【要約】
Health literacyとは、健康情報やservicesへaccessし、understand、appraise、useして健康上の意思決定や行動へ生かすknowledgeとcompetenciesである。現在のWHOは、これを個人だけの責任とはせず、医療、行政、学校、mediaなどのorganizational structuresやresourcesとのinteractionから捉えている。LindströmとErikssonはsalutogenesisをlearningへ応用し、人を受動的な健康教育の対象ではなく、自らの経験やresourcesを使って健康へ向かうactive participantとして捉えた。Salutogenesisとhealth literacyは同一概念ではないが、個人・社会のresourcesに注目する点で共通する。Empowermentは外から「力を与える」ことではなく、人々が自分の健康や人生に影響するdecisionsやactionsへのcontrolを高めていくprocessである。Health literacyはそのempowermentを支える重要なresourceとなる。一方、SOCもstressorsを自由にcontrolする能力ではなく、状況をcomprehensible、manageable、meaningfulと捉え、利用できるresourcesを活用するorientationである。Health literacy、SOC、empowermentはいずれも、本人だけを強くするのではなく、主体的な意思決定・参加と、それを支える環境の双方を重視する点で結びついている。
ーーーー講義録始めーーーー
ヘルスリテラシーとエンパワーメント
(健康生成論を「学習」の視点から考える)
Monica Erikssonは、Bengt Lindströmとともにsalutogenesis、健康生成論を教育や学習の視点へ展開し、従来の一方向的なhealth educationから、“healthy learning”へと発想を広げることを提案しています。ここで大切なのは、salutogenesisそのものを「health literacyを向上させるための理論」と限定しているわけではない、ということです。Salutogenesisは、人がstressorsや困難のある世界の中で、どのようなresourcesを利用しながらhealth continuum(健康の連続体)上の健康側へ動いていくのかを考える、より広い理論です。その考え方をlearningへ応用すると、人は専門家から健康についての正しい知識を一方的に教えてもらうだけの存在ではなく、自分自身の経験や他者とのinteractionを通じて学び、自らの生活を形づくるactive and participating subjectとして捉えられます。この意味で、健康へ向かうprocessを持続的なlearning processとして捉えることができるわけです。
(health literacyとは何か)
そのとき重要になる概念の一つがhealth literacy、ヘルスリテラシーです。現在のWHOはhealth literacyを、健康とwell-beingを促進・維持するために、情報やservicesへaccessし、それをunderstandし、appraise(評価)し、useすることを可能にするpersonal knowledge and competenciesとして説明しています。簡単に言えば、健康について必要な情報を見つけ、それを理解し、「これは信頼できる情報なのか」「自分に当てはまるのか」と評価したうえで、自分自身や周囲の人の健康に関する意思決定や行動へ生かしていく力です。ですから、health literacyとは単に「健康についてたくさん知っている」という知識量だけを意味するわけではありません。知識をどのように探し、理解し、批判的に評価し、現実の生活の中で利用するかまで含まれます。
(知識を増やすだけではhealth literacyは高まらない)
もちろん、健康について幅広く正確な知識を持つことはhealth literacyを支える重要なresourceです。しかし、「知識が増えれば、そのままhealth literacyが高くなる」と単純には言えません。例えば、インターネット上に多くの医学情報があっても、その中から信頼できる情報を選べなければ、適切な意思決定につながらないことがあります。また、医学用語を理解できたとしても、複数の治療法のbenefitとriskを比較したり、自分自身の価値観と照らし合わせて選択したりすることが難しい場合もあります。WHOがaccess、understandだけでなくappraiseとuseまで含めてhealth literacyを定義しているのは、このためです。
(健康について学ぶことは生活の中で続いていく)
そしてhealth literacyは、学校で一度健康教育を受ければ完成するものでもありません。WHOは、personal health literacyを構成するknowledgeやcompetenciesは、daily activitiesやsocial interactionsを通じて蓄積され、世代を越えて形成されるものだと説明しています。私たちは、自分が病気になった経験、家族を看病した経験、医療者と話した経験、学校で学んだこと、職場や地域で得た情報、テレビや新聞、internet、social mediaなど、多くの経験を通して健康について学んでいきます。その意味では、health literacyの発達をlifelong learning、つまり生涯にわたる学習processとして考えることができます。
(salutogenesisとhealthy learning)
LindströmとErikssonの議論では、salutogenic theoryをlearning modelへ取り入れることによって、人を健康教育の受動的な対象ではなく、健康をつくるprocessへ主体的に参加する存在として捉えます。健康上の課題に直面したとき、その経験から何かを学び、利用できるresourcesを知り、他者とinteractionし、新しい知識やskillsを身につけることがあります。そして、それらが次の健康上の課題へ対処するときのresourceになることもあります。このような意味で、「健康について学ぶこと」と「健康を生み出すこと」が相互に関係するprocessとして捉えることができます。ただし、「health literacyが上がる→他者との関係が成長する→新しい知識が増える→さらにhealth literacyが上がる」という一つの決まった循環modelがsalutogenesisそのものである、という意味ではありません。健康生成論をlearningという視点から理解したときに、このような循環的な成長processを考えることができる、ということです。
(health literacyは個人だけの力ではない)
そして、現在のhealth literacy研究で非常に重要なのは、health literacyを個人だけの責任にしないという考え方です。例えば、患者が病院でもらった説明書を理解できなかったとします。そのとき、「本人のhealth literacyが低いから理解できない」と考えるだけでは十分ではありません。説明書が専門用語ばかりで書かれていないか、文字が小さすぎないか、多言語に対応しているか、医療者が質問しやすい雰囲気をつくっているか、といった情報提供側の問題もあります。WHOも、health literacyは個人のknowledgeやcompetenciesだけでなく、それを可能にするorganizational structuresや利用可能なresourcesによって媒介されると明確にしています。
(personal health literacyとorganizational health literacy)
そのため現在では、personal health literacyだけでなくorganizational health literacyという考え方も重視されています。つまり、「本人が難しい医療情報を理解できるよう努力してください」と要求するだけではなく、病院、行政、学校、企業、mediaなど情報を提供する側も、人々が必要な情報をfindし、understandし、useできる環境をつくらなければならないという考え方です。家庭、地域、職場、学校、行政、mediaといったさまざまなsettingsが、health literacyを高めるsupportive environmentにもなれば、反対に情報へのaccessを難しくするbarrierにもなります。WHOも、health literacyをindividual、organizational、systemic levelsのすべてで向上させる必要があるとしています。
(salutogenesisとhealth literacyに共通するresourcesへの視点)
このように考えると、salutogenesisとhealth literacyには共通するところが見えてきます。Salutogenesisは、病気をつくるriskだけではなく、人を健康側へ動かすresourcesに注目します。Health literacyもまた、個人のknowledgeやcompetenciesだけでなく、必要な情報、支えてくれる人、理解しやすいhealth services、教育、情報環境などを重要なresourcesとして考えます。したがって両者には、「その人に何が足りないのか」だけを見るのではなく、「本人や周囲にはどのようなresourcesがあり、それをどう利用できるのか」というasset-orientedな視点が共通しています。ただし、salutogenesisとhealth literacyは同じ概念ではありません。Salutogenesisは健康がどのように生成されるのかを捉える包括的なtheoretical frameworkであり、health literacyは健康情報やservicesにaccessし、理解・評価・利用するためのknowledgeやcompetenciesと、それを可能にする環境条件に焦点を当てた概念です。
(empowermentとは「力を与えてもらうこと」なのか)
さらに、salutogenesisとhealth literacyを考えるときに関係してくる重要な概念がempowermentです。日本語では「力を与えること」「力づけること」と訳される場合があります。しかしhealth promotionにおけるempowermentは、「力を持っている専門家が、力のない人に力を与える」という一方向の意味ではありません。WHOはempowermentを、人々が自分の人生を形づくるfactorsやdecisionsに対するcontrolを高めていくprocessと説明しています。つまり、自分自身やcommunityが、自分たちの健康や生活に関わる意思決定に参加し、必要なresourcesへaccessし、自分たちに影響する環境へ働きかけられるようになるprocessです。
(empowermentは個人だけの問題ではない)
Empowermentは、本人の「自信を高めること」だけでもありません。もちろん、「自分にも選択できる」「自分にも行動できる」というsense of controlは重要です。しかしWHOのcommunity empowermentの考え方では、個人だけでなくcommunityやsocial groupsがneedsを表明し、decision-makingへ参加し、生活条件そのものに働きかけることも重要になります。その意味では、「生まれ持ったpotentialを発揮できるようにする」という説明はempowermentの一側面として理解することはできますが、empowerment全体をそれだけで定義することはできません。本人の能力と同時に、本人が実際に選択・参加できるopportunitiesを社会の側につくる必要があります。
(health literacyはempowermentを支える)
Health literacyもempowermentと深く関係しています。自分自身の健康について意思決定するためには、選択肢が何なのか、そのbenefitとriskは何なのか、どこで支援を受けられるのかを知り、理解し、評価できることが必要です。そのためWHOは、health literacyを向上させることが、人々が自分の健康についてinformed decisionsを行うempowermentにとってcriticalであるとしています。またhealth literacyが高まることは、自分個人の健康行動だけでなく、communityとして健康問題に取り組んだり、政府にhealth equityへの責任を求めたりするcollective actionの基盤にもなります。したがって、health literacyはempowermentそのものと完全に同じではありませんが、empowermentを可能にする重要なresourceの一つと考えることができます。
(SOCは「すべてをcontrolする力」ではない)
同じことをSOCについて考えてみましょう。SOCは、stressや困難な状況そのものを自由にcontrolできる能力ではありません。人生には、自分では変えることのできない病気、災害、失業、他者の行動などがあります。SOCで重要なのは、そのような状況に直面したときに、「何が起きているのかある程度理解できる」というcomprehensibility、「利用できるresourcesがあり、何とか対処できる」と感じるmanageability、「この課題に向き合うことには意味がある」と感じるmeaningfulnessです。つまり、SOCは「環境を思いどおりにcontrolする力」というより、利用できるresourcesを見つけ、必要に応じてmobilizeしながら状況に適応するためのorientationだと考える方が適切です。SalutogenesisがresourcesとSOCを重視するのもこのためです。
(health literacy・SOC・empowermentをどう結びつけるか)
このように整理すると、health literacyとSOC、empowermentには確かに共通する方向があります。Health literacyは、健康に関するinformationやservicesをresourceとして利用し、よりよい意思決定や行動につなげるknowledgeとcompetenciesです。SOCは、困難な状況を理解可能・対処可能・意味あるものとして捉え、利用できるresourcesを適切に活用することに関係するorientationです。そしてempowermentは、人々が健康や生活に影響するdecisionsやactionsへのcontrolを高めるprocessです。三者は同じ概念ではありませんが、「本人を受動的な対象にしない」「本人やcommunityが持つresourcesに注目する」「意思決定への参加と主体性を高める」「そのためのsupportive environmentを整える」という点では深く結びついています。
(健康への力とは個人と環境の関係から生まれる)
ですから、health literacyやSOCを向上させることを、「一人で何でもできる強い人間になること」と捉えないことが大切です。必要な情報を入手できること、分からないことを人に尋ねられること、信頼できる専門家に相談できること、周囲からsupportを受けられること、そして自分に影響するdecision-makingへ参加できることも重要な「健康への力」です。それを可能にするためには、個人のskillsを高めるだけでなく、家庭、学校、職場、地域、医療機関、行政、mediaなどの環境も、人が自分自身のhealthを理解し、選択し、行動できるようにつくられていなければなりません。健康への力とは、個人の中だけにあるものではなく、個人と環境とのinteractionの中で形成され、発揮されるものだと考えることができます。WHOが現在、personal health literacyとorganizational health literacyの双方を強調しているのも、この考え方とよく重なります。
