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健康格差はなぜ生まれるのか――健康の社会的決定要因・ソーシャルサポート・コミュニティから考える「健康への力」 #放送大学講義録(健康への力の探究第1回その13)

【要約】

 

Social determinants of health(健康の社会的決定要因)とは、人が生まれ、育ち、生活し、働き、年を重ねる条件や、power、money、resourcesへのaccessなど、健康を左右する社会的条件である。WHOは、社会経済的位置が低いほど集団として健康状態が悪化するsocial gradient in health(健康の社会的勾配)を指摘している。ただし、すべての健康差が不公正なのではなく、unfairでavoidablyまたはremediably生じる差がhealth inequity(不公正な健康格差)となる。健康行動を変えられない人を本人だけの責任にするのではなく、所得、教育、住宅、仕事、制度などの環境条件も考える必要がある。さらにcommunityは地理的地域だけでなく、共通の関心や属性でつながる集団も含み得る。Social support(ソーシャルサポート)は人間関係を通じて得られる情緒的・実際的・情報的な支援であり、social connection(社会的つながり)が健康や死亡riskと関連することも多くの研究で示されている。患者会やpeer support、患者サロンなどの参加型の場は、経験や情報を共有し、health literacy、self-management、empowermentを支える可能性がある。ただし、その効果は一様ではない。健康への力は個人の能力だけでなく、人と人とのつながりや利用可能な社会的resourcesとの相互作用の中で形成される。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

健康の社会的決定要因とソーシャルサポート

(行動変容できないことを本人だけの責任にしない)
いくらbehavior change(行動変容)のための教育program(プログラム)を提供しても、期待したような変化が生じない人はいます。しかし、それを単純にその人の責任とするならば、場合によってはvictim blaming(犠牲者非難)につながります。だからといって、反対に「変われなかったのはすべてprogramや社会の責任だ」と考えるのも適切ではありません。人の健康行動は、本人の知識や価値観、健康状態だけでなく、所得、教育、仕事、家族関係、住環境、利用できるサービスなどさまざまな条件に影響されます。したがって、「なぜこの人は変わらなかったのだろう」と考えるときには、本人の意思や努力だけを見るのではなく、その人が変化しやすいsupportive environment(支援的環境)を私たちは十分につくれているのか、program自体に利用しにくいbarrier(障壁)はないのか、利用できるresources(資源)は十分なのか、というところまで考える必要があります。WHOもhealth literacy(ヘルスリテラシー)について、健康に必要な力を個人だけの責任とせず、organizational(組織的)・systemic(制度的)な環境を同時に整えることを求めています。

(貧困と社会経済的不利は健康に深く関係する)
Social and economic factors(社会的・経済的要因)、なかでもpoverty(貧困)や低所得などの社会経済的不利は、人々の疾病やpremature death(早期死亡)に深く関係する主要なhealth determinants(健康決定要因)です。ただし、「貧困が疾病や死亡の最大の原因である」と順位まで固定して表現することには注意が必要です。WHOは、質の高い住宅や教育、雇用機会、social protection(社会保障)などへのaccessが乏しい人ほど疾病や死亡のriskが高いこと、そしてsocial determinants of health(健康の社会的決定要因)が、ときにはgenetic influences(遺伝的影響)やhealth care access(保健医療へのアクセス)以上に健康へ大きな影響を持ち得ることを指摘しています。低所得国と高所得国の間には大きな健康差がありますが、それだけではありません。同じ豊かな国の中でも、所得、教育、職業などのsocioeconomic position(社会経済的位置)が低いほど、集団として健康状態が悪くなる傾向があります。これをsocial gradient in health(健康の社会的勾配)と言います。ただし、「所得の低い一人一人が必ず所得の高い人より不健康になる」という意味ではなく、population level(集団レベル)でみられる傾向です。

(健康の差の背後にある政治・社会・経済の構造)
健康状態の差には、食事、身体活動、喫煙などのlifestyle(生活様式)や、住居、職場、地域などの環境も関係します。しかし、そうしたlifestyleや生活環境そのものを形づくっているのが、さらに広いpolitical, social and economic factors(政治的・社会的・経済的要因)です。例えば、どの程度の所得が得られるのか、どのような教育を受けられるのか、安全な住宅に暮らせるのか、安定した仕事があるのか、health services(保健医療サービス)やsocial protectionを利用できるのかといった条件は、個人の選択だけでは決まりません。WHOはsocial determinants of healthを、人々が“born, grow, live, work and age”(生まれ、育ち、生活し、働き、年を重ねる)条件と、人々がpower, money and resources(権力・資金・資源)へどのようにaccessできるかという条件として捉えています。つまり、健康の背後には、日常生活よりさらに上流にある社会構造が存在するわけです。

(health inequalityとhealth inequityを区別する)
生まれ育った場所、所得、教育、所属するcommunity(コミュニティ)、障害の有無などによって健康状態に差が生まれることがあります。ただし、健康状態に差があれば、そのすべてがただちに「社会がつくった不公平」であるわけではありません。ここではhealth inequality(健康格差・健康上の差)とhealth inequity(不公正な健康格差)を少し区別しておきましょう。WHOはhealth equity(健康の公平性)を、社会的・経済的・人口学的・地理的に定義された集団間に、unfair and avoidable or remediable differences(不公平で、回避可能または改善可能な健康上の差)がないこととして説明しています。したがって、社会制度やresourcesの不平等な配分によって生じ、しかも改善可能である健康格差については、本人の責任だけではなく社会の側が取り組むべきhealth inequityの問題になります。WHOの2025年のWorld Reportも、所得・wealth(富)、教育、居住地域、差別、powerやresourcesへのaccessなどが、こうした回避可能で不公正な健康格差に強く影響するとしています。

(social determinants of healthという考え方)
このように、健康格差やhealth inequityを生み出す背景にある社会的条件を考えるための重要な概念が、social determinants of health(健康の社会的決定要因)です。これは単に「貧困」という一つの要因を意味するのではありません。所得、教育、employment(雇用)、労働条件、住宅、地域環境、social protection、差別、政治への参加、health servicesへのaccess、さらにpower、money、resourcesの配分など、多くの社会的条件が含まれます。そのため、健康格差を改善するにはhealth sector(保健医療部門)だけでは十分ではなく、国や地方行政、教育、労働、住宅、福祉、民間企業、civil society(市民社会)などが共同して取り組む必要があります。WHOも現在、social determinants of healthへの対応にはall parts of government(政府のあらゆる部門)、private sector(民間部門)、civil societyの行動が必要だとしています。

(communityの意味は「地域」だけではない)
そのため、国や行政が持つ役割はもちろん重要ですが、個人のbehavior changeを支援したり、supportive environmentを整えたりする際には、communityのつながりも重要な役割を果たします。Communityは日本語では「地域社会」と訳されることが多く、実際に同じ地域に住む人々を指す場合があります。しかしcommunityは地理的な地域だけに限られません。WHOのcommunity engagement(コミュニティ・エンゲージメント)に関する資料でも、communityはgeographic location(地理的位置)だけでなく、年齢、職業、ethnicity(民族性)、faith(信仰)、shared interests(共通する関心)などによって結びつく人々を含むものとして扱われています。この意味から考えれば、同じ病気を経験している人、同じ子育て上の課題を持つ人、共通の目標や価値を持つ人たちがinternet(インターネット)上でつながって形成するonline community(オンライン・コミュニティ)も、communityとして機能し得ると考えることができます。ただし、WHOの定義そのものが「internet community」と限定的に規定しているわけではありません。

(social supportとは何か)
そこで、人々のつながりの力を考えるときに重要になるものの一つがsocial support(ソーシャルサポート)です。Social supportとは簡単に言えば、人間関係を通して得られる助けや支えのことです。それには、つらい時に話を聞いてもらうemotional support(情緒的支援)、家事や移動などを実際に助けてもらうinstrumental support(手段的・実際的支援)、必要な知識や助言を得るinformational support(情報的支援)、自分の考えや行動を振り返る手助けになるappraisal support(評価的支援)などがあります。WHOが2025年に示したsocial connection(社会的つながり)の考え方でも、人とのつながりは単に「知り合いが何人いるか」だけではなく、関係のstructure(構造)、どのようなsupportが交換されるかというfunction(機能)、その関係が温かく満足できるものなのかというquality(質)から捉えられています。

(人とのつながりも健康を支えるresourceである)
人とのつながりが健康と関係することについては、多くの研究があります。148研究、30万人以上を対象としたmeta-analysis(メタ分析)では、より強いsocial relationships(社会的関係)を持つ人の方が追跡期間中のsurvival(生存)可能性が高いことが報告されました。その後のsystematic review and meta-analysis(系統的レビュー・メタ分析)でも、social isolation(社会的孤立)はall-cause mortality(全死亡)のrisk上昇と関連しています。そしてWHOも2025年にCommission on Social Connection(社会的つながり委員会)の報告書を発表し、social connectionを健康やwell-being(ウェルビーイング)を支える重要な要因として位置づけています。ただし、「友人を増やせば必ず長生きできる」といった単純な因果関係として理解するべきではありません。人との関係の数だけでなく、その質やsupportの内容、本人の健康状態、社会環境なども関わっています。

(SOCとsocial supportの関係)
このsocial supportは、ここまでお話ししてきたSOC(sense of coherence:首尾一貫感覚)とも関係づけて考えることができます。ただし、SOCとsocial supportは同じものではありません。Antonovskyのsalutogenesis(健康生成論)では、人がstressors(ストレッサー)に対処するために利用できるGeneralized Resistance Resources(汎抵抗資源:GRRs)が重視され、social supportはその重要なresourceの一つとして考えられます。それに対してSOCは、状況がcomprehensible(理解可能)であり、利用できるresourcesによってmanageable(対処可能)であり、そこにmeaningfulness(意味)を感じられるというorientation(志向性)です。したがって、人とのつながりやsupportそのものがSOCなのではありませんが、困難な時に相談できる人がいることや必要な援助を受けられることは、「自分には対処に使えるresourcesがある」という感覚を支える可能性があります。

(参加型programとself-management支援)
こうした人々のつながりを健康づくりに生かす方法として、市民や患者が参加しやすいparticipatory program(参加型プログラム)、health literacy向上program、self-management program(セルフマネジメント・プログラム)、peer support(ピアサポート)などがあります。WHOのpeople-centred health care(人間中心の保健医療)に関する資料でも、慢性疾患を持つ人のself-managementを支援する方法として、教育programやpatient or peer support groups(患者・ピアサポートグループ)などが挙げられています。Health literacyについてもWHOは、個人が自分の健康だけに取り組むのではなく、community action for health(健康のための地域活動)に参加できることを重要な社会的benefit(便益)の一つとしています。つまり、健康について学ぶ場を専門家から一方向に情報を受け取るだけの場所にするのではなく、参加者同士も経験や情報を持ち寄れる場にするという考え方です。

(患者会や患者サロンという具体的な場)
例えば、同じ病気を経験している人が集まる患者会やpeer support group、健康や医療について語り合えるサロン形式の場などがあります。日本でも、がん医療ではこうした場が実際に制度・実践の中に位置づけられています。厚生労働省の資料ではpeer supporter(ピアサポーター)による相談支援や患者サロンの運営が示され、国立がん研究センターも患者サロンを「患者や家族等が悩みや体験を語り合い、交流するための場」と説明しています。2026年にも国立がん研究センター中央病院で、患者・家族サロンを含め、患者・家族・支援者・医療者がともに学び語るevent(催し)が行われています。ただし、「このようなカフェやサロンが近年全国的に増加している」ということを示す統計は今回確認できなかったため、増加傾向までは断定しない方がよいでしょう。

(peer supportに期待できることと限界)
このような参加型programやpeer supportでは、自分と似た経験を持つ人から、「自分はこう対処した」「こういう情報が役立った」といった経験に基づくinformational supportを得たり、「自分だけではなかった」と感じるemotional supportを得たりすることがあります。Community-based peer support(地域型ピアサポート)はhealth literacyを高め、health inequalities(健康格差)を減らすための有望なapproachとして研究されており、peer-to-peer intervention(ピア間介入)の研究ではempowerment(エンパワーメント)、social support、self-management、health literacyなどが重要な構成概念として扱われています。ただし、その効果はprogramの内容、参加者、疾病、実施環境などによって異なりますから、「参加すれば必ずhealth literacyが高まり、健康状態が改善する」と断定することはできません。

(学ぶ人が、ほかの人を支える側にもなり得る)
また、このような場では、専門家から一方的に「教えられる人」として参加するだけではなく、自分自身の経験や知識がほかの人にとってresourceになることがあります。例えば、自分がどのように医療情報を探したのか、治療について医療者へどのように質問したのか、日常生活上の問題にどう対処したのかを共有することで、別の参加者が自分の問題を考える手がかりを得る場合があります。その意味では、参加型programは、本人のhealth literacyやself-managementを支えるだけでなく、参加者同士が互いの健康への力を支える可能性を持っています。ただし、「参加によって必ず他者のhealth literacy向上を支援する自信や意欲が育つ」という特定の因果関係までは、今回確認した研究から一律には言えません。より確実に言えるのは、peer supportでは経験や情報を共有し、social support、empowerment、self-managementなどを相互に支える可能性があるということです。

(健康をつくる「人と人とのつながり」)
こうして考えていくと、健康は必ずしも一人だけでつくられるものではないことが見えてきます。もちろん、食事や運動、服薬など本人自身の行動は重要です。しかし、その人が健康について学び、選び、困難に対処するためには、情報を教えてくれる人、話を聞いてくれる人、必要な時に実際に助けてくれる人、同じ経験を共有できる仲間、利用できる制度やcommunityなど、さまざまなresourcesが関係します。WHOがsocial connectionを健康やwell-beingの重要な要因として取り上げ、health literacyを個人だけでなくcommunity actionへ結びつけていることからも、人と人とのつながりは重要なhealth resource(健康資源)の一つだと考えることができます。ただし、本人に「もっと人とつながりなさい」と新しい自己責任を負わせるのではなく、孤立している人でも安全に参加でき、必要なsupportへaccessできるcommunityや制度をつくることまで含めて考える必要があります。それが、social determinants of health、salutogenesis、health promotionを「健康への力」という視点から結びつけるうえで、大切なところだと思います。