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サステナブルファイナンスの歴史――SRIからESG投資、DJSI・FTSE4Good・PRIまでをわかりやすく解説 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第9回その2)

【要約】

 

サステナブルファイナンスの源流は、宗教的・倫理的価値観に基づき、酒、たばこ、ギャンブル、武器、奴隷制などに関わる事業を避ける投資行動にある。1970年代以降は環境汚染、反戦、人種差別、消費者問題、アパルトヘイト問題などを背景にSRIが広がった。1990年代には地球環境問題への関心とともに、企業の環境経営や持続可能性を評価する動きが強まり、1990年のDomini 400 Social Index、1999年のDJSI、2001年のFTSE4Goodなどのインデックスが整備された。2006年にはPRIが発足し、2015年以降はSDGs、パリ協定、GPIFのPRI署名を背景に、ESG投資が金融市場の中心的テーマへと広がっていった。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

サステナブルファイナンスの歴史
―宗教的倫理観からDJSI・FTSE4Goodまで―

サステナブルファイナンスを歴史的に振り返ってみると、その原型は、100年以上の歴史を持つ欧米を中心とした宗教的・倫理的な投資行動にたどり着きます。たとえばキリスト教の教会や宗教団体は、信者からの寄付などを原資とする保有資産を運用する必要がありました。その際に、アルコール、たばこ、ギャンブル、武器、奴隷制などに関連する産業には投資すべきではないという倫理観から、一定の事業を投資先から除外することが行われてきました。こうした考え方は、ユダヤ教やイスラム金融などにも見られる倫理的投資の系譜と響き合いながら、近代以降の社会的責任投資の一つの源流になっていきます。これを原型として、社会的責任投資という投資スタイルが歴史的に確立していったとされています。なお、このように一定の条件に当てはまる銘柄をふるいにかけ、投資先候補から排除する投資手法をネガティブスクリーニングと呼びます。

その後、1960年代から1970年代以降になると、宗教的倫理観だけではなく、環境汚染、反戦、人種差別、消費者問題、南アフリカのアパルトヘイト問題など、環境や社会に関する幅広い関心を投資に反映させようとする動きが強まってきました。特に大学基金、年金基金、教会資産、市民運動に関わる資金などが、どの企業に投資するのか、あるいはどの企業から資金を引き揚げるのかをめぐって、社会的な意思表示の手段として注目されるようになりました。ネガティブスクリーニングのテーマは多様化するとともに、次第に投資対象の広がりと規模の拡大を見せていったのです。

やがて1990年代からは地球環境問題への関心が高まり、企業も環境経営を求められるようになっていきます。そして、環境への配慮や社会的責任を果たすことは、単に企業にとっての負担ではなく、中長期的には企業価値の向上にもつながるという考え方が広がっていきます。1990年にはDomini 400 Social Index、現在のMSCI KLD 400 Social Indexが開始され、SRIを投資インデックスとして可視化する動きも現れました。さらに1990年代後半から2000年代初頭にかけて、環境・社会・ガバナンスをテーマに、評価の高い企業を選定した投資家向けの株式投資インデックスが整備されるようになります。このように、サステナビリティに積極的に取り組む企業を選んで投資する手法を、ネガティブスクリーニングと対置してポジティブスクリーニングと称します。ただし、実務上は、除外、選別、業種内での優良企業選定、企業との対話など、複数の方法が組み合わされることもあります。

こうして持続可能性を要素として取り込んだ投資インデックスの代表例として、1999年に開始されたDow Jones Sustainability Index(DJSI)があります。DJSIは、この分野における世界的なサステナビリティ株式インデックスの草分けの一つとして、現在までサステナブルファイナンスの普及に貢献してきました。DJSIは、企業のサステナビリティへの取り組みを、経済、環境、社会などの観点から評価し、各業種の中で相対的に高い評価を得た企業を選定する仕組みをとっています。現在の説明では、Dow Jones Best-in-Class World Indexは、S&P Global BMIの最大2,500社のうち、長期的な経済・環境・社会基準で上位10%に位置する企業を対象とするものとされています。したがって、講義上は「DJSIは、世界の主要企業を対象に、サステナビリティ評価を通じて各業種の優良企業を選び、投資家にベンチマークとして提供する仕組み」と理解しておけばよいでしょう。

2001年には、FTSE4Good Index Seriesが開始されました。FTSE4Goodは、ESG、つまりEnvironmental、Social、Governanceの実践に優れた企業のパフォーマンスを測定するために設計された株式インデックス・シリーズです。DJSIやFTSE4Goodのようなインデックスの基本にある共通の考え方は、「サステナビリティに配慮した責任ある経営は、中長期的に見て企業価値、すなわち株価や資本市場での評価の向上につながりうる」という考え方です。もちろん、サステナビリティへの取り組みが常に短期的な株価上昇を保証するわけではありません。しかし、気候変動、人権、労働、安全、腐敗防止、取締役会のあり方などは、企業にとって無視できないリスクであり、同時に新しい事業機会にもなります。そのため、これらを投資判断に組み込むことは、倫理的な意味だけでなく、長期的なリスク管理や企業価値評価の意味も持つようになっていきました。

こうした投資インデックスがツールとして活用されることで、サステナブルファイナンスはより多くの投資家の間に広がっていきました。宗教的倫理観から責任投資を行う比較的ニッチな手法であったSRIを、投資戦略の一つとして、より広く機関投資家や一般投資家にまで広げる上で大きな役割を果たしてきたのです。インデックスがあるということは、投資家にとっては、企業のサステナビリティへの取り組みを比較し、投資判断に取り入れるための物差しができるということです。また企業にとっては、自社の取り組みが外部から見られ、同業他社と比較されるという緊張感が生まれます。

同時に企業の立場からすれば、環境や社会の問題に積極的に取り組むことは、インデックスに組み込まれることを通じて投資を呼び込むことにつながるという経済的メリットがあります。またDJSIのようなインデックスでは、毎年の見直しを通じて、企業のサステナビリティ評価が更新されます。各業種の中で高い評価を得た企業は、他の企業にとって追いつき、追い越すためのベンチマークになります。このことを通じてDJSIなどのインデックスは、企業間に競争環境を作り出し、企業の取り組みのレベルアップを促す役割を果たしてきたのです。持続可能な発展を単なる理念ではなく、経済的な仕組みとして競争ルールに組み込み、さらに企業の取り組みのレベルアップを図った点においても、こうした株式投資インデックスは重要な役割を果たしてきたといえます。

さらに2006年には、Principles for Responsible Investment(PRI、責任投資原則)が発足しました。PRIは、UNEP Finance InitiativeとUN Global Compactの支援のもとで始まった国連支援の枠組みであり、投資家がESG課題を投資分析や意思決定、所有方針、企業への働きかけ、情報開示の要求などに組み込むための原則を示しました。これにより、責任投資は一部の倫理的投資家の特別な取り組みではなく、世界の機関投資家が共有する投資実務の枠組みとして広がっていきます。

そして2015年以降、ESG投資のメインストリーム化はさらに加速しました。2015年にはSDGsが国連で採択され、同じ年にパリ協定も採択されました。日本では、世界最大級の公的年金基金であるGPIFが2015年にPRIへ署名し、ESGを考慮した投資の流れを強めていきます。こうしてサステナブルファイナンスは、宗教的倫理観に基づく投資回避から出発し、社会運動、環境問題、企業価値評価、投資インデックス、国際原則、年金基金の運用方針へと広がりながら、今日の金融市場の中心的なテーマの一つになってきたのです。

◆ サステナブルファイナンスの歴史的展開

1900年代以前〜 宗教的・倫理的価値観に基づく投資回避。アルコール、たばこ、ギャンブル、武器、奴隷制などを避ける実践がSRIの源流となる。
1970年代〜 環境汚染・反戦・人種差別・消費者問題・南アフリカのアパルトヘイト問題などをテーマに、SRIが拡大する。
1990年 Domini 400 Social Index、現在のMSCI KLD 400 Social Indexが開始される。SRIインデックスの初期例として重要である。
1990年代〜 地球環境問題への関心が高まり、企業の環境経営や持続可能性への取り組みを評価する動きが広がる。
1999年 DJSI(Dow Jones Sustainability Index)が開始される。世界的なサステナビリティ株式インデックスの草分けとなる。
2001年 FTSE4Good Index Seriesが開始される。ESG実践に優れた企業のパフォーマンスを測るインデックスとして整備される。
2006年 PRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)が発足する。ESG課題を投資分析と所有方針に組み込む枠組みが国際的に広がる。
2015年〜 SDGsとパリ協定の採択、日本ではGPIFのPRI署名などを背景に、ESG投資のメインストリーム化が急加速する。

 

PNG図表:サステナブルファイナンスの歴史的展開