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知能は年齢とともにどう発達するのか――ビネ=シモン法から最新の田中ビネー知能検査Ⅵまで #放送大学講義録(発達心理学特論第3回その1)

【要約】

 

近代的知能検査は、BinetとSimonが教育的支援を必要とする子どもを見いだすために開発した尺度から発展した。Binet法は年齢別課題から精神年齢を捉え、ウェクスラー式は同年齢集団との比較による偏差IQと認知能力の構成を重視する。田中ビネー知能検査の最新版は2024年刊行のⅥであり、精神年齢とDIQを用いて知的発達を評価する。Piagetの発達理論とは一部関連するが、両者の目的と方法は異なる。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

知能研究の先駆けと田中ビネー知能検査

知的な能力の発達や、外界を捉える認知の発達について、生涯発達の観点から考えてみたいと思います。

知能や認知機能が加齢、つまり年を重ねていくことによってどのように変化するのか、また、その変化が私たちの社会生活や日常生活にどのような影響を及ぼすのかを検討します。さらに、これらの影響を少しでも小さくし、高齢者が安全かつ安心して暮らすためには、どのような環境整備や支援が必要なのかについても考えていきます。

今回取り上げるテーマは、次のとおりです。

1.知能検査から見る知能の発達

知能は、後で述べるように、研究者や検査の開発者によってさまざまに定義され、その定義や理論的立場に基づいて作成された知能検査によって評価されます。そこで、それぞれの知能検査の特徴を確認しながら、知能の発達がどのように捉えられてきたのかを述べます。

2.知能と認知機能の加齢

知能と認知機能は、完全に同じ概念ではありませんが、互いに重なる部分があります。記憶、注意、言語、推論、処理速度、実行機能などの認知機能の側面から、加齢との関連を考えていきます。

3.加齢を考慮した生活のあり方

日本は、65歳以上人口の割合が21%を超える超高齢社会となっています。また、「人生100年時代」という言葉も広く使われるようになりました。ただし、すべての人が100歳まで生きるという意味ではなく、長寿化を前提として、教育、就労、家族生活、健康管理、社会保障などを生涯にわたって考える必要があるという社会的な問題提起として理解する必要があります。

高齢者の知能や認知機能について、単に能力が低下するかどうかだけを見るのではなく、日常生活の環境、これまでに身につけた知識や経験、健康状態、社会参加、周囲からの支援などとの関係を通して考えていきます。

知能の捉え方は一つではなく、知能検査が前提としている理論や、測定しようとする能力によって異なります。まずは、知能の発達が知能検査や認知機能検査を通してどのように捉えられてきたのかを見ていきたいと思います。

近代的な知能検査の先駆けとして重要なのが、フランスの心理学者Alfred Binetと医師Théodore Simonによる知能測定法、いわゆるBinet–Simon Scaleです。

ただし、知能や個人差を科学的に測定しようとする研究は、Binet以前にも行われていました。例えば、Francis GaltonやJames McKeen Cattellは、感覚の鋭敏さ、反応時間、身体的特徴などを測定し、それらを知的能力の個人差と結びつけようとしました。しかし、こうした感覚・運動機能の測定値は、学校での成績や複雑な知的活動と必ずしも強く対応しませんでした。

これに対して、BinetとSimonは、記憶、注意、理解、判断、語彙、問題解決など、より複雑な精神機能を課題として取り上げました。そのため、Binet–Simon Scaleは、教育現場で利用できる実用的な個別知能検査の出発点の一つと位置づけることができます。

Binetによる知能の捉え方では、子どもがどの年齢水準の課題まで解くことができるかによって、その子どもの「知的水準」を表しました。この知的水準は、後に一般に「精神年齢」と呼ばれるようになります。

一方、その後に開発されたウェクスラー式知能検査では、同じ年齢集団の中での相対的な位置を表す偏差知能指数、すなわちDeviation IQが採用されました。検査結果は全体的な知的能力を表す指標だけでなく、複数の認知領域や下位検査の得点によって示されます。そのため、単に知能が高いか低いかを一つの数値だけで判断するのではなく、その人がどのような認知的特徴や能力のバランスを持っているのかを検討することができます。

ウェクスラー式知能検査には、主として幼児を対象とするWechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence、児童を対象とするWechsler Intelligence Scale for Children、成人を対象とするWechsler Adult Intelligence Scaleなど、年齢層に応じた検査系列があります。ただし、対象年齢は版によって一部重なっており、機械的に三つの年齢段階へ分けられるわけではありません。

19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスで活躍した心理学者BinetによるBinet法は、学校教育の中で特別な教育的支援を必要とする子どもを見いだし、その子どもに適した教育を提供するための資料を得ることを主要な目的としていました。

フランスでは義務教育制度の整備が進み、多様な子どもたちが学校で学ぶようになりました。そのため、通常の学級での学習に大きな困難を抱える子どもを、教師の印象だけではなく、一定の方法によって評価する必要が生じたのです。

ただし、Binetの検査は、子どもを変わらない能力によって分類し、将来の可能性を断定するために作られたものではありませんでした。Binetは、検査結果が教育、経験、健康状態、意欲、家庭環境などの影響を受けることを認識しており、知能が完全に固定されたものとして扱われることには慎重でした。

1905年に公表された最初のBinet–Simon Scaleでは、課題は主として難易度の順に配列され、知的発達上の支援を必要とする子どもを識別することが目指されました。1908年の改訂版では、課題が年齢水準ごとに整理され、どの年齢の子どもがどのような課題を通過できるかという年齢尺度の考え方が明確になりました。さらに、1911年版では対象年齢や問題構成が改訂されました。

Binetは、年齢に応じた複数の課題を設定し、その回答結果から子どもの知的水準を評価しました。後のBinet系知能検査では、この考え方に基づき、どの年齢級の課題まで通過したかを用いて精神年齢を算出する方式が整備されました。

例えば、生活年齢10歳の子どもの精神年齢が10歳と算出された場合には、検査で測定された範囲では、おおむね10歳児に相当する知的発達水準を示していると解釈されます。

ただし、「精神年齢10歳」という結果は、その子どものすべての能力や人格が10歳児と同じであることを意味しません。知能検査に含まれる課題に対する成績を、標準化された年齢尺度に照らして表した指標です。実際の子どもには、言語、記憶、推理、社会的理解、運動能力、情緒などの領域によって大きな違いがあります。

Binet自身は、現在一般に精神年齢と呼ばれるものを主に「知的水準」と表現していました。1908年版で年齢尺度が導入され、Binetの最後の改訂版である1911年版では、年齢別に配列された問題を用いて知的水準を判定する方法がさらに整備されました。

なお、精神年齢と生活年齢から求める比例知能指数は、次の式で表されます。

 

proportional_iq_formula.png

 

例えば、精神年齢が12歳、生活年齢が10歳であれば、比例IQは次のようになります。

 

proportional_iq_example.png

 

ただし、この比率によるIQの考え方は、Binet自身が完成させたものではありません。精神年齢と生活年齢の比を用いる考え方はWilliam Sternによって提唱され、Lewis TermanによるStanford–Binet Intelligence Scaleなどを通して広まりました。

Binet法は、しばしば全般的な知的発達水準を測定する検査であると説明されます。ただし、ここで注意しなければならないのは、Binetの考え方を、Charles Spearmanが因子分析に基づいて提唱した一般知能因子 (g) とそのまま同一視することはできないという点です。

Binetは、知能を記憶力、注意力、弁別力、理解力、判断力など、互いにまったく無関係な個別能力の寄せ集めと考えたわけではありません。しかし同時に、知能を一つの固定的な実体として、一つの数値だけで完全に表せるとも考えていませんでした。

Binet法では、言語理解、記憶、比較、判断、実際的知識などを含む多様な課題への反応を総合し、子どもの知的水準を実用的に捉えようとしています。そのため、Binet法が示す知的水準は、多様な精神機能を含む課題の成績をまとめた総合的な発達指標として理解するのが適切です。

年齢ごとに問題内容が変化する点は、Binet系知能検査の大きな特徴です。幼い年齢では、物の名称、簡単な指示への反応、形の識別、短い語句の復唱などが中心となり、年齢が上がるにつれて、語彙、記憶、数量理解、類推、文章理解、論理的判断、抽象的推理などが含まれるようになります。

このような問題構成は、子どもの知的発達が単に同じ能力の量的増加として進むのではなく、年齢とともに可能になる活動の種類や複雑さが変化していくことを具体的に示しています。

2019年時点では、田中ビネー知能検査Vが最新版でした。しかし、田中ビネー知能検査Vは2003年に刊行された版であり、2024年には後継版である田中ビネー知能検査Ⅵが刊行されています。したがって、現在の最新版は田中ビネー知能検査Ⅵです。

田中ビネー知能検査Vの適用年齢は、原則として2歳から成人までです。検査問題は、主として1歳級から13歳級までの年齢尺度と成人級の問題によって構成されています。1歳級の問題は、低年齢児などの発達状態を確認する「発達チェック」として用いられる場合がありますが、田中ビネー知能検査Vの通常の適用年齢は2歳以上とされています。

田中ビネー知能検査Vでは、子どもの年齢段階について精神年齢を算出することができます。従来の運用では、生活年齢が13歳以下の場合は精神年齢を中心とした評価が行われ、14歳以上では同年齢集団内での相対的位置を表す偏差知能指数、すなわちDeviation IQ(DIQ)が用いられました。

ただし、最新版の田中ビネー知能検査Ⅵでは、生活年齢2歳0か月から13歳11か月までの受検者について、精神年齢に加えてDIQも主要な指標として示されます。生活年齢14歳0か月以上の受検者については、領域別DIQおよび総合DIQが主要な指標となっています。

この変更により、田中ビネー知能検査が従来から重視してきた発達の到達水準を精神年齢によって捉えながら、同じ年齢の集団の中でどの位置にあるのかをDIQによって捉えることが可能になっています。

田中ビネー知能検査Vの開発では、各年齢級の問題について、その年齢の子どものおおむね55~75%が通過できることが、問題選定における原則的な基準の一つとされました。

ここでいう通過率とは、その問題に正答したり、定められた基準を満たしたりした子どもの割合です。したがって、例えば通過率が55%であれば、標準化の対象となった同年齢の子どもの約55%がその問題を通過したことを意味します。

ただし、55~75%という数値は、個々の子どもを合格または不合格にするための基準ではありません。また、すべての問題が必ずこの範囲に収まっているという意味でもなく、年齢級に配置する問題を選ぶ際の原則的な目安です。

各年齢級には、その年齢の子どもの多くが通過できる一方で、より低い年齢の子どもには相対的に難しい問題が配置されます。そのため、年齢尺度をたどることによって、子どもの知的活動がどのように変化していくのかを具体的に見ることができます。

この考え方は、Binetが重視した、子どもの知的能力を年齢に伴う発達的変化として捉える考え方を受け継いでいると言えるでしょう。

さて、成長に伴って変化する田中ビネー知能検査Vの年齢別の問題内容には、Jean Piagetによる認知発達の考え方と部分的に対応させて理解できるものがあります。

例えば、幼児期の課題には、物の名称、形や大きさの識別、簡単な分類、数量の理解などが含まれます。年齢が上がると、系列化、因果関係の理解、複数の特徴を考慮した判断、言語的な推理、抽象的な概念の理解など、より複雑な課題が増えていきます。

こうした変化は、Piagetが述べた感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期という認知発達の変化と、部分的に関連づけて説明することができます。

しかし、田中ビネー知能検査は、Piagetの発達段階を直接測定するために作成された検査ではありません。田中ビネー知能検査は、標準化された課題を通して個人の知的発達水準を評価する心理測定検査です。一方、Piagetの研究は、子どもが世界をどのような構造によって理解し、その思考の仕方がどのように変化するかを明らかにしようとした発達理論です。

したがって、両者には、年齢とともに認知活動の内容や構造が変化することを重視するという共通点がありますが、理論的な目的や研究方法、評価の単位は異なります。「田中ビネー知能検査の問題内容はPiagetの認知発達論と一致する」と断定するのではなく、「一部の問題内容について、Piagetの認知発達論と関連づけて考えることができる」と理解するのが適切です。