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赤ちゃんは言葉を話す前に何を伝えているのか――産声・クーイング・喃語・共同注意から学ぶ前言語期の発達 #放送大学講義録(発達心理学特論第4回その2)

【要約】

 

前言語期の乳児は、泣き声、クーイング、喃語、視線、身振りによって養育者と関わる。乳児・養育者・対象への注意を共有する三項関係や共同注意は、乳児期後半に段階的に発達し、初語や語彙学習を支える。ただし、泣き声だけで要求を特定したり、共同注意の成立から直ちに初語が生じたりするわけではない。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

前言語期――産声からクーイング、喃語、三項関係へ

前言語期は、言語発達の基盤となる極めて重要な時期です。「前言語期」という名称から、まだコミュニケーションが始まっていない時期のように思えるかもしれませんが、決してそうではありません。意味のある単語を安定して話す以前から、赤ちゃんは泣き声、表情、視線、身体の動き、発声、身振りなどを通して周囲の人と関わっています。こうした前言語的コミュニケーションの積み重ねが、後の言葉の理解や発話を支える基盤になります。

まず、産声について考えてみましょう。出生すると、それまで胎盤を通して酸素を受け取っていた赤ちゃんは、自分の肺を使って呼吸する状態へと移行します。その過程で生じる最初期の泣き声が、一般に産声と呼ばれています。肺から送り出された呼気が喉頭を通過し、声帯を振動させ、その音が咽頭や口腔などの声道を通ることによって、泣き声として聞こえます。したがって、産声は出生後に肺呼吸へと移行する過程で生じる発声の一つです。ただし、産声が聞こえたという事実だけで、赤ちゃんの呼吸や循環の状態がすべて正常であると判断できるわけではありません。出生直後の状態は、呼吸、心拍、筋緊張、皮膚の色などを含めて総合的に評価する必要があります。

次に、泣き声です。泣き声は、言葉を話せない時期の赤ちゃんにとって、空腹、不快、眠気、痛み、養育者との接触を求める状態などを周囲に知らせる重要な信号になります。ただし、泣き声だけを聞けば、その原因を常に正確に判別できるというわけではありません。養育者は、泣き始めた状況、授乳からどれくらい時間がたっているか、赤ちゃんの表情や身体の動き、体温、抱き上げたときの反応など、さまざまな手掛かりを組み合わせながら、赤ちゃんが何を求めているのかを推測します。

養育者が赤ちゃんと生活を重ねるうちに、その赤ちゃんに特有の泣き方や、泣きやすい状況を理解し、要求をおおよそ推測できるようになる場合もあります。泣き声の高さ、強さ、長さ、リズム、音の粗さなどには、苦痛の程度や身体状態と関連する特徴が含まれることがあります。しかし、空腹の泣き声、眠いときの泣き声、痛いときの泣き声が常に明確に分かれているわけではありません。泣き声は赤ちゃんの状態を知らせる大切な手掛かりですが、それだけで原因を断定するのではなく、周囲の状況や赤ちゃんの様子と併せて理解する必要があります。

生後2、3か月頃になると、多くの赤ちゃんに、泣き声とは異なる穏やかな発声が見られるようになります。これをクーイング(cooing)といいます。「アー」「ウー」と聞こえるような、母音に近い柔らかな声が中心です。クーイングは一般に生後1~4か月頃に現れ始めますが、出現する時期や発声の頻度には個人差があります。

この頃の育児日記に、「最近、おしゃべりをするようになった」と書く養育者もいます。もちろん、赤ちゃんがすでに単語を話しているわけではありません。しかし、養育者が赤ちゃんに話しかけると、赤ちゃんが声を出し、養育者がそれに応え、再び赤ちゃんが発声するという、会話のような交互のやり取りが見られることがあります。このようなやり取りでは、発声そのものだけでなく、相手の顔を見る、声を聞く、微笑む、発声を止めて相手の反応を待つといった行動も組み合わされています。言葉になる前から、コミュニケーションの基本的なリズムがつくられ始めているのです。

その次に発達してくるのが喃語、英語では babbling と呼ばれる発声です。喃語とは、単なる母音に近い声から、唇や舌を使った子音と母音の組み合わせへと、発声の構造が次第に複雑になっていく過程を指します。初期には、子音と母音の区切りがまだはっきりしない発声が見られます。その後、生後6~10か月頃を中心に、「バババ」「ダダダ」「マママ」のような、明瞭な音節を繰り返す発声が増えてきます。このような発声は規準喃語(canonical babbling)と呼ばれます。

クーイングが終わった後に、ある日突然、喃語だけに切り替わるわけではありません。クーイングに近い声、叫び声、笑い声、唇を震わせる音、子音と母音を組み合わせた発声など、さまざまな発声がしばらく併存しながら発達していきます。また、「マママ」という音が出たとしても、その段階で必ず母親を意味する「ママ」という単語になっているとは限りません。喃語では、意味を表すことよりも先に、発声器官を動かして音節をつくる練習が進んでいるからです。

誰かと一緒にいるときに、相手の顔を見ながら短い声を出すことも見られるようになります。養育者が声を返すと再び発声したり、養育者が話している間は静かにして、話し終わると声を出したりすることもあります。こうした相手との視線、表情、発声のやり取りは、前言語的コミュニケーションの一部です。

ただし、相手の顔を見ながら声を出したからといって、その発声がすべて明確な意図を持った伝達であるとは限りません。発声を楽しんでいる場合もあれば、相手の声や表情に反応している場合もあります。一方で、成長するにつれて、相手の反応を確かめるように顔を見る、声を出して相手の注意を引く、相手が応答するまで発声を繰り返すといった行動も増えてきます。発声、視線、表情、身振りなどが組み合わされることで、何かを相手に伝えようとする意図が、次第にはっきりと読み取れるようになってくるのです。

原文では、誰かに向けて短い発声をすることを「前言語」または「前言語的行動」と説明していました。しかし、「前言語」という言葉は、特定の一つの発声行動ではなく、意味のある語を安定して使用する以前の発達段階全体を表す場合が一般的です。その時期に見られる視線、表情、発声、喃語、身振り、指さしなどを用いたやり取りを、前言語的行動または前言語的コミュニケーションと呼びます。

この時期には、言語発達の準備期に見られるもう一つの重要な変化が進みます。それが、自分、コミュニケーションの相手、そして対象となる物や出来事を結び付ける三項関係です。発達心理学では、乳児と相手が同じ対象に注意を向け、その注意を互いに調整し、共有することを共同注意(joint attention)と呼びます。三項関係とは、単に自分、相手、物の三つが同じ場所に存在していることではありません。乳児と相手の双方が、同じ物や出来事に注意を向けていることが重要です。

共同注意の発達には、いくつかの異なる行動が含まれます。例えば、養育者が見ている方向を赤ちゃんが追う、養育者の指さした物を見る、赤ちゃん自身が物を指さして相手の注意を引く、物と養育者の顔の間で視線を往復させるといった行動です。相手が始めた共同注意に応じることを、共同注意への応答(responding to joint attention)といい、乳児自身が相手の注意を対象へ導こうとすることを、共同注意の開始(initiating joint attention)といいます。一般には、相手の視線や指さしに応じる行動の方が、自分から共同注意を始める行動よりも早く発達する傾向があります。

従来、共同注意が目立って発達する時期は、生後9か月頃からであると説明されることが多くありました。確かに、生後9か月頃から1歳代にかけて、視線の往復、指さしの理解、自発的な指さしなどが急速に増えてきます。ただし、現在では、共同注意の前駆的な行動はそれ以前から徐々に現れ、ある月齢を境に突然完成するわけではないと考えられています。研究方法や共同注意の定義によって、いつ成立したと判断するかも異なります。そのため、生後半年頃から1歳代にかけて、他者と対象への注意を結び付ける能力が段階的に発達すると理解するのが適切です。

それまでは、例えばおもちゃに興味を持つと、おもちゃを見たり、手を伸ばしたりすることが中心でした。あるいは、養育者と顔を見合わせ、声を交わすことが中心でした。このような乳児と対象、あるいは乳児と養育者との関係は、二項関係として捉えることができます。

三項的なやり取りが発達すると、乳児はおもちゃだけを見るのではなく、おもちゃを見た後に養育者の顔を見て、再びおもちゃを見るようになります。例えば、手の届かない場所におもちゃがあるとき、おもちゃに手を伸ばし、養育者の顔を見て声を出し、再びおもちゃを見ることがあります。この場合、乳児は養育者の注意をおもちゃへ向けようとしている可能性があります。

また、養育者がおもちゃを指さしながら「ほら、わんわんだよ」と言うと、乳児が指さされた方向を見て、その後に養育者の顔を見返すことがあります。この場合には、養育者が始めた共同注意に乳児が応じています。このように、自分、相手、対象の三者を結び付けるやり取りが増えることで、「誰かと一緒に何かを見る」「相手に何かを示す」「相手が何を示しているのかを理解する」というコミュニケーションが可能になっていきます。

ただし、二項関係から三項関係へ完全に置き換わるというわけではありません。養育者と顔を見合わせる二項的なやり取りも、乳児が一人でおもちゃを操作する関係も、その後引き続き見られます。そこに、相手と対象への注意を結び付ける三項的なやり取りが加わり、コミュニケーションの幅が広がっていくのです。

原文では、三項関係を「参照関係」とも表現していました。しかし、厳密には、共同注意と社会的参照は区別して考える必要があります。社会的参照(social referencing)とは、乳児が見慣れない物や不確かな状況に出会ったとき、養育者の表情や声を確認し、その反応を手掛かりとして自分の行動を決めることです。例えば、見慣れないおもちゃを前にした乳児が養育者の顔を見て、養育者が微笑んでいれば近づき、不安そうな表情をしていれば近づくのをためらう、といった行動です。共同注意も社会的参照も、自分、相手、対象という三項的な構造を持ちますが、両者は全く同じ現象ではありません。

三項関係や共同注意が発達することは、後の言語発達にとって重要です。養育者が犬を指さしながら「わんわんだね」と言ったとき、乳児が養育者と同じ犬を見ていれば、「わんわん」という音声が何を指しているのかを理解しやすくなります。共同注意の場面では、養育者の言葉と対象との対応関係が明確になるため、語の意味を学ぶ機会が生まれます。共同注意の経験が多いことと、その後の語彙の発達との間に関連があることも報告されています。

ただし、「三項関係が成立すると、すぐに初めの言葉が現れる」と考えるのは適切ではありません。初めの言葉が現れるためには、他者と注意を共有する能力だけでなく、周囲の音声を聞き分ける能力、語の音を記憶する力、物や出来事についての概念、発声や構音を調整する能力など、多くの発達が必要です。三項関係や共同注意は、それだけで初語を直接生み出すものではありませんが、養育者の言葉が何を指しているのかを理解し、語の意味を学ぶための重要な基盤となります。

図:三項関係の模式図

三項関係は、乳児、養育者、対象という三者があるだけでは成立しません。乳児と養育者が同じ対象に注意を向けていることを、視線、指さし、表情、発声などによって互いに確認し、注意を調整していることが重要です。

  • 乳児と養育者の間では、視線、表情、微笑、発声などのやり取りが行われます。
  • 養育者は、視線や指さし、言葉によって乳児の注意を対象へ導きます。
  • 乳児は、対象を見るだけでなく、対象と養育者の顔の間で視線を往復させます。
  • 乳児自身が指さしや発声によって、養育者の注意を対象へ導くこともあります。
  • こうした注意の共有が、語の意味を学ぶための重要な手掛かりになります。

三項関係_共同注意_模式図.png