【要約】
Piagetは、子どもが環境に働きかけ、同化・調節・均衡化を通して知識を構成すると考えた。認知発達は、感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期に整理され、行為による理解から表象、具体的論理、仮説的推論へ進むとされた。対象の永続性や保存課題などは認知発達研究の基礎となったが、後の研究では、能力がPiagetの想定より早く現れる場合や、段階が領域横断的に一斉移行しないことが示されている。理論を固定的な年齢表としてではなく、子どもを能動的な知識の構成者と捉えた歴史的理論として理解する必要がある。
ーーーー講義録始めーーーー
ピアジェの発生的認識論と4つの発達段階
もう一人の発達理論の代表的な論者がJean Piagetです。Piagetは1896年にスイスのヌーシャテルに生まれ、1980年にジュネーブで亡くなりました。もともとは生物学や動物学を学んだ研究者でしたが、その後、子どもの知能や思考の発達を研究し、発達心理学と認識論に大きな影響を与えました。ジュネーブ大学などを主な研究拠点とし、1955年にはジュネーブにInternational Centre for Genetic Epistemology、すなわち国際発生的認識論センターを設立しました。
Piagetは、人間の知識や理解がどのような初期的形態から形成され、より高度な構造へ発達していくのかという問題を、発生的認識論、英語ではgenetic epistemologyと呼ばれる研究構想として追究しました。
ここでいうgeneticという言葉は、遺伝子に関するという意味ではありません。知識の起源や形成過程を明らかにするという意味です。発生的認識論は、単に子どもの発達を記述するものではなく、数、空間、時間、因果関係、論理などに関する人間の知識が、どのように成立するのかという認識論上の問題を、子どもの思考の発達を調べることによって明らかにしようとするものでした。
Piagetは、子どもを、大人より知識が少ないだけの存在とは考えませんでした。子どもは、その時点で利用できる認知の仕組みによって世界を理解しており、その理解の仕方は成人のものとは質的に異なると考えました。また、子どもは周囲から知識を一方的に与えられるのではなく、自ら環境に働きかけ、行為の結果を確かめながら知識を構成していく存在だと捉えました。
この知識の構成に関わる基本的な働きが、同化と調節です。同化、英語ではassimilationとは、新しい出来事や対象を、すでに持っている認知の枠組み、すなわちschemaまたはschemeを用いて理解することです。調節、英語ではaccommodationとは、新しい出来事をそれまでの枠組みだけでは十分に理解できないとき、その枠組み自体を修正したり、新たな枠組みを形成したりすることです。
例えば、子どもが四本足の動物をすべて「犬」と呼んでいるとします。初めて牛を見たときに、それを既存の「犬」という枠組みに取り込んで理解するのが同化です。しかし、犬と牛には違いがあることを経験し、「犬」と「牛」を別のカテゴリーとして理解できるように枠組みを変えることが調節です。
Piagetは、同化と調節の間に一時的な不均衡が生じ、それを乗り越えて、より安定した認知構造がつくられる過程を均衡化、英語ではequilibrationと呼びました。したがって、Piagetの発達理論は、子どもが年齢とともに自然に四つの箱を順番に通過するというだけの理論ではありません。子どもが環境に働きかけ、既存の理解を使いながら、それでは処理できない経験に出会い、理解の仕方を組み替えていく過程を説明しようとした理論です。
思考の発達に関して、Piagetの理論は一般に、感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期という4つの段階で整理されています。年齢の目安としては、感覚運動期が出生からおよそ2歳まで、前操作期がおよそ2歳から7歳頃まで、具体的操作期がおよそ7歳から11歳頃まで、形式的操作期がおよそ11歳または12歳頃以降とされます。
ただし、これらの年齢は厳密な境界ではありません。ある誕生日を迎えた瞬間に、思考の仕組みが完全に別の段階へ切り替わるわけではありません。また、同じ子どもでも、問題の内容、経験、教育、言葉のわかりやすさなどによって、異なる水準の反応を示すことがあります。したがって、四段階は発達の一般的な順序と特徴を示す理論的な枠組みとして理解する必要があります。
これら4つの段階では、世界の捉え方が、感覚と運動による直接的な行為から、目の前にないものを表す表象へ、さらに具体的な事物に支えられた論理的操作から、仮説や抽象的な関係を扱う形式的操作へと質的に変化していくと考えられています。
最初の感覚運動期について見ていきましょう。Piagetは、乳児の知能の発達を扱ったLa naissance de l’intelligence chez l’enfantという本を書いています。英訳ではThe Origins of Intelligence in Children、日本語では『知能の誕生』などの題名で知られています。
Piagetは父親として、自分の3人の子どもを長期にわたって詳しく観察しました。単に日常生活を眺めていたというだけではなく、物の位置や提示の仕方を変えたり、同じような状況で反応を繰り返し観察したりしながら、乳児の行為がどのように変化するかを記録しました。ただし、研究対象が主として自分の子どもであり、少数例の詳細な観察であったことには注意が必要です。今日の大規模な標本を用いた実験研究とは、方法が異なります。
乳児期の子どもは、見たり、聞いたり、触ったり、味わったりという感覚と、つかむ、吸う、落とす、たたく、押す、引く、噛むといった運動によって、外の世界を知っていくとPiagetは考えました。ものを単に受け身で感じるのではなく、自分からものに働きかけ、その結果がどうなるかを確かめ、興味深い結果を繰り返し生じさせようとします。Piagetは、こうした感覚と運動の協応によって知能の基礎が形成される時期を、感覚運動期と呼びました。
Piagetは感覚運動期を、さらに六つの下位段階に分けています。出生直後の反射的な行動から始まり、偶然生じた興味深い結果を繰り返す循環反応、目的を達成するために複数の行為を組み合わせる行動、新しい方法を試す行動へと進み、感覚運動期の終わり頃には、行為を実際に行う前に心の中で結果をある程度予測する表象的な思考が現れると考えました。
感覚運動期の重要なテーマの一つが、対象の永続性、英語ではobject permanenceと呼ばれるものです。対象の永続性とは、物が自分の視野から消えても、その物自体は存在し続けているという理解です。
感覚運動期の初期には、目の前にあった物を布などで完全に隠すと、乳児がそれを探そうとしないことがあります。Piagetは、この行動を、乳児にとって対象が知覚できなくなると、あたかも存在しなくなったかのように扱われていることの表れだと解釈しました。
しかし発達が進むにつれて、乳児は、目の前から消えた物を探すようになります。さらに、物をある場所から別の場所へ移動させて隠した場合にも、その移動を考慮して探索できるようになるとされます。Piagetは、こうした一連の変化を通して、対象が自分の知覚や行為とは独立して存在するという理解が徐々に形成されると考えました。
ただし、物を探さない乳児が、物の存在をまったく理解していないと直ちに断定することはできません。物を手で探すためには、対象についての理解だけでなく、注意を持続すること、隠された位置を記憶すること、手を伸ばすこと、行動を抑制することなど、複数の能力が必要です。
その後の研究では、乳児に物を実際に探させるのではなく、起こりえない出来事をどれほど長く見るかなどを測る方法が用いられました。その結果、Piagetが探索行動から想定した時期より早い段階から、乳児が隠れた物の存在や動きについて一定の予想を持っている可能性が示されています。そのため、対象の永続性は、ある時点で突然完成する単一の能力というより、対象についての予測、記憶、探索、表象などの複数の働きが発達する過程として考える必要があります。
目に見えない物の存在を理解するためには、現在の知覚だけに頼らず、その物についての情報を何らかの形で保持する必要があります。Piagetは、感覚運動期の終わり頃に、物や出来事を心の中で表す表象、英語ではrepresentationが成立すると考えました。
ただし、ここでいう表象は、必ずしも写真のように鮮明な心的イメージだけを意味しません。言葉、動作の記憶、対象についての予想など、現在目の前にないものを心的に表す働きを広く含みます。表象が成立することによって、子どもは、実際に行為してみる前にある程度結果を予想したり、以前に見た行為を時間がたってから再現する遅延模倣を行ったりするようになるとPiagetは考えました。
こうした表象の発達が、次の前操作期につながります。前操作期は、およそ2歳から7歳頃までの時期として整理されます。この時期の重要な特徴が、象徴機能、英語ではsymbolic functionです。
象徴機能とは、ある対象や出来事を、それとは別の言葉、イメージ、身振り、絵、物などによって表す働きです。象徴遊びはその代表的な例です。例えば、子どもが積み木を自動車に見立てたり、棒を剣に見立てたり、空のカップから飲むふりをしたりします。実際にはそこにない物や出来事を、別の物や行為によって表しているわけです。
言葉も象徴の一つです。「りんご」と言ったときに、実際のりんごが目の前になくても、りんごという物を表すことができます。子どもは、言葉を使って過去の出来事を語ったり、これからすることを話したり、目の前にない人や物について考えたりできるようになります。
ただし、前操作期という名称の「前」は、子どもに思考能力がないことを意味するのではありません。ここでいう操作、英語ではoperationとは、心の中で行う、可逆的で体系的な論理的変換を指します。前操作期の子どもは、言葉やイメージを用いて豊かに考えることができますが、Piagetがいう論理的操作をまだ十分に組織化していないと考えられました。
この時期の思考は、直観的であるとも表現されます。ここでいう直観的とは、優れたひらめきを持つという日常的な意味ではありません。子どもが、自分の判断の理由を論理的に説明するよりも、見た目や、そのとき強く印象に残った特徴に基づいて判断しやすいという意味です。
前操作期のもう一つの特徴として、保存課題が挙げられます。保存、英語ではconservationとは、物の見た目や配置が変化しても、何も加えられたり取り去られたりしていなければ、数、量、質量、体積などの基本的な性質は変わらないという理解です。
例えば、同じ形の二つの容器に同じ量のジュースを入れ、子どもに量が同じであることを確認してもらいます。その後、一方のジュースを、背が高く細い容器へ移し替えます。ジュースを加えたり捨てたりしてはいませんが、液面は高くなります。
前操作期の子どもは、背が高く細い容器のほうがジュースが多いと答えることがあります。これは、高さという知覚的に目立つ一つの特徴に注意が集中し、容器の幅や、移し替える前後の関係を同時に考えることが難しいためだとPiagetは説明しました。このように、一つの特徴に注意が偏ることを中心化、英語ではcentrationと呼びます。
また、前操作期の子どもは、移し替えたジュースを元の容器へ戻せば、最初と同じ状態になるという変換の逆向きを、心の中で十分にたどれない場合があります。Piagetはこれを不可逆性、英語ではirreversibilityと関係づけました。
ただし、前操作期の子どもが保存課題に失敗することを、その子どもが量について何も理解していない証拠とすることはできません。質問の仕方、同じ質問を繰り返すことの意味、容器の違い、課題への慣れなどによって答えが変わる場合があります。後の研究では、課題の言葉や状況をわかりやすくすると、Piagetが想定した年齢より早く保存に近い判断を示す子どもがいることも報告されています。
3つ目の具体的操作期は、およそ7歳から11歳頃までの時期として整理されています。この段階になると、子どもは、具体的な物や出来事に関して、論理的な心的操作を行えるようになるとPiagetは考えました。
保存課題についていえば、容器を変えてもジュースの量は変わらないと理解できるようになります。その理由として、背が高くなった一方で幅が狭くなったと、高さと幅の両方を考える場合があります。また、元の容器に戻せば最初と同じになるという可逆性を用いる場合や、何も足しておらず何も取り除いていないから量は同じだという同一性に基づく場合もあります。
このように、知覚的に目立つ一つの特徴だけにとらわれず、複数の側面を同時に考慮することを脱中心化、英語ではdecentrationと呼びます。具体的操作期に保存課題が可能になるのは、単に自己中心性から抜け出すためだけではありません。脱中心化、可逆性、同一性など、複数の論理的な関係を用いることができるようになるためです。
Piagetのいう自己中心性、英語ではegocentrismも、日常語でいう利己的、わがままという意味ではありません。自分の見方や知識から離れて、別の人の見方や、自分とは異なる情報の配置を調整することが難しい認知的傾向を指します。発達が進むと、自分の視点だけでなく、他者や別の位置から見た視点を考慮しやすくなるとされます。
具体的操作期には、保存のほかにも、物を共通の特徴によって分類すること、複数の分類関係を理解すること、大きさや長さなどの順に並べる系列化、AがBより大きく、BがCより大きければ、AはCより大きいと考える推移的推論などが可能になるとされます。
ただし、具体的操作期の論理は、具体的な物、図、経験可能な出来事などに支えられているとPiagetは考えました。ここでいう「具体的操作」は、物を実際に手で動かすことだけを意味するのではありません。具体的な対象や状況について、変換を心の中で可逆的かつ体系的に行うことを意味します。
そして、具体的な事柄に支えられた論理だけでなく、仮説や抽象的な関係についても考えられるようになる段階として、形式的操作期が位置づけられています。形式的操作期は、およそ11歳または12歳頃以降に始まるとされます。
形式的操作期には、目の前の現実だけでなく、「もしこの条件が変わったら、どのような結果になるか」という可能性について考えられるようになるとPiagetは考えました。ある問題について考えられる仮説を組織的に挙げ、その仮説から予測される結果を導き、条件を一つずつ変えながら検証することができます。これを仮説演繹的推論、英語ではhypothetico-deductive reasoningと呼びます。
例えば、振り子の速さを決める要因について調べるとき、糸の長さ、重りの重さ、振り始める高さ、押す力など、考えられる条件を整理します。そして、一つの条件だけを変え、ほかの条件を一定に保ちながら結果を比較します。Piagetは、このような体系的な組合せと仮説検証が形式的操作の特徴だと考えました。
また、形式的操作期には、現実に存在している事柄だけでなく、命題同士の論理的関係、正義や自由のような抽象的概念、将来の社会のあり方、ありうる世界などについて考えることが可能になるとされます。
ただし、すべての青年が思春期に入れば、自動的に、あらゆる問題で形式的操作を使えるようになるわけではありません。学校教育、文化、経験、専門知識、課題への慣れなどが大きく関係します。成人であっても、よく知らない領域では具体的な手がかりに依存することがあります。その一方で、特定の領域について豊富な経験を持つ人は、その領域では高度な推論を行うことができます。
このことから、現在では、Piagetの四段階を、すべての認知能力が一斉に切り替わる固定的な階段として理解することには慎重な見方がなされています。子どもの認知発達は、課題や領域によって異なる速度で進み、段階の間に移行的な状態が見られます。また、Piagetが想定した年齢より早く能力を示す場合もあれば、青年期や成人期になっても特定の形式的推論を十分に用いない場合もあります。
それでも、Piagetの理論が発達心理学に与えた影響は非常に大きいものです。それ以前には、子どもの誤答は、単に知識が不足しているための間違いとして扱われがちでした。これに対してPiagetは、子どもの誤答には、その年齢なりの一貫した考え方が表れている可能性があると考えました。
子どもは、大人の縮小版ではありません。子どもは自分なりの認知構造を用いて世界を理解し、環境に働きかけることによって、その理解を組み替えていきます。この子ども観は、発達心理学だけでなく、教育学や保育にも大きな影響を与えました。
一方で、Piagetの研究には限界もあります。自分の子どもを含む比較的少数の子どもの詳細な観察から理論を構成したこと、課題で用いる言葉や質問の意図が子どもの成績に影響すること、文化や教育、他者との相互作用の役割を十分に扱っていないことなどが指摘されています。
また、感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期という四段階が、認知のあらゆる領域で同時に現れる普遍的な構造であるという強い主張には、十分な実証的支持がないという批判があります。現代の研究では、乳児や幼児が、Piagetの課題では示せなかった能力を、別の方法では示すことがあるとわかっています。
したがって、Piagetの理論を学ぶ際には、四段階の年齢と特徴を暗記するだけでは不十分です。子どもが自分の行為を通じて知識を構成すること、認知の発達が単なる知識量の増加ではなく、理解の仕組みの質的な再編成を含むこと、子どもの誤答にもその子どもなりの論理があることが、Piagetの重要な問題提起です。
同時に、段階の年齢や課題成績を絶対的な基準として、子どもを「まだできない」と評価することは避ける必要があります。課題の提示方法、言葉、経験、文化、教育、人とのやり取りによって、子どもが発揮できる能力は変わります。
Piagetの発生的認識論と四段階説は、現在の認知発達研究によって、そのまま全面的に支持されているわけではありません。しかし、人間の知識はどのように生まれるのか、子どもは世界をどのように理解しているのか、行為と認識はどのようにつながるのかという問いを、具体的な研究課題として提示した点に、今日にも続く大きな意義があります。
