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SOCはストレスにどう働く?健康生成モデルの「評価・資源動員・緊張処理」の仕組みを徹底解説 #放送大学講義録(健康への力の探究第2回その13)

【要約】

 

健康生成モデルでは、SOCはストレッサーの評価と対処に重要な役割を果たします。アントノフスキーは、刺激をストレッサーかどうか判断する一次評価I、ストレッサーの意味を評価する一次評価II・III、適切な資源を動員する二次評価、対処結果から学ぶ三次評価という過程を論じました。強いSOCを持つ人は、利用可能なGRRs・SRRsから状況に適した資源を選択・動員しやすいと考えられます。緊張処理がうまくいけば、緊張が深刻なストレスへ転化することを防ぎ、健康側への移動を促す可能性があります。反対に処理が不十分ならストレス状態となり、健康破綻側へ移動する可能性があります。また、対処経験からのフィードバックによってGRRsやSOCが強化されることもあります。SOCは「究極の健康要因」ではなく、資源、評価、対処、フィードバックを結びつける健康生成モデルの中核概念と理解するのが適切です。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

ストレッサーの評価と対処のプロセス

(健康生成モデルの右側へ) 続いて、健康生成モデルの右側の話に移りましょう。ここでは、形成された Sense of Coherence(SOC:首尾一貫感覚)が、ストレッサーに直面したときの評価や、利用可能な抵抗資源の選択・動員にどのように関係するのかを見ていきます。強いSOCを持つ人は、Generalized Resistance Resources(GRRs:汎抵抗資源)や Specific Resistance Resources(SRRs:特定抵抗資源)を、自動的にただ「使う」というよりも、まず刺激や要求が自分にとってどのような意味を持つのかを評価し、その状況に応じて適切な資源を選択・動員すると考えられています。

(刺激やストレッサーを評価する) まず、人は自分が直面した刺激や出来事がどのようなものなのかを評価します。アントノフスキーは後期の理論で、この評価を複数の段階に分けて論じました。primary appraisal I(一次評価I)では、ある刺激をそもそも non-stressor(非ストレッサー)とみなすのか、それとも緊張を生じさせる stressor(ストレッサー)とみなすのかを評価します。ストレッサーと評価された場合には、primary appraisal II(一次評価II)で、それが自分のウェルビーイングを脅かすものなのか、あるいは良性・無関連・肯定的なものとして受け止められるのかを評価します。さらに primary appraisal III(一次評価III)では、そのストレッサーによって生じる感情や、対処すべき課題をどのように捉えるかが問題になります。したがって、「回避すべきストレッサーなのか、ストレッサーではないのか、対処すべきなのか」という単純な3択よりも、刺激やストレッサーの意味を段階的に評価していく過程だと理解する方が正確です。

(SOCは評価の仕方に関係する) この判断や評価にSOCが大きく関わります。アントノフスキーは、強いSOCを持つ人ほど、刺激を非ストレッサーと評価しやすく、ストレッサーであっても比較的良性・無関連・肯定的に捉えたり、危険性や葛藤を低く評価したりする可能性があると考えました。ただし、これは「SOCが強ければ何でも楽観的に考える」という意味ではありません。重要なのは、自分が直面している状況を理解し、どの程度の要求があり、どのような資源が利用できるのかを現実的に評価できることです。

(ラザルスの認知的評価との関係) こうした評価の発想には、Richard S. Lazarus(リチャード・S・ラザルス)らによる cognitive appraisal(認知的評価)とコーピング研究が重要な背景となっています。ラザルスらは、primary appraisal(一次的評価)でその状況が自分にとってどのような意味を持つかを評価し、secondary appraisal(二次的評価)でどのような対処手段や資源が利用できるかを評価すると考えました。アントノフスキーはこの研究成果をそのまま健康生成モデルに移したというよりも、ストレス・コーピング研究を重要な背景として利用しながら、「SOCの強弱によって評価、行動、フィードバックへの反応がどのように異なるか」という独自の健康生成的なモデルへ発展させました。

(対処すべきストレッサーと緊張) 対処を必要とするストレッサーと評価された場合、その要求によって tension(緊張)が生じます。健康生成論では、この緊張そのものを直ちに悪いものとは考えません。人間は生きている限り様々な要求に直面し、緊張が生じることは日常的なことです。問題は、その緊張をうまく処理できるかどうかです。緊張を処理できれば、それが深刻な stress(ストレス状態)へ転化することを防ぐことができます。

(SOCと資源の選択・動員) ここでSOCが再び重要な役割を果たします。強いSOCを持つ人は、決まった一種類の対処法をいつも使うのではなく、自分が利用できるGRRsとSRRsの中から、そのストレッサーに最も適切な組み合わせを選択・動員すると考えられています。GRRsは、知識、社会的支援、経済的資源、文化的安定性など、幅広い状況で役立つ資源です。一方、SRRsは、その特定の状況に直接役立つ具体的な資源です。アントノフスキーは、強いSOCを持つ人ほど「この状況では何が使えるのか」を見つけ出し、適切な資源を活用できると考えました。

(緊張処理に成功した場合) 緊張処理に成功した場合、その緊張は深刻なストレス状態へ発展せず、健康―健康破綻の連続体上で健康側への移動を促す可能性があります。ただし、「一度対処に成功すれば直ちに健康状態が大きく改善する」という意味ではありません。健康状態は多くの要因によって変化します。そのうえで、ストレッサーへの対処に成功し、緊張を適切に処理できる経験が積み重なることは、健康側への移動を支える要因の一つになります。

(成功経験とSOCのフィードバック) また、緊張処理に成功した経験は、SOCに対するフィードバックにもなり得ます。アントノフスキーは tertiary appraisal(三次評価)として、対処行動を行った後に結果やフィードバックを受け取り、それを評価し、必要なら行動を修正する過程を論じました。強いSOCを持つ人ほどフィードバックに注意し、「この資源が役に立った」「このやり方ではうまくいかなかった」と学習し、必要に応じて対処方法を修正すると考えられました。このような経験が繰り返されることで、GRRsが強化され、SOCもより強固になる可能性があります。ただし、一回の対処成功が直接SOCを強めるという単純な因果関係ではなく、反復される経験と学習の積み重ねとして理解する必要があります。

(緊張処理が不十分だった場合) 反対に、利用可能な資源を十分に動員できなかったり、対処方法がその状況に適していなかったりして緊張処理が不十分だった場合、緊張が持続して stress(ストレス状態)へ転化する可能性があります。ストレス状態が長く続けば、自律神経系、内分泌系、免疫・炎症系、行動、心理状態など様々な経路を通じて、健康―健康破綻の連続体上で健康破綻側への移動につながる可能性があります。したがって、「病原体とのつながりによって健康破綻する」とだけ考えるのは狭すぎます。感染症のように病原体が関与する場合もありますが、健康破綻への経路はそれだけではありません。

(SOCは「究極の健康要因」なのか) 健康生成モデルにおける中核要素であるSOCは、アントノフスキーによって健康生成論の中心概念として理論化されました。しかし、「アントノフスキーが究極の健康要因を発見した」と表現するよりも、「様々な抵抗資源を活用しながらストレッサーに対処し、健康側へ向かう過程を理解するための中核概念としてSOCを提唱した」とする方が正確です。SOCは global orientation(グローバル・オリエンテーション、全般的志向)であり、人生で出会う刺激が理解可能で、対処するための資源が利用可能であり、その要求に取り組む意味があると感じられる程度を表します。SOCそのものが直接健康を生み出す物質や資源ではありません。

(健康生成モデルが描いているもの) 健康生成モデルは、健康―健康破綻の連続体上で人がより health ease(健康)の側へ向かう過程について、社会文化的・歴史的文脈、GRRs・SRRs、SOC、ストレッサーの評価、緊張処理、フィードバックなどの要素がどのように関係しているのかを描いたモデルだと考えることができます。その中でSOCは非常に重要な役割を果たしますが、SOC一つだけが健康側へ人を押し上げるわけではありません。利用可能な資源、社会環境、ストレッサーの性質、対処経験などとの相互作用の中でSOCが機能することによって、健康側への移動が支えられると考えるのが適切です。

(健康生成モデルの中でのSOCの位置づけ) つまり、SOCは健康生成モデルの「中枢」と表現しても理解しやすい概念ですが、それは他の健康資源を不要にするという意味ではありません。強いSOCを持つ人は、自分の周囲にある資源を認識し、ストレッサーを現実的に評価し、その状況に合ったGRRsやSRRsを選択して利用し、対処結果から学習しやすいと考えられます。したがって、健康生成論が描いているのは「SOCが健康を作る」という単純なモデルではなく、「資源、SOC、評価、対処、フィードバックが互いに関連しながら、健康―健康破綻の連続体上の位置を変化させる」という動的なプロセスなのです。