるのではありません。各目標の後半のアクションには、声を上げること、社会の仕組みに働きかけることも含まれています。例えばSDG1では、すべての人に対して適正な賃金と機会を求めることが示されています。またSDG13では、政治・行政・企業などのリーダーに対して、気候変動に対する大胆な行動を今すぐ起こすよう求めることが示されています。ここに、消費者市民の新しい役割がよく表れています。

【表:グッドライフ目標の推奨アクションの構成(例)】

生成された画像:グッドライフ目標の推奨アクション

Good Life Goalsが示しているのは、個人の行動と社会の変革を切り離さない考え方です。生活の中でできることを始めることは大切です。しかし、それだけでは十分でない場合には、制度を変える人、企業の方針を決める人、地域の仕組みをつくる人、政治的な意思決定を行う人に働きかける必要があります。つまり、消費者市民は、自分の財布だけで社会を変えるのではありません。声、対話、投票、署名、参加、情報発信、企業への問い合わせ、地域活動など、さまざまな方法で意思表示をする存在なのです。

■ 消費者市民の新しい役割へ

こうして見ると、これからの消費者市民に求められる役割は、以前よりも広くなっています。もちろん、日常の消費を見直すことは重要です。何を買うか、どの企業を応援するか、どのように使い、どのように捨てるかは、持続可能な社会と深く関わっています。しかし、今日の課題は、個人の消費行動だけでは解けないほど大きく、複雑です。気候変動、貧困、格差、人権、労働、資源循環、生物多様性、エネルギー転換、食料システムの変革は、どれも社会の仕組みそのものに関わっています。

だからこそ、責任ある市民としてシステム全体の大きな変革を求めて意思表示をしたり、決定権を持つ人々に積極的に働きかけたりする態度を育むことが、ますます重要になってきています。消費者市民とは、単なる「賢い買い手」ではありません。情報を学び、商品を選び、企業に問い、地域に参加し、政策に関心を持ち、必要な変化を求めて声を上げる生活者です。こうした態度は、これからの消費者が引き受けるべき新しい役割として、教育の中でも社会の中でも育てていく必要があります。

今回は、消費者の役割、とりわけ社会変革を導く役割に焦点を当ててお話ししました。持続可能な社会は、誰か一人の努力で実現するものではありません。しかし、一人ひとりが自分の生活と社会の仕組みのつながりに気づき、必要な変化を求めて行動するとき、その小さな行動は、政策、企業、地域、教育、NGOの動きと結び付いて、より大きな変化の一部になります。今回の講義は以上で終わりです。